第167話 都市ゼルガードの実態
俺達は手短に準備を終えると移動を開始した。
メンバーは俺、琴音、狐鈴、師匠、真田さん、御影さん、結城さんだ。
ゼルガードの南門まで来ると、カルミラが待っていた。
機動式神で偵察した時は、武装したモンスターが集まっていたが、今は目に見える範囲にはない。
気配から察するに城壁の裏で待機しているみたいだ。
「待たせたな」
「そうでもない。一つだけ注意事項がある」
「なんだ?」
「薄々気づいていると思うが、この都市は特殊な結界で守られている」
確かにそうだ。機動式神で偵察した時は感じることができなかったが、生身で近づくにつれ、都市に結界が張られているのに気づいた。
「防御結界か?」
「外敵から都市を守る結界でもあるが、内部でも魔法や術を封じる結界だ。魔力を放出できても、それを魔法や魔力弾として具現化できないようになっている」
「なんでそんな結界を張ったんだ?」
「我々が張ったのではない。とある方が結界を張ってくださったのだ」
「結界内部で魔法が使えないのって、不便じゃないか?」
「不便って……魔法なんて使われたら危ないだろ!?」
逆に驚かれた。
日本で例えるのなら、魔法は銃みたいなもの。確かにそう言われたら危ない。
「た、確かにそうだな」
「……人間と我々では考え方が違うのだな」
この都市のデーモンやモンスターの考え方の方が珍しいと思うぞ。
「お前達は愉悦之神を知っているか?」
案内妖精の話によると、こいつらは享楽之神が与えた役割を放棄して、愉悦之神に寝返った者達らしい。
「お前達こそ、なぜその名を知っている!?」
「いや、魔族を助けている神がいると、噂を聞いてな」
まずいまずい。とりあえず適当にごまかそう。
「そうか。愉悦之神がこの結界を張ってくださったから、我らは魔王軍から離反できたのだ」
神による結界か。これは壊せそうにないぞ。
ただ、間近見た感じ、防いでくれるのも中で使用できないのも、魔法だけだな。
スキルは使えそうだし、物理的攻撃なら外から都市に攻撃が通りそうだ。
魔法だけとはいえ、なぜ籠城しない?
俺達が攻めてきたって立て籠もればいいだろう。
城壁も立派な物がある。攻城兵器でももってこない限り、魔法じゃないと破壊できそうにないぞ。
何かまだ理由がありそうだ。
「盟主様達がお待ちだ。ついてこい」
俺達はカルミラに連れられて都市に入ると、そこは人間の都市とそれほど変わらない光景が広がっていた。
ただ、露店に並ぶ食べ物は、ちょっと食欲が湧かない。
食べれるものなのかと、疑ってしまうものばかりだ。
そして見たことがある野菜は、どれも萎びていて小さい。
そういえばアルベールが言っていたな。魔族領は過酷な地で作物が育たないと。
俺達を遠巻きで見ているデーモンやオークは、みんな痩せていた。
「皆痩せているだろう?」
先頭を歩くカルミラは、振り向きもせずに言った。
「……そうだな」
「愉悦之神によって、私達は様々な感情を得て文化を得た。その結果他種族を襲わなくなった。昔はオークは餌だと思っていたのだがな、今となっては食べるなどあり得ない。想像しただけで吐き気がする。我々は二足歩行の生き物が食べられなくなったのだ」
「露店にならんでいるのは?」
「動物系モンスターの肉が大半だ。植物系モンスターは少ないから貴重なんだ」
「食物が育ちにくい環境だから、植物系モンスターを食べるのかな?」
「……そうだ」
カルミラが顔だけ振り向いた。
「もしかして虫を巣を焼いたのはお前達か?」
「近くの町のことか?」
「そうだ」
「あぁ俺達だ。アストラルゲートを使うために一掃した」
「そうか。アレのせいで食物がみんなやられていた。感謝する」
「ねぇ、秀ちゃん」
琴音が密着して小声で声をかけてきた。
「ん?」
「食べれそうなモンスターの死骸を渡そっか。換金するの面倒だから溜まってたし」
「確かにそうだな。交渉にも使えそうだ」
こいつらが立て籠もらなかった理由は食料だった。
籠城すれば狩りに出れず、すぐに食料が尽きてしまうのかもしれない。
じゃあ魔王軍がこの都市を攻めない理由はなんだ?
離反した魔族やモンスターを放置している理由は?
魔王軍も食糧難で構っていられないってことか……。
いや、一番の理由は享楽之神が制裁の必要なしと判断したからだろう。




