↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
153/210

第152話 神のご加護を(ブレスユー)

 邪悪な気配が満ちている森の中、俺達は導かれるように、清らかな気配がする場所に向かった。

 その場所に近づくにつれ、遠巻きに様子をうかがっていた獣人の幽霊達が、いつの間にか減っていった。


「ここは……」


 森が開けた場所に、小さな湖があった。その中央に象の頭を持った仏像っぽい石像が半分沈みかけていた。

 元は小さな島でもあったのだろうか。今では腰の上までしか見えない。そして少し傾いていて、苔で覆われていた。 

 湖の水が黄色、緑、青、赤と、ゆっくりと規則正しく切り替わっていた。


「んーと。石版によるとね。黄色は聖、緑は毒、赤は穢れ、青は普通の水みたいだよ」


「黄色の時に水を汲み取ればいいのか」


「そうみたいだね。水筒はアレが入ってるし、ペットボトルでいいよね?」


 そう言って琴音は石版をしまい、コーラのペットボトルを取り出して、ごきゅごきゅと一気飲みを始めた。

 しかし半分飲んだあたりで、俺に渡してきた。


「ゲップ出そう」


「なんでコーラなんだよ」


「コーラ好きだし……」


 琴音はコーラ好きだもんなぁ。というかアイテムボックスにコーラ以外なかったのかよ!


「……そうか」


 俺は半分になったコーラのペットボトルを受け取って、残った半分を飲み切った。


「うぷっ!」


 ゲップが出そうになる。


「秀ちゃん! 私は我慢したよ!」


「秀一よ」


 狐鈴が目を細めて見つめてきた。


「我はお主に、公衆の面前で不快なことをするような、教育をした覚えはないぞ」


「流石に私もゲップは勘弁」


 アリサさんもジト目を向けてきた。


「いるのよねぇ。おならとかゲップが面白いって思ってる勘違いしてる人が。蛙化しちゃうわよ?」


 罠なのか! これは琴音による罠なのか!

 いや、何の罠なのかと言われたらわからないけど……

 琴音のちょっと天然なところも可愛いんだけど、たまにこういったおバカな展開になるのはな……


 俺は口をいったん閉じ、端の方をちょこっとだけ開けて、空気を逃がしていく。

 配信上はアバターだから、バレないだろうって思っていたら、チャット欄に『よく頑張った』とか応援をもらっていた。


 式神達が『ブレスユー』とか書いてるけど、それはくしゃみだから!


 ブレスユーって英語圏で、誰かがくしゃみをしたときに、『お大事に』とか『神の加護を』という感じで使うらしい。


 月華と翡翠は『助かる』て書き込みしてるけど、そっちもくしゃみだから!

 くしゃみの助かるはネットスラングだからな! っていうかくしゃみじゃないし!

 正直ちょっと引いた。

 配信上でゲップは気をつけよう。くしゃみも……


「ごめんなさい」


 俺は謝ってから、水面が黄金色に変わった瞬間に水を汲み取り、共洗いするため、一度水を入れて濯《すす》いでから捨て、もう一度黄金に光った時に水をペットボトルに入れた。



「これでよし」


 これ……まるでおしっこみたいなんだけど……


 狐鈴は腕を組んで、コーラのペットボトルをじっと見つめていた。


「……今日の秀一は下品じゃな。近寄るでない」


 おおい! 言葉に出さなかったのに! こいつ言いやがった!

 しかもなんでだよ! 俺は被害者だ!


「水筒はないのか? ないなら我の……いや、もうその水は入れとうない……」


「水筒には奥の手が入ってるから」


「奥の手じゃと?」


「浄土世界で汲んできた浄土水だよ。あ、もちろん妙光如来様に許可を取ってあるよ」


「な、なんじゃと!?」


 狐鈴の目が見開いた。

 尻尾もピンと立ってちょっと面白い。


「持ってる水筒に全部入れてきたんだ」


 ちなみに俺と琴音とで合わせて六本ある。


「えっ! 浄土世界でアイテムボックスが使えたってこと!? ってことは地球に戻っても、アイテムボックスが使えるってことよね!」


 アリサさんが興奮気味に詰め寄ってきた。


「あ、あぁ。そうだと思うぞ」

 

「しゅ、秀一よ! 一本分けてくれぬか?」


「あぁ。いいよ」


「私のもいる?」


 そう言って琴音は、アイテムボックスから水筒を取り出して、狐鈴に手渡した。


「おぉ。これは本物の聖水では……神酒《ソーマ》ではないか? いや酒ではないから違うか。それに近しいなにかじゃな」


「そうかも? でもクエストで使う聖水とは別物だよ? 浄土水って言ってたし」


「むぅ。そもそも次元が違うと思うのじゃが……。いや、宗派によって違うか。いずれにしても、このような穢れた場所で飲むのはいかん。もっと清らかな、神聖な場所で飲まねば。いやむしろこの世界ではない方が良いのでは……」


「どこで飲んでも同じじゃないか?」


「たわけが! これが一体どれくらい貴重なものか……」


「あ、書き込み。白夜が少量でいいなら、今度持ってきてくれるって。妙光如来様の許可が下りたらだけど。後、蓮《はす》の花とかもいるかって?」


 狐鈴は顎が外れそうになるほど、口をあんぐりと開けた。


「よ、よろしく頼む。ならば必要になったら水筒の水はこの森でも使わせてもらおう」


 狐鈴はそう言って、水筒を丁寧にアイテムボックスに入れた。


「思ったのじゃが、秀一よ。浄土世界へ行った術を使えば補充し放題じゃな?」


「あの術。もう頭から抜けちゃって使えないよ。アーカイブを見てもなぜか音声だけ残ってなかったし」


「むう。そう上手くいかぬか」


「今は式神を呼べないし、この水はここを出るまで、本当に奥の手だよ」


「わかったのじゃ。大切に使わせてもらおう」


「アリサさんも持ってて」


「いいの?」


「もちろん。というか、渡しておかないと。それは自分のためでもあるけど、誰かがピンチの時に使って欲しいんだ」


「あーなるほどね。で、効果は?」


「わかんない」


「へ?」


「浄土世界の水だから、きっと何かに汚染されたり、呪われたときに使えると思う」


「なんだ。復活薬とかじゃないんだ」


「それこそ煌姫の桃饅頭だな。水だからそこまですごくはないと思うぞ」


「ふぅん。あまりアテにするなってことね」


「アリサよ。不用意に飲んではならぬぞ」


「うん。これは人の手に余るものだって、なんとなくわかるわ。飲んだらきっとややこしいことになる。そういう意味で奥の手なのね」


「うむ。賢明じゃ」


「地球に戻れたら、全部狐鈴さんに押し付けるわ」


「そうだな。陰陽庁に必要なら月華がもっていくだろうしね」


 一応保険として、配信用に言っておく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。