第158話 しゃべる時は語尾にコンをつけるんだ!
「……助かったの?」
琴音がよろよろと近寄り、ストンとアリサのそばに腰を落とした。
「あぁ。生きてる。生きてるぞ!」
「よがっだぁぁよぉ!」
琴音は安心して気が抜けたのか、わんわんと泣き出した。
俺も同じで、ボロボロと涙を流した。
「のう。アリサは式神になったのじゃな?」
狐鈴もアリサの顔を覗き込んだ。
もう大丈夫だとわかり、ホッとしてまた涙をボタボタと流し始めた。
「たぶん。人のまま式神になったんだと思う」
「えっ!? それってどういうこと?」
琴音が指で涙を拭いながら聞いてきた。
「浄土水によって肉体は回復したけど、きっとあのままじゃ助からなかった。魂が抜けかけていたんだ。式神にすることによって、魂を繋ぎ止めたんだと思う」
「浄土水と秀ちゃんの血かぁ。これで強引に秀ちゃんとパスをつないだのかな? 本来調伏できない相手を調伏して、式神の不死性を与えたってこと?」
「そう。式神にしたんだ。それと……たぶん眷属にしたんだと思う」
「眷属って……」
琴音にも心当たりがあるんだろう。
三千世界で修行したあたりから、俺と琴音は天部――仏教でいうところの、如来様や菩薩様を守る、天界の守護者に片足を突っ込んだって……
何分の一か、もう人間じゃないって……
「難しいことはわかんないよ」
琴音の難しいは、天部を理解していないわけではない。
俺達は本当に天部になったのか? 仏教のことは知識程度しか知らない。だからなれるはずがないんだ。
ただコネを得ただけか、それとも引き返せないところまで足を突っ込んでしまったから、そうならざるを得なかったのか。
陰陽術で力を借りすぎたせいで、天部になった人はいないから、事例もないし……。
俺だってわからない。
「ねぇ。秀ちゃん。どうするの?」
「何がだ?」
「アリサちゃん。秀ちゃんの眷属で式神になっちゃったんだよ?」
「……魂が安定したら式神から解放すれば……いいよな?」
「どれくらいで安定するんだろうね?」
「月華、わかるか?」
案内妖精に向かって言うと、月華からすぐに書き込みがあった。
『短く見積もっても数か月はかかります』
「ながっ!」
「むぅ。数か月……。アリサちゃんが式神って、私としては複雑な気分なんだけど……」
「アリサはアリサだろ。式神は形だけで、今までと何も変わらないよ」
「っていうか! 秀ちゃん、アリサちゃんのこと呼び捨てにしてる!?」
「……式神にしたから、さんづけも変かなって」
「……うん。まぁ……そうかも?」
琴音は納得行ってなさそうだ。
「俺、とんでもないことしちゃったかな?」
「助けないより絶対良かったと思うよ」
「うむ。その通りじゃ。アリサを助けてくれてありがとう」
狐鈴が立ち上がって、深々と頭を下げてきた。
「当然のことをしたまでだよ」
「そうじゃな。もう。帰ろう」
「あぁ」
「うん」
ふと聖杯を見ると、溢れ出ていた青白い光が細くなり、そして徐々に消えていった。
もう必要ないのかもしれないけど、一応アイテムボックスに入れておいた。
そしてアリサを琴音に手伝ってもらいながら背負うと、神殿の入り口に向かって歩き出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
神殿を出ると森が変わっていた。
幽霊も石像もいない。
邪悪な気配も無くなっていた。
ジメジメした感じは残っているけど、これは普通のジャングルになっただけだな。
俺はずり落ちそうになったアリサを背負いなおした。
「秀一よ。もう式神を呼べるやもしれぬぞ」
「他のみんなも浄化クエストをクリアしたってことか」
「うむ。我らが一番最後だったのかもしれぬな」
「煌姫」
金の襖が現れてタンッと開くと、煌姫がゆっくりと出てきた。
すごく申し訳なさそうにしている。
「ご主人様。私が差し出がましい真似をしたばかりに申し訳ございません」
「桃饅頭の件か? 大丈夫だよ。また作ってくれよな」
「ですが……」
「享楽之神も不問にするようなこと言ってたしな」
「わかりました。お気遣いありがとうございます」
煌姫は泣きそうな笑みを浮かべた後、ふっと力を抜いた。
「じゃあ、アリサのことは任せて!」
もういつもの煌姫みたいだな。
「どういうことだ?」
「浄土世界で少し養生させるのよ」
「えっ! ちょっと待って! アリサちゃんはまだ生きてるよ!」
「ええ。でもね。もう半分人じゃないの。ご主人様の式神で眷属なの。だから浄土世界に行っても大丈夫よ」
「でも……」
「心配ないわよ。ちゃんと戻ってこれるわ。アリサは一度魂が抜けかけたのよ。今後どうなるかわからない。だから妙光如来様に見てもらって安心したいの。彼女はもう私達の仲間だから」
「そうか。よろしく頼む。妙光如来様にも感謝の言葉を伝えてくれ」
「ふふ。もう届いているわよ」
今見られているってことか?
俺は天を一度見ると、頭を下げた。
「そうそう狐よ」
「なんじゃ?」
「ご主人様を頼んだわよ」
「言われなくとも秀一も琴音も……アリサも……」
「守れなかった」
「ぐっ……」
「私は怒っているのです。私がいれば。ずっと召喚されていれば……」
「……お主だったら助けられたと?」
「えぇ」
「ぐぬぬぬ! お主言うではないか!」
「おい! 二人共いい加減にしろ。煌姫。今のはお前が悪い」
「申し訳ございません。……狐よ。ごめんなさい」
「……むぅ」
「それではアリサを連れていくわね」
そう言って煌姫は、アリサを抱きかかえて、襖の向こうに消えていった。
「わ、我は……守れなかった……」
「狐鈴はよくやっているよ。いつも感謝してる」
「何か罰をくれぬか?」
「罰なんて……」
いや、メンタルケアに必要だな。
「一週間、話す時は語尾にコンをつけること! 配信中もな!」
「んなっ!」
狐鈴は目を見開いた後、恥ずかしそうにモジモジした。
魔法少女の方が痛々しくて恥ずかしい気がするんだけど……
「……わかったコン」




