第160話 新タレント事務所設立!?
俺は今夜の配信を終えて、一息行きついた。
俺達はダムゼルまで戻って王国軍と合流し、復旧したアストラルゲートを使って、常夏の島経由でギルドへ戻っていた。
最近連戦続きだったからな。
みんな疲れていたし、ライブ以外の配信もしたかった。
最前線からギルドに戻るなんて、アストラルゲートがあるからできることだな。
まぁそのために、魔族領を侵攻する際、王国軍と協力して、ゲートを設置しながら進んでるいるんだけど。
ただ……ムリターヴァナにはアストラルゲートがなかった。
あそこに住む獣人達は、本能が色濃く残っていて、アストラルゲートを使うような文明にまで発展していなかったんだ。
隣でPCをシャットダウンしていた琴音が、俺の手をギュッと掴んだ。
「琴音……」
「秀ちゃん……」
俺は琴音とイチャイチャしようとしたら、ドアをノックする音がした。
琴音の少し恥じらっているけど、期待とドキドキに満ちた笑みが凍り付き、わずかに殺気が漏れた。
「もう……」
ドアの向こうから漂ってくる気配と呪力は……アリサだな。
琴音もそれがわかって殺気が治まっていく。
アリサは死にかけた際にこぼした告白によって、現在大炎上中だ。
ほとんどのリスナーは同情的で、アリサの命を救った俺に対しても感謝してくれた。
しかし一部の声の大きいリスナーによって、大げさなスキャンダルにされた。
百合営業したのもまずかった。
リスナーを騙したんだと追い打ちをかけられた。
まぁぶっちゃけそれはそう。
鍵を開けると真っ青な顔をしたアリサが立っていた。
「どうしよう……このままだと私クビよ……」
とりあえずアリサを部屋の中に入れて話を聞くことにした。
アリサはさっきまで、事務所のアカウントだけの限定配信で、マネージャーと打合せを行っていたそうだ。
使ったことはないけど、LunaTubeは特定の人だけの限定配信ができるんだ。
事務所側も同情的で、最初は厳重注意だけで済ます予定だったが、あっちこっちで大炎上して、庇いきれなくなったそうだ。
あの告白はファンへの裏切り行為と見なされ、百合営業はファンを騙したと炎上している。
一般のリスナーや俺達にとって、炎上騒ぎで終わる話でも、アイドル事務所とその株主には別の問題が起きていた。
アイドル事務所の株価がナイアガラダイブのように下がったんだ。
VTuberの事務所、それもアイドル事務所にとって、タレントのスキャンダルは業績へ影響が出る。
不安になった株主達は株を売る。そうなると事務所の株価が下がるんだ。
しかも今回は滝のように下がる大下落になった。
リスクのあるタレントをこのまま抱えておくのはまずいと考えるのは、株主や事務所のトップ層からすれば当然の結論だった。
それが事務所を代表するような人気タレントだったとしても。
結果アリサは厳重注意だけで済まず、アイドル活動の停止になってしまった。
アリサは事務所のトップアイドルとして輝いていた。それだけに大事となり、臨時株主総会まで開かれることになったそうだ。
そんなことをアリサから教えてもらった。
高校生の俺にとって、企業や株の話は全然身近じゃなくて、難しい話だったけど、企業に所属しているVTuberは、俺達個人勢VTuberと違って、関わってくる責任の重さが全然違うんだと、改めて感じた。
「クビにならなくても、居づらくなっちゃった……」
株価が下がれば企業の資金にも影響が出る。そうなると他のタレント達の活動にも影響が出てしまうのだろう。
そうなれば、何をしているんだと、メンバーに思われるのだろう。
「私、もうそろそろ登録者数が四百万人に行くところだったんだけど、百六十万人に下がってたわ」
「それでも百六十万人いるなんてすごいぞ」
「そうね。まだ百六十万もファンがいることに感謝ね」
アリサは笑って見せたけど、今にも泣きそうだった。
「残ったリスナーはみんな同情的だけど、片思いでも、誰かを好きになったアイドルなんてだめね。去り際のリスナーからね。う……裏切者とか、恋を表に出すな……とか、マイナスな書き込みがいっぱいだったわ」
アリサの声と体が小刻みに震えていた。
「ねぇ。秀一君。私……どうしたらいいの?」
そんなの答えられない。
俺はまだ学生で、陰陽局で言われたまま、霊的災害に対処してきただけのバイトでしかない……
「……再就職先なら紹介できるぞ」
「どうせ陰陽局でしょ! そうじゃなくて! ファンは少なくても、私はまだアイドルVTuberでいたいの!」
「秀ちゃん。今のはないよ。謝って」
「ごめんなさい」
(それに関して私に良い提案があります。召喚してください)
月華から念話が届いた。え? 見られてる?
ふと気になってアリサを霊視すると、ポケットの中に人形の札っぽいのがあるな……
経過が気になるから、監視しているのか?
「月華」
壁際に襖が現れ、月華が出てきた。
「アリサを式神にするように提案したのは私です。私が責任を取りましょう」
「え? どういうこと?」
「陰陽局でタレント事務所を設立します。対象は異世界に転移した人間全員です」
「えええっ! 私も!?」
琴音が腰を浮かした。
「琴音様はタレント兼陰陽師でお願いします」
「た、大変だ……」
まぁ陰陽師が出張る仕事なんて、そうそう起きないからな。
兼業はいいことだと思う。
「事務所を立ち上げるから引き抜くってこと?」
「はい。そうです。アリサのIPごと買い取ります」
IPとは知的財産のことだな。つまりキャラクターの見た目、名前、設定といった著作権だ。
普通の引き抜きだったら、名前や見た目を変えないといけない。
「え? それってすごく高いわよ」
「はい。三億で話をつける予定でした」
「ええっ! そんなにするのか!」
俺が想像していた額と桁が違いすぎる!
「当然よ!」
俺の驚きに、アリサはドヤ顔だ。
「私くらいになるとそれくらいが相場よ!」
「そうでしょうね。今までは……」
「え?」
「今回の炎上騒動で、半値で行けそうです。上手く行けば一億切れます。だからお金の心配はしないで大丈夫ですよ」
「……あ~え~と……そうなんだ……」
そうじゃないだろ!
俺もデリカシーがないとか、気がきかないとか言われるけど、月華も現実主義すぎるだろ!
「でも思い切ったわね。私は見た目も名前を変えてもいいけど……」
アリサは明らかに動揺していた。
そうだよな……自分の価値が下がったことを、数字で突きつけられるなんて……
俺、これからもっと言動に気をつけよう。
「そのお金。私が出すわよ」
「そうですね。あなたが百合営業で得たウルチャや、他にもアリサが自覚していなくても、似たような形で得たウルチャの金額はこれです」
月華は請求書らしきものをアリサに手渡していた。
「これが私の罪の金額……。すぐに魂を安定できなかった悪の所業ってことね」
「ええ」
「払います」
「わかりました。後ほど手続きをしましょう。ここからが本題なのですが、事務所の設立は、アリサのためではありません。転移者全員のための救済計画のためです」
「どういうことだ?」
月華はこれからの俺達にとって、とても大事なことを語り出した。




