第154話 森の真実と神話
俺達は聖なる薬草を手に入れると、聖水の器になる聖杯を探すために再び石版を確認した。
「ん-。次は枯れ木に導かれて進めとか書いてあるね」
琴音がキョロキョロと辺りを見渡した。
俺も周りをグルっと見ると、西の方だけ枯れた木がチラホラと見えた。
「んじゃあっちか」
「手を繋がないの?」
なぜかアリサさんが曇り顔で聞いてきた。
「手を繋ぐまでもないだろ?」
「……そう」
枯れ木を頼りに進んでいくと、不意に森が開けた。
学校のグラウンドほどの広場の奥に、大きな神殿がそびえ立っている。
石造りの尖塔がいくつも横に並び、中央を頂点に外側へ向かって低くなっていた。
かつては白や薄茶色だったのかもしれないが、今は苔と蔦が神殿全体を覆い、濃い緑色になっていた。
神殿へ続く道の両側には石像が整然と並び、玉座の両脇に控える騎士のようだった。
神殿に見惚れていたら、突如右側から大きな音がした。
「何の音!?」
アリサさんが悲鳴に似た声を上げた。
森の奥から何か迫ってきている。
「とりま神殿にダッシュ!」
俺はそう言いながら神殿に向かって走りだした。
幸い神殿の前は舗装されていたので走りやすい。
さっきまでいた場所で轟音が鳴り響いた。
後ろを振り向くと、木々が吹っ飛び、大きな石像が飛び出してきた。
三つの頭に四つの腕を持つ、阿修羅みたいな石像だ。
広い場所で応戦しようと思ったら、石像が次々と現れた。
その数……十以上? さらに続いている。
「迎撃しながら走るぞ!」
空はいつレーザーが飛んでくるかわからない。
俺達は神殿に向かって走りながら、後方に向かって攻撃魔法を連打した。
火の魔法、雷の魔法、石の壁を作って追撃を阻む。
それでも数が多いので止まらない。
「ひいいっ! どうすんのよぉおお!」
アリサさんがいったん攻撃を止めて叫んだ。
「とりあえず! 神殿に入ろう! 室内なら! 渋滞するはずだ! あの数を! いっぺんに相手するのは! 無理だ!」
「了解いいいっ!」
幸い神殿の扉は半開きだ。
鑑定スキルを発動させると、中にモンスターの表記がない。
中がどれくらい広いのかわからないけど、外で囲まれたり、一気に襲い掛かられるよりマシだ。
「ぎゃっ!」
後ろを見ると、アリサさんがつまづいて転んでいた。
「クイック・ステップ!」
俺は移動スキルで駆けつけると、アリサさんを無理矢理抱き抱えて走り出した。
「ごめっ……」
「いいから、捕まってろ!」
「……うん」
俺達は半開きの扉から神殿内部に滑り込み、急いで扉を閉じようと、石の扉に体重をかけた。
「あれ?」
しかし石像達は、神殿の近くまで来ると止まり、辺りを見渡すようにキョロキョロしている。
どういうことだ? まるで俺達を見失ったみたいだ。
「ふむ。この神殿。森と同じように外界と繋がりが絶たれているようじゃな」
「またか……」
「なんか意味があるのかなぁ?」
「実は避難所だったりして」
「ありえぬことではない。アレを見るのじゃ」
そう言って狐鈴は管狐を召喚し、狐火で神殿内部を照らした。
神殿には大きな壁画がいくつか描かれていた。その下には文字が書かれている。
俺達は言語理解のスキルがあるから、読むことができる。
一枚目は神様っぽい人が描かれていて、その下に獣人達が平伏していた。
獣人達は一柱の神を見つけ、崇め始めた。神は嬉しく思い、獣人達の願いを聞き入れ、外敵を滅ぼした。
そんなことが難しい言い回しで書かれていた。
二枚目はさっきの石像が外敵と戦っている場面だ。
神は使途を降臨させ、外敵を打ち滅ぼしたと書かれている。
続く三枚目の壁画は獣人達が残虐の限りをつくしている壁画だ。
この森の獣人達は残忍だったみたいだ。いや、獣の本能が色濃く残っていたのかもしれない。
人間を捕まえては森に閉じ込め食料とした。残忍な生贄の儀式もあったみたいだ。
もしかして外敵って、さらった人間を助けに来た者達じゃないのかな?
四枚目の壁画は神が獣人を罰している様子が描かれていた。
獣人が行っていたことを知った神が激怒した。神の使徒である石像達は、獣人にも矛を向けた。
その結果、獣人達は神の目から逃れるために、森に呪いをかけた。
五枚目は森の中を石像達が獣人達を殺している場面だ。
獣人達は神の目から逃れることはできなかった。石像達が呪われた森に入り、生きている者を問答無用で殺しにかかった。
鳥の獣人いや、鳥人か。それビームで撃ち落としている様子も描かれているな。
空を飛ぶと攻撃されるのは、俺達を鳥人と誤認しているためか。
六枚目この神殿が描かれていた。
この森には元々別の邪神を祀る神殿があった。呪いをかけたのもその邪神の力。
邪神の神殿付近はさらに強力な呪いがかけられていたため、石像達も見失ってしまった。
獣人達はこの神殿に立て籠もったが食料が尽きた。そして邪神との契約によって、永遠にこの森を徘徊する存在になってしまった。
石像は今でも実体を持った獣人達の幽霊を退治しているのだろう。
「ここはその邪神の神殿なのじゃろうな」
最後の壁画は聖水が描かれていた。
神は邪神の呪いを解くために聖水を作ろうとした。まずこの地に材料となる聖なる湖と聖なる薬草を創り、入れ物である聖杯をこの地に送ったが、聖杯は邪神に盗まれてしまった。そして邪神はこの神殿に聖杯を封印したと書かれていた。
「じゃあ、聖杯の封印を解けばいいんだね!」
壁画と文字を読み終わった琴音が振り向いた。
「きっと封印を守るボスがいるよね! 常夏の島のダンジョンみたく、ボス部屋見つけたら、魔法をポンポン投げ込んじゃう?」
「聖杯まで壊れるんじゃないか?」
「聖杯って神様が作った器だよね。頑丈そうじゃない?」
「そういう過激な手段はやめて欲しいわ」
案内妖精のセレナが現れた。
今撮影しているみんなの案内妖精も、セレナの隣に並んで集まった。
「あっ! ちょっと休憩するから、配信一旦止めるわね!」
不穏な雰囲気を感じ取ったのか、アリサさんが配信を止めた。
俺達のコメント欄も動かなくなった。と言うことは配信が止まったな。
「どうして止めた?」
「こちらから言いたいことがあるの」
セレナが代表するかのように一歩前に出た。
「桃饅頭はチートよ。まったく余計な介入をしてくれたわ。享楽之神様はお怒りです」
「他の神の介入は、遠慮願うと申し上げたはずでございます」
狐鈴に案内妖精のノコも口を出した。
「それは狐鈴に言ったことだろう。俺達は言われていない」
「まぁいいわ。貴方達が一番神力を稼いでいるのは確かなので、享楽之神様はお許しになるそうよ。寛大な神様に感謝してよね。ただし、ここは邪神の神殿。回復の魔法や術、アイテムは効果を失うの。あなた達が食べた桃饅頭は無効よ」
「それはペナルティか?」
「ここは元からそういう神殿なの。本当はね、わからないことがあったら、私達に聞くのが筋でしょう。私達は案内妖精。グランドクエストを円滑に進めるためのシステム。不遜にも享楽之神様を信用しないのは自由だけれど、システムを利用しないのは困るのよ。妖精に導かれた冒険者がこの世界を救う。そういう筋書なの」
それを早く言え!
まぁ言われたら、それはそれで意識して、演技っぽくなっちゃうか?
「貴方達が聞かないから教えてあげるけど、森を浄化する手段は聖水だけではないわ。他のパーティーにも、森を浄化するクエストが発生してるはず。聖水はあくまでここの地域だけよ。森全体を浄化するには様々なクエストをクリアする必要があるわ。これからはちゃんと私達を利用すること! でないとこうやって配信を止めちゃうわよ」
これは忠告なんだろうな。
ただ……案内妖精の忠告なのか、それとも享楽之神からの忠告なのかは、わからなかった。




