第166話 新たな使者
俺達は待つように言われた場所で野営をするために、それぞれパーティーごとにテントを張っていた。
人数も多いので野営地みたくなっている。
俺と琴音はエアテントから出て、雑談配信をしながらデーモンが現れるのを待った。
すると昼飯を挟んだ後くらいに、強い気配を感じた。
空を見上げると、さっきのやつとは別のデーモンがやってくるのが見えた。
身なりも全然違うし、何より女性だ。
『彼女は陽炎。十二姫将の陽炎です。私を呼んでください。』
翡翠から赤ウルチャで書き込みがあった。
赤は目立つけど、もっと安いウルチャでも気づくぞ。
単なる連絡事項にお金を使う必要ない。
なんなら念話でもいいだろう。今度注意しておこう。
「翡翠」
金色の襖が現れて勢いよく開くと、翡翠が現れた。
「十二姫将が一人、翡翠。ここに参上です」
翡翠は案内妖精に向かって前かがみになり、笑顔を振りまきながら、人差し指を口に当ててウィンクした。
チャット欄が一気に盛り上がって、目で追いきれないスピードで流れている。
書き込みを見る限り、きっと配信画面では、薄い水色のワンピースから見える谷間が、アップになっているのだろう。
ここ俺と琴音のチャンネルなんだけど?
センシティブ認定されたらどうするんだ!?
翡翠は何度も妙光如来様に怒られているらしいけど、全然懲りてない気がする。
デーモンの気配を感じたのか、師匠達もテントから出てきた。
真田さんが翡翠に視線を向けると、御影さんに足を踏まれていた。
俺は翡翠の配信を見て思い知った。
翡翠って一見清楚に見えるが、センシティブの塊だって。
気を付けよう。
空から降りてきたデーモンは、騎士階級の令嬢っぽい服装をしたクールビューティーだ。
深紅の上着と黒いロングブーツ。華やかさと実用性を両立させた服装。
筋肉質ではなく、無駄のないしなやかな体だ。
デーモンの服ってどうなっているんだ?
こんな豪華な服を作れる技術があるように見えない。
もしかしたら、服も体の一部なのかもしれない。
紅羽の調伏前は黒いゴスロリを着ていたし、デーモンではないけど、白夜は吸血鬼だったころ、服は体の一部だった。
さっきのデーモンもそうだったが、俺は違和感を感じていた。
それが今になってわかった。
デーモンってもっと大きいはずだ。こいつもさっきの奴も、身長が俺達とそう変わらない。
今までのデーモンは、肌の色も青だったり紫だったり人間とかけ離れていたが、こいつらは俺達と同じ色だ。
角と尻尾がなければ人間と間違えてしまうだろう。
そういえば偵察で見た人間っぽいやつって、デーモンだったのか。
そしてなにより瘴気を発していない。どういうことだ?
紅羽の調伏前だって瘴気を出していたはずだ。
「私の名はカルミラ。お前たちの案内役だ。待たせて悪かったな。交渉の場が整ったので迎えに来た」
カルミラは俺達を値踏みするように見た後、口を開いた。
「交渉の場はお前達の都市か?」
今のような状況だと、自分達の都市に得体の知れない俺達を入れるのは、危険だと思うぞ。
だから都市の外に、大きなテントを設営してそこで行うんだと思うけど、そんな様子はなかった。
「都市の中央にある大聖堂だ。我らの都市ゼルガードには三つの組織がある。その組織の盟主や重鎮を集めた。あまり大勢で来られても困る。そちらは多くて六人までだ」
となると、俺、琴音、師匠、真田さん、御影さん、結城さんか。
「いや、後一人。七人で行かせてくれ」
狐鈴もつれていきたい。
アリサはこういうのに向かないだろうな。
「……いいだろう」
「では準備をするので少し時間をくれ」
「承知した」
カルミラは俺が返事をしたことを、少し疑問に思っているような顔をした。
師匠に言われて俺が交渉する流れになっているが、事情を知らないカルミラからしたら、俺と琴音が一番年下だ。
普通は俺じゃないよな。そうだよな!
どうしてこうなった……
交渉にはプレイヤー全員の命がかかっているようなもんだぞ。
もっと適任者がいるが、やるからには失敗は許されない。
そのために保険として師匠や結城さんが後ろにいるが、プレッシャーで押しつぶされそうだ。
師匠達は準備のためにテントへ戻っていった。
「陽炎」
翡翠が胸に手を当て憂いのある表情になり、カルミラに優しく静かに声をかけた。
「む。なんだ貴様は? カゲロウとはなんだ?」
カルミラは翡翠に話しかけられると、一歩下がって警戒した。
翡翠は自分の力を封印するように抑えているが、その滲み出る力を感じ取ったのだろう。
「私は翡翠。やはり私のことを覚えてないのね。時々思い出さない? ここではない場所。今の自分ではない記憶を」
「……なぜそれを?」
カルミラは明らかに動揺していた。
「これでも少し前まで水の精霊だったのよ。秀一様が記憶を戻してくれたの」
そう言って翡翠は俺に手を向けた。
試してみるか。
「陽炎」
「ふにゃん」
俺が陽炎と呼んだ瞬間、カルミラの顔がフニャフニャになって赤くなった。
「えっ?」
「くっ! なんだこの感覚は……」
カルミラはハッとして顔を正した
「ねぇ陽炎。心配しないで。記憶が戻ったら楽になるわ」
「ええい! その名で呼ぶな! 私は私だ! ゼルガードの南門で待っている! 準備ができたら来い!」
そう言ってカルミラは空を飛んで戻っていった。
「あら? 失敗しちゃった?」
「いや、いい布石になったよ。ありがとう」
「いえ。私はあなたの式神ですから」
そう言って翡翠は、再び現れた金の襖の向こうへ消えていった。
最後のセリフはまずくないか?
去り際の翡翠の笑顔も、案内妖精に見えていなくてよかった。
視聴者は高度AIでしゃべるコラボNPCに見えているらしいが、限度があるだろう……




