第148話 煌姫の手作り、桃饅頭
師匠と結城さんを中心に対策会議が開かれた。
俺達が出発前に王国軍から得た情報によると、あの森に飲み込まれた都市の名前はムリターヴァナ。
神殿都市とも呼ばれていて、リオネール王国やダムゼルの都市とは別の宗教が信仰されていた。
都市のあちこちに神殿があり、神々の石像が都市の至る所に建てられていたそうだ。
今は森に飲み込まれているけど、以前は都市の北部に巨大な森があって、その奥地にも大きな神殿が建てられていた。
そこには大きな御神体が祀られていて、信仰の要になっていたそうだ。
その森の名前は不死の森という名前だ。信仰していれば、いずれ不死になれると伝わっていたのだろうか?
それとも魂だけになっても、精神は生き続けるとか?
まぁそこら辺は深く考えても仕方ないな。
問題は都市が森に飲み込まれてしまったことだ。
どこからが森でどこからが都市なのかわからない。
事前情報で得られていたアストラルゲートの場所は、もはや意味がないものとなってしまった。
「やはり、上空からは危険ですね」
結城さんの言葉は正しいと思う。
あのままエイで進んでいたら、攻撃をくらっていたし、偵察用の機動式神も破壊されてしまった。
ただ、低空飛行していた琴音の機動式神は無事戻ってこれたので、地上から侵入するしかない。
上空を警戒している? 何かあるのだろうか?
「飛行魔法のアドバンテージをつぶしてきましたか」
俺の考えすぎかな。結城さんの言う通り、簡単に攻略されたら、神力を集められないからな。
俺達は享楽之神の思惑通りなのか、パーティー毎に森に入って、アストラルゲートを見つけることになった。
普通なら都市の外周のどこかに、アストラルゲートがあるはずなんだけど、どこまでが都市で、どこまでが森なのかすらわからない。
「早川君。式神の気配はしますか?」
最後に結城さんが聞いてきた。
そうだよな。今までのパターンだとボス的な奴が俺の元式神だった。
「今回はしません。狐鈴はどう思う?」
「我も感じぬな。お主の式神はどうじゃ?」
「煌姫」
そうつぶやくだけで、黄金の襖が現れ、煌姫が……出てこない。
「……あれ?」
みんな俺を見て、ヒソヒソと何かを話しているんだけど……
しばらく経ってから、お重を持った煌姫が現れた。
「ごめんなさい。ちょっと準備してたの」
「お前の式神、自由すぎるだろ」
師匠の突っ込みに、俺は心の中で頷いた。
「煌姫、そのお重は?」
「ふふ。これは私お手製の桃饅頭よ。浄土世界で実った桃を使っているの。みんなで食べて」
「……とんでもねぇお土産が出てきたぞ」
師匠の顔が強張った。
神世の桃って神話だとすごくヤバいアイテムだよな……
「食べれば死を回避することができるわ」
「あ? どういうことだ? 復活するじゃなくて?」
師匠が聞き返した。俺も良くわからない。
「んー。死にそうになったら、食べた場所に転移して、全回復する効果ね」
「なるほどな。復活ではなく回避ね」
「ええ」
「どっちにしたってありがてえな。礼を言うぜ」
「いいえ。今まで運がよかったのよ。操られていたとはいえ、私達がプレイヤーを殺していたら、ご主人様の立場が危うかったでしょう」
……確かにそうだ。
「だから食べてください。今は一人一個ずつしか配れないけれど、今作ってるところだからまた後で渡すわね。復活場所は食べたところになるから、次回はギルドの自室で食べて欲しいの」
「煌姫。ありがとうな」
俺はみんなを代表する形で礼を言うと、煌姫は花が咲いたような笑顔になった。
「はい。あ! そうだ。本題よね。配信見てたから説明は不要よ。ちょっと待っててね」
煌姫はそう言って森の方を凝視した。
「……いないわね。愉悦之神の気配もないわ。《《気を付けて》》」
ってことは。あの森は享楽之神の手しか入っていないということだな。
今となっては一番危険な予感しかしない。
「ありがとう」
「本当はこのままついて行きたいけど、戻るわね。饅頭の生地を作りながら見てるから。応援してるわよ」
そう言って煌姫は戻っていった。
必要な時に、必要なだけ呼ぶ。
それが本来の陰陽師と式神の関係なのだろう。
それでも煌姫は何かしたいと思い、妙光如来様にお願いして、饅頭を作ってくれたのかな。
煌姫達の気持ち。確かに受け取ったよ。




