第163話 魔物の巣と化した町
俺達は再び攻略の最前線へと戻った。
今まで通り、俺、キャサリン、師匠のパーティーはエイの式神に乗り、残りは馬で移動だ。
ムリターヴァナにはアストラルゲートがなかったので、もう一つ先にあるビンスという町まで足を延ばした。
ビンスの町は遠目で見ても廃墟になっていて、モンスター達が巣を作っていた。
一番目立つのは巨大なワーム――ミミズのモンスターだ。
大きさは六両の電車くらいあるかな……
上空から見たところ、昆虫系や爬虫類系のモンスターが蠢いていて、閲覧注意を呼びかけないといけないかもしれない。
そして人型のモンスターは見当たらず、式神の気配もない。
町を観察していると、隣のエイから光の魔法が上がった。
師匠の合図だ。
俺はエイを操作して、静かに地面に降りた。
馬に乗っていたプレイヤー達も、俺達の周りに集まって馬を止めた。
ここまで来たプレイヤーの数は五十名と少し。それなりの圧になるな。
「ちょいと待ってな」
師匠が懐から式札を取り出すと、印を結びながら呪文を唱えて、空に向かって放った。
式札がボッと燃えると、炎から鷹が飛び出し、モンスターが蠢く町へ向かって飛び立った。
師匠が目を瞑って動かなくなった。式神の目を通して、町の様子を見ているのだろう。
「あったぞ。西の外れだな。案の定ぶっ壊れてるな」
まぁそれは想定内だな。そのための王立軍だし。
「虫とか爬虫類が苦手な奴いるか?」
アリサと数人が手を上げた。
「お前ら馬の番な。残りは空に上がって攻撃だ。ゲート以外更地にしちまえ。卵とか残ってたらヤバそうだからな」
確かにな。魔物の卵がそこら中にあったら、怖すぎてゲートの復旧どころじゃない。
俺達は飛行の魔法を唱え、空へと飛び立った。
町のすぐ近くまで来て見下ろすと、コメント欄が閲覧注意で埋め尽くされた。
「案内妖精。モザイク処理」
「もうやってるわよ」
モザイクあっても閲覧注意かもしれないな……
「「「コメント・チャージ!」」」
周りのプレイヤー達から、次々とコメント・チャージの声が聞こえた。
享楽之神が再びバランス調整を行ったのだ。
俺達は天部の領域に少し踏み込んだために、応援の力でパワーアップできるようになった。
しかしそうなると他のプレイヤーと大きな差がついてしまう。
だから不公平にならないように、ダンジョン以外でもコメント・チャージができるようになったんだ。
もちろん俺達もコメント・チャージを使えるが、効果が同じなので重複しない。
ただ、コメント・チャージと唱えた方がみんな応援してくれる。
リスナーは天部のことなんて知らないし、俺達だけコメント・チャージしないのも不自然だよな。
「コメント・チャージ!」
俺も唱えると、コメント欄が目で追えないくらいのスピードで応援メッセージが流れた。俺達のチャンネルもリスナーが増えたな。チャンネルが大きくなったのを実感できて、胸が高ぶる!
「プラズマ・ジャベリン!」
俺の手の先に真っ白な槍が出現すると、コメント欄も盛り上がり、威力がグングン上がっていくのがわかる。
無詠唱のスキルで、ラストスペルだけで魔法を放てるが、これってちゃんと詠唱した方が盛り上がって威力が上がるのでは……
そう思いつつプラズマ・ジャベリンを放った。
稲妻の残滓を残しつつ、真っ白な槍が空を駆け、大きなトカゲ型モンスターに突き刺さり、稲妻の枝葉を伸ばしながら大爆発を起こした。
ここまで来たプレイヤーの数は五十二名。上空から様々な魔法が連打され、ビンスの町は地獄と化した。
巨大なワームが上空に向かって伸びても、距離を取って炎と稲妻によって焼かれ、羽虫の群れが襲い掛かってきても、突風や竜巻の魔法で蹴散らされた。
そして飛べないモンスターは一方的になぶり殺しになった。
「ギャハハッ! おめぇら! 俺様に力を渡しな! コメント・チャージ!」
直ぐ近くから、あまり聞きたくない声がした。
師匠がそれを使ったら、反則だろ!
「ファイア・ボール!」
それは割と早く覚えることができる中級魔法。
師匠が突き出した手の先に火球が現れ、回転しながら膨れ上がっていく。
そして瞬きをする間に師匠の身長と同じくらいの大きさになった。
「くらいな!」
オレンジ色の火球がビンスの町に着弾すると、轟音と共に大爆発を起こした。
様々な虫型モンスターがバラバラになって吹っ飛び、巨大なワームがのたうち回った。
「ギャーハッハッハァ! 気持ちいぃな! おいっ!」
師匠のファイアーボールを見て、次々と魔法を閃いていく。
まるで案内妖精が『術じゃなくて魔法を使え』と囁いてくるようだった。
俺は体を伸ばして迫りくるワームに向けて腕を伸ばした。
「ファイア・スティンガー!」
伸ばした腕の周りに、オレンジ色に輝く炎の槍が現れた。それも五つだ。
俺はワームに狙いを定め、上から下へ薙ぎ払うように炎の槍を次々と放った
一本目がワームの頭に突き刺さって内部から爆発し、残りの四本も次々とワームの体に突き刺さって、爆発していった。
ドパンッドパンッと内側から炸裂するのは、閲覧注意過ぎる。
高熱によって黒焦げになってるだけまだマシか。
次に襲い掛かってきたのは、こぶし大くらいのコガネムシの群れだ。
一匹一匹はレベルが低い小型のモンスターだけど、集まれば脅威だな。
「ファイア・ストーム!」
コガネムシの群れに向かって、炎の竜巻を放つと、コガネムシは次々と吸い寄せられて燃えていった。
今度は大きな蜂型のモンスターが三匹飛んできて、針を連続発射してきた。
蜂の針って一本だけじゃないのかよ! いや、異世界のモンスターに現実の常識を当てはめてたらいつか死ぬな!
「ファイア・アロー!」
俺の周りに炎の矢が、ボボボボボッっと次々と現れては、発射されていった。
覚えたての頃は三本がやっとだったけど、今では二十本近く撃ち出せる。
炎の矢はまるでフルオート射撃のように飛んで行き、蜂のモンスターを撃ち落としていく。
「まるでシューティングゲームだな」
琴音が寄ってきたので、声をかけた。
「近寄らせたらPVも同時接続数も落ちそうだからね。みんな必死だよ」
周りを見ると、プレイヤー達の攻撃魔法によって、まるで戦場のようだった。
ビンスの町が次々と爆発し、モンスター達が燃やされて、バラバラに吹き飛ばされ、蹂躙されていた。
アストラルゲートも被害がでるんじゃないか? って思ったら、そこは避けているし、誰かがゲートに防御魔法をかけたみたいで、爆風が逸れていた。
「さて、この虫くせぇ町のゲートを守るパーティを決めたいんだが、立候補するところある?」
戦いの後に師匠が聞くと、複数のパーティから手が上がった。
「あ? 意外といるな? ハズレな役割だと思うが?」
「俺達しろプロに入れたんですよ! 交代でギルドに戻って配信したい!」
「私も! 企業系VTuberなんて夢みたい! できれば二パーティで交互で守りにつきたいです!」
「……あぁ……そう……」
攻略よりも配信を選ぶプレイヤー達に、師匠がピキピキとキレそうになってた。
「みんな悪いな!」
俺は師匠とみんなの間に入った。
師匠が背後にいるので、口パクで合わせろと言うと、ハッと気づいた何人かが頷いた。
「本当はお前らばっかりじゃなくて、俺達もいいところ見せたいけどさ。実力的にここらで潮時かなって」
「そうそう! ここを守るのだって重要な役目だよ! 帰れる道を確保しないと、最前線に行けないしね!」
後ろで師匠が深く息を吐いた。
「そうだな。わりぃけど頼むわ」
なんとか場が収まってよかった。
ビンスの町ではゲートの守りに二パーティーほどを残して、俺達は次の都市へ向かった。




