第165話 デーモンとの交渉
ビンスの町を出発して二日後、次の都市が見えてきた。
もうエイの移動に慣れたのか、アリサは狐鈴と雑談コラボ配信をしている。
上空だから風の音がうるさいけど、対風防御障壁を張って防いでいた。
そういえば何日もギルドに戻っていないな。
俺達のライブ配信はどうしても長時間になってしまう。
朝や昼間にライブ配信を見る人は少ないし、何時間もあるアーカイブ動画を全て見るリスナーはほんの一部だ。
だから見どころをまとめた切り抜き動画に需要がある。
普段は俺達が作ったり、切り抜き動画職人が作ってくれるが、今はしろプロのスタッフが切り抜き動画を作ってくれる。
アリサみたいに有名になると、自分で作ることはないそうだ。
そして出来上がった切り抜き動画を式神達が同時視聴配信するなど、バックアップも万全だ。
これが企業に属するってことなのか……
俺と琴音は、鷹型の偵察用式神を使って、都市から少し離れた上空から様子を伺った。
近寄り過ぎて、撃ち落とされたくないから、ある程度距離を取っている。
偵察していることがバレるのもダメだが、こいつは買ったばかりの新品なんだ。
「ねぇ。秀ちゃん。あの都市、廃墟じゃないね。モンスターが生活してる?」
琴音が言う通り、都市の家々は壊れてない。煙突から煙が上がり、洗濯物が揺れているのが見えた。
ただ、そこで生活しているのは、人ではなく人型のモンスター達だ。モンスターが服を着て、人間と変わらない生活をしている。
一見人間に見える奴もいるけど、角や尻尾が生えていた。
「撤退!」
「了!」
鎧や武器を装備したデーモンやオーガ達が、町の入り口に集まり出したので、俺と琴音は慌てて機動式神を戻した。
しかしそれは取り越し苦労で、どうやら機動式神じゃなくて、遠くに陣取っていた俺達に気づいたみたいだ。どちらにしても潮時だ。
「一戦やるつもりだな」
「射程距離に入ったら、一斉射しよっか」
そう言って琴音が呪力を高めていく。
一見過激な対応に見えるが、人間のふりをして騙してきた悪鬼妖怪を何度も見てきた。
煮え湯を飲まされたことだってある。
そんな経験から出た対応だ。
「琴音。早まるでない」
狐鈴が指した方向を見ると、翼を生やしたデーモンが三体飛んでいた。
遠目の術でそいつらを見ると、デーモンの顔に緊張や恐怖の表情が見えた。しかもそいつらだけ武器をもっていない。
デーモンは武器を持っていなくても戦えるけど、戦う意思がないと見るべきか?
デーモン達はこっちが気づいたことがわかったのか、両手を広げて見せた。
武器を持っていない、隠してもいないという意思表示だ。
「少し様子をみよう」
するとデーモンが何か大きな声を上げた。
しかし俺達はエイに乗っていて上空だ。
風の音でこっちまで声が届いてこない。
「何を……! この……人間に……」
「風が強くて! 何を言っているか! 聞こえない!」
「下に! 降りろ!」
そう言ってデーモンは地面に降りて行った。
上を取った方が有利だ。ここから魔法でも術でも放ったら、すぐに片がつく。その後町に魔法を放てばいい。
……まるでこっちが侵略者だな。
「とりあえず話を聞いてみよう」
「クエストかも知れないしね」
「何より師匠が手を出してない」
師匠達のエイを見ると、地表に向かって下がっていった。
俺達が地表に降りると、馬組も追いついてきた。
「何をしに来た! この都市の者は人間に危害を加えない! 帰ってくれ!」
真ん中のデーモンが一歩前に出て叫んだ。
まるで余裕がない。本当にデーモンなのか?
デーモンにしてはとても違和感を感じるんだ。
武装しているからか?
鑑定しても『アークデーモン・レベル324』としか出てこない。
師匠を見ると、顎をクイっとあげた。
お前が交渉しろって言ってるみたいだ。
こいつらは今までのデーモンとは何か違う。俺達を見ても戦う意思がない。
どう話せばいいのか……。
戦うよりよっぽど難しい。
「この都市のゲートを使わせて欲しい」
「なんのためだ?」
「俺達は魔王を倒しに来た。お前達は人間に手を出していないというが、魔王軍ではないのか?」
「俺達は魔王と決別した。魔王がどうなろうと知ったことではない」
「襲わないというなら、お前達には手を出さない。だからゲートを使わせて欲しい」
「俺の一存では決められない。交渉の場を設けたい。それまでここで待っていてくれないか?」
俺は師匠を見ると、頷いてくれた。
「わかった」
「感謝する」
デーモン達はそう言って戻って行った。
「師匠。どう思います?」
「わからねぇ。ただ、今までのデーモンと違うな。秀一はどう思う?」
「こんな時は案内妖精に聞いてみるのがいいかと」
俺がそう言うと、パッとセレナが現れた。
「あいつらは裏切り者よ!」
「裏切り者?」
「不遜にも享楽之神様が与えてくれた役割を放棄して、好き勝手始めた奴らよ。しかも愉悦之神に寝返った裏切り者よ。そんな奴らが何を企んでいるのか知らないわ!」
「役にたたねぇな。案内してねぇじゃねぇか?」
師匠の言うことはもっともだ。
「し、知らないわよ! こっちが用意したクエストを放棄してるんだから。もうグランドクエストの終盤だって言うのに、こっちは迷惑しているのよ!」
「もしかしたら、愉悦之神は輪廻に戻りたい者、この異世界でそのまま暮らしたい者、それぞれ別の手で助けているんじゃないか?」
「……罪は償わないといけない。そうしないと魂が汚れたままよ」
それを聞いて、アリサがビクンと小さく震えた。
俺は少し移動して、アリサから案内妖精を隠す。
アリサはもう精算したはずだ。
「とりあえず、あいつらを待つしかないですよね。師匠」
「おんまえよぉ。一々俺様に聞くな。せっかく天部パワーだっけ? それを集めやすく華を持たせてやってるつーのによ。頭スカスカですかっ!?」
師匠が馬鹿にするような顔で覗き込んできた。
正直めっちゃムカつくけど、それ以上に怖いし、正論過ぎて言い返せえない。
「うぐっ……」
俺は師匠の言葉に何も返せなかった。
「交渉とリーダーシップ。お前に必要な課題が見つかったな」
そういうのは師匠に任せておけばいいと思っていたツケが、回ってきた来たのかもしれない……




