第153話 薬草の悪霊
「ワハハハハ」
森の奥からオッサンの笑い声がした
「キャハハハッ」
別の方角からは甲高く笑う女性の声も聞こえてくる。
ふと見上げると、ニタニタと笑いながら見つめてくる獣人の顔をした幽霊がいた。
木々の間からはこちらを見つめる獣人の顔、顔、顔! 不気味過ぎていやになる。
ただ……なんだろう。日本の幽霊っぽくないというか、実体化してるように見えるので、怪談のような不気味さがない。
そのおかげでアリサさんがいつもみたいに騒いでいないし、割と平気そうに見えた。
そして幽霊達は、どいつもこいつも遠巻きに見てるだけで襲ってこない。
ペットボトルに入れた湖の水を、俺が手に持っているからだろうか?
「てい!」
俺がペットボトルをかざすと、獣人の幽霊達が悲鳴をあげて逃げていった。
「これ、もっと持ってくればよかったなぁ」
「だねぇ。でももう戻れないよ」
後ろを見ると木が動き、森が変わっていく。
手を繋いでも、もう湖への道がわからない。
わかるのは次の目的地だけだ。
「まぁいっか」
石版のヒントによると、木漏れ日に照らされし黄金の草が、聖水の材料になるらしい。
琴音と手を繋いでいると、なんとなくわかる。
これは三千世界で手に入れた力なのだろうか?
神仏の導きを得られている?
よくわかっていない力だけど助けになっている。
妙光如来様に感謝だ。
こんな時こそ、案内妖精の出番だって思うけど、享楽之神の手先には頼りたくない。
みんなもそう思っているのか、配信の命令以外で、案内妖精に話しかけようとしなかった。
しばらく進んで行くと森が小さく開けていた。
覆いかぶさるような木々の間から、木漏れ日が差し込んでいて、辺りを黄金色に染めていた。
薄暗い森の中を歩いてきたので、俺は少しだけ眩しく感じて、目を細めた。
目的の聖なる薬草は、頭上から差した光によって、黄金色に輝いて見えた。
「黄金の草! あれっぽいね!」
琴音が駆け寄ろうとした瞬間、俺は琴音の腕を掴んだ。
「琴音!」
「うおっと!?」
木漏れ日が赤くなり、黒い霧が立ち込めたかと思うと、大きな黒い顔が浮かび上がった。こいつも獣人だ。森に飲み込まれた都市は、獣人の都市だったのだろう。
「盗人め! このダルバトリナは渡さんぞ」
真っ黒な顔に赤い目。その顔が邪悪に歪んでいた。
怨念や憎悪など負のオーラがにじみ出ている。どう見ても悪霊だな。
「数本いただけませんか?」
ただ……こいつはクエストモンスターじゃないかな?
「ならぬ!」
「祓うしかないね!」
いやいや、琴音。これは絶対になぞなぞを解いたり、依頼をこなすようなクエストだと思うぞ。
「祓うだと!? ならばこの魂と引き換えに呪いをかけてやるまで!」
「浄土水使っちゃう?」
「こいつ相手にもったいないだろ。おい。どうしたら薬草をくれる?」
「そこの話が通じぬやつとは違うようだな。ここから半月歩いた……」
「マジカルバスター!」
狐鈴が問答無用でマジカルマジックをぶっ飛ばした!
「グオオォォオオ! お前、呪いが怖くないのか!」
「小僧。呪えるものなら呪ってみよ。この我を呪えるのならな」
琴音よりもっと短気な奴がいた! 狐鈴。浄土水があるからって強気だな。いや、なくても余裕か。
「むむむ。お前、只者では……」
「マジカルバスター!」
「ぎゃおおおおお! め、滅してしまう! わかった! 好きなだけ持っていけ! ただしお前だけだぞ!?」
「うむ。誰が持っていこうと変わらぬ。あぁそうそう。我が草を取る際に邪魔をしたら、我がお主を呪うとしよう」
「……わかった」
悪霊は狐鈴を舐めすぎだな。まぁ狐鈴がどんな存在なのか知らないから、そうやって余裕でいられるんだ。
だから狐鈴が草を摘もうとしゃがんだ瞬間、悪霊が邪悪な笑みを浮かべた。
「ふむ。これは偽物じゃな。してお主。今我に呪いをかけて邪魔をしようとしたな?」
「お前……なぜ呪いが……あっ……ああぁっ!」
悪霊の顔が恐怖で歪んだ。何を見たのか、何が起こったのか。知りたくもない。
「ぎゃあああああ! おぉぉおおおお!」
悪霊は絶叫しながら悶え苦しみ、渦を巻いて彼方へと飛んで逃げた。
馬鹿だな。狐の呪いは恐ろしいんだぞ。
悪霊が去ると、今まで木漏れ日に当たっていた草が枯れていき、その後ろに地味な草がひっそりと生えていた。
うっすら金色に光っているから、きっとこっちが本物なのだろう。
鑑定スキルを使うと『聖なる薬草・ダルバトリナ』。ビンゴだな!




