第159話 式神になったVTuberアリサ。浄土世界で修行する。
私はアリサ。どうやら死んだみたい?
気が付いたら白銀の世界にいたわ。
ふわふわの大地に、金や青の光が漂う空。
遠くには見たことのない山……
ここってどこ?
もしかしてあの世ってやつ?
視線を感じて後ろを振り向くと、巨大な何かがいた。
ひれ伏したくなるような圧倒的な力が、波のように押し寄せてくる。
これは私が異世界転移した時に感じたあの力に似ているわ。
いいえ。あの時感じたものとは比べ物にならないほどの力を感じる。
最初それが何かわからなかった。
足の指?
見上げると巨大な仏像……いいえ。仏像のような巨人がいたわ……
スケールが大きすぎて見上げても顔まで見えない。
首が疲れてふと視線を下げると、仏像のような巨人は消えていて、代わりに人間サイズの仏様がそこにいた。
私はわかった。なぜかわからないけど、わかってしまった。
目の前にいるのが、秀一君達がいつも口にしている、妙光如来様だって。
私は自然と膝が折れて、正座になって手を合わせた。
「よい。愛理沙よ。すぐにでもその魂を定着してあげたいところですが、お前の悪行によりそれができぬ」
悪行……百合営業でリスナーを騙したことかしら……
それとも……いっぱいありすぎてわからない。
私ってこんなにも悪い人間だったのね……
胸の奥がじんわりと痛い。
「その後悔。しかと受け取った。ならばその気持ちを持ったまま、ここで修行をしなさい」
心を読まれたのかしら? 地獄に落ちないですむの?
「いいえ。愛理沙はまだ生きていますよ」
「え!?」
「ただ、今はとても危険な状態です。秀一によって式神になり、かろうじて魂がつながった状態なのですよ」
「……私……まだ生きている?」
「本来なら死すべき定め。しかしここに来たのも、秀一の式神になったのも、また縁。多くの罪を背負いし者よ。私の弟子や私が切り離した子を助けた徳により、修行を許しましょう。さすれば魂の定着も早まるでしょう」
「ありがとうございます」
圧倒的な存在の前で、それだけ言うので精一杯だった。
「後のことは煌姫に聞きなさい」
妙光如来様はすぅっと消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
私はしばらくの間、浄土世界で妙光如来様の加護のもと、十二姫将達と一緒に過ごすことになった。
妙光如来様は私が死ぬ運命が見えていたから、浄土水を秀一君と琴音ちゃんに渡したのかもしれない。
私が秀一君と琴音ちゃんの助けになっていたから、罪があっても救ってくれたのかもしれない。
これが縁というものなの?
今の私の状態だけど、秀一君が式神にしてくれたおかげで、どうにか魂を縫い留めることができているみたい。
これは妙光如来様のお力が、秀一君を通して私に流れているからできることらしい。
だから秀一君の式神をやめたら、魂が抜けちゃうみたいなのよ。
魂が私の肉体にいる状態が正常だって判断したら大丈夫らしいけど、それまで数か月かかるみたい。
さらに妙光如来様とのつながりを得れば、魂の安定も早まるし、強固なものになるらしいから、私は浄土世界で仏教の勉強をすることになった。
しかも妙光如来様から直々に! それだけじゃなくて、他の如来様、菩薩様からも直接教えてもらえるなんて、実はすっごくありがたいことだったりして?
時の流れが違う場所で、これでもかと仏教を習い、式神達に混ざって修行もした。
ここで数か月たったじゃん! って思ったらこの世では一日も経っていないらしい。
人生そんなにうまくいかないものね。
そして私も秀一君や琴音ちゃん、そして式神と同じ天部の見習いになった。
普通は仏教の高僧になっても、なかなかたどりつけるものではないらしいけど、特別扱いらしい……
如来様や菩薩様から説法を聞いたことで、仏法守護の仲間入りになったみたい?
秀一君と琴音ちゃんがしてきた修行とはまた違うみたいけど、秀一君達がパワーアップした理由がわかったわ。
う~ん……これであそこまで変わるものかしら……
◇◆◇◆◇◆◇◆
煌姫が念話で秀一君に、私を召喚するように言ってくれた。
念話……まだよくわからないから使えないのよね……
目の前に光の筋が走った。
その光はまるで線画を描くように走り、襖の形になった。
見惚れていると、襖はタンっと勢いよく開き、その向こうに見慣れた景色があった。
ギルドのラウンジかな? アストラルゲートを使って、いったんギルドに戻ったのかしら?
こちらとは違う温かい光。生きた空気。人間の気配がする……
私は手を引かれるかのように、襖を跨いだ。
「あれ? みんないる?」
現世に戻ると秀一君達だけじゃなくて、まどかや凛達もいた。
「アリザァア!」
声と同時に衝撃が来た。
まどかが涙で顔をぐしゃぐしゃにして抱き着いてきた。
それ、アイドルがしちゃダメな顔よ! でも――
「心配したんだよおお! 生きてる! 生きてるうう! うわあああん!」
「まどか……心配かけてごめんね……」
私もきっとアイドルがしちゃだめな顔で泣いていると思う。
「アリサ……」
凛も横から抱き着いてきた。
まどかや私みたいに泣いてたりしないけど、その手が震えていた。
「うん。幽霊じゃない。ちゃんと暖かい」
「あははは。さっきまであの世みたいなところにいたけどね」
「浄土世界ってやつ?」
凛は冷静ね。もうちょっと心配してくれてもいいんだけど。
「そう、仏様がいるところ」
「やっぱり、あの世じゃないいいい!」
まどかは凛の何倍も感情的ね。正反対なのに凸凹コンビとしてしっくりきてるのが、ちょっと悔しい。
私達は三人でくっついたまま、しばらく抱き合っていた。
「大丈夫。私は生きている。私が帰る場所はこっちよ」
「よがっだあぁ!」
「アリサってどういう状態なの? 早川君の式神なの?」
「そう。私は秀一君の式神。私は秀一君のものになったのよ!」
「早川君!」
まどかがキッと秀一君を睨んだ。
「アリサを助けてくれたのは、本当に感謝してる。でも式神から解放してあげて!」
「わかってるよ。だけどすぐに解放できないんだ」
「なんでよ!」
「まだ魂が定着してない。式神から解放したら魂が抜けてしまうんだ」
「そんな!?」
「アリサ。妙光如来様はなんて言ってた?」
待って!! ちょっと待って!
今私、秀一君に呼び捨てにされた!?
「んー。私のこと呼び捨てなんだ。ふぅん。ふぅぅうん」
やばい。ニヤニヤが止まらない。私の可愛い小鼻がプクーってなっちゃう。
「いや、なんていうか、式神だし?」
「それ0点の回答! まぁいいわ。妙光如来様の見立ても同じ。早ければ一ヶ月ってところね! まぁ私は一生秀一君の式神でもいいんだけどねぇ。式神でいる間は歳を取らないし!」
「歳取らない!? まじか! いやいや、アリサ! 私との百合営業どうするのよ!」
まどかがかぶりついてきた。
「あ、それは解消で。やっぱり私は秀一君が好きなのよ」
「振られた!?」
「そもそも営業だし」
「私は半分本気だったのに!」
「半分でしょ」
私はまどかを押しのけて、秀一君に向き直った。
「秀一君! 覚悟しなさい! もう遠慮しないわ! 絶対私に振り向かせて……」
「ごめんなさい」
「はやっ!」
「俺、琴音が好きだ。だから……」
「ううっ! それ以上聞きたくない! な、なら琴音ちゃんもろとも堕としてみせるわ! 覚悟しなさい!」
「ええっ!? 私も!?」
「ちょっとアリサ!? 私とは百合営業を嫌がったくせに!?」
「まどかはやっぱり友達だし? 琴音ちゃんともっと仲良くなりたかったのは本当だし……」
「うわぁん! 凛。私を慰めてぇぇ!」
「よしよし」
「二人共覚悟するのね!」
笑い声がラウンジに響いた。
まどかが泣きながら笑って、凛がため息をついて、秀一君と琴音ちゃんが困った顔をしながら、苦笑していた。
あぁ。生きててよかった……
――でも、この時私は何が起こっているのか、まったく知らなかったし、考えもしなかった。
私の軽率な行動の積み重ねが、一気に爆発していたことに……
妙光如来様が言っていた悪行の意味を、私はまだ知らなかった……




