第145話 百合営業
「うぅ……昨日は飲み過ぎた……」
昨日はまどか達と思いっきり飲んだせいで、二日酔いみたいだ。
私はベッドから身を起こすと、バタンと倒れて二度寝しようと目を閉じた。
やっぱりギルドの自室が一番落ち着くなぁ。
享楽之神が配信のために、各アストラルゲートと常夏の島のアストラルゲートをつなげてくれたおかげで、自室に帰ることができるようになった。
……頭痛のせいで二度寝できない。
「……ヒール」
頭に手を当てて、回復魔法を唱えると、スゥ―と頭痛が消えていく。
「あっ!」
今日はまどかと朝食を食べながら、コラボ配信の打合せをするんだった!
私は飛び起きて、常夏の島のホテルへと急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「アリサ遅ーい!」
「ごめん。まどか」
「まぁゆっくり食べてたからいいけど」
朝食はホテルのバイキングで、テーブルの上には既にデザートが並んでいた。
「私も取ってくるね」
「いってらっしゃい」
バイキングコーナーに行くと、様々な料理が並んでいて、目移りしてしまった。
最初はトーストにジャム。副菜はサラダにコーンスープで、飲み物は紅茶にしよっと。
「お待たせ」
私は席に着くと、さっそくパンにジャムを塗り始めた。
「魔法って便利よね。二日酔いも一瞬で治るなんて」
「そうね。魔法がなかったらおかゆくらいしか食べれなかったかも」
まどかはコーヒーを一口飲んだ後、真剣な顔になった。
「アリサ。ちょっと最近噂になっているわよ。片思いしてるって、エゴサしてる?」
噂ってあれよね。私が秀一君にちょっかい出したせいで、横恋慕してるんじゃないかってやつ。
真実なのがやばい。
「噂はすぐに消えるかなぁって……」
「甘く見過ぎ! 仕方ないなぁ。百合営業して火消しするわよ」
「……はぁ?」
百合営業ってあれよね。女の子同士でスキンシップして、付き合ってるかもって匂わせるやつ。
「私は男でも女でも、両方いけるって公言してるしね! 匂わせじゃなくて、実は付き合ってるとかにしちゃおうか」
「いや、でも……」
「男の影は女の子で消すのよ」
「うーん……」
「幸いしばらく次の都市に行くまで時間あるでしょ。今から原稿作って、昼に告知。夜にコラボ配信するわよ」
「まどか……ありがとう……」
「いいってことよ。好きでやってるんだから」
好きって言葉にちょっとドキってしてしまった。
私って今弱ってるのね……
◇◆◇◆◇◆◇◆
夜になって私はまどかの部屋に来ている。
まどかの部屋にはコラボ用なのか、横に長い椅子があった。
いつもはちょっと空けて座るんだけど、今日はほぼぴったり引っ付いている。
画面上のアバターは顔が大きいので、実際よりもぴったりとくっついて、てぇてぇ距離になってるはず。
あ、てぇてぇって、尊いって意味ね。
この場合推し同士が仲良くしてて、愛おしいって感じるってことかしらね。
今日はまどかとイチャイチャするので、てぇてぇ距離で配信するの!
「こんばんは! みんなのアイドル、まどかです!」
「こんアリサ~! 今日はまどかのチャンネルにお邪魔してまーす!」
「そう! 告知通り、今日はアリサとコラボ配信よ!」
早速コメント欄に、てぇてぇとか距離が近いとか流れ始めたわ。
「今日は重大発表があるのよね。まどか」
「そうよ。アリサ。でも重大発表の前に、事前に募集した質問に応えていくわよ」
「最初の質問。お互いのことをどう思っていますか? だって」
「うーん、配信外でも大切な友達だよ。でも最近ちょっと友達以上になってきたかな」
「私も同じ……異世界に来て、まどかと再会できてうれしかった。別のパーティだから普段一緒にいる時間は少ないけど、たまにコラボ配信すると安心するわ」
ちょっと! まどかが私の手を握ってきたんだけど!
「ふふ。嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「ちょっと! まどか!」
「ふふ。手を握っちゃった」
「もう。別にいいけど」
「チューもしとく?」
そう言ってまどかが顔を近づけてきた。
やばい! まどかはキス魔だ! 女の子にしかしないけど!
「えぇ……と……」
百合営業の配信だから断るのってまずいよね……
「んふふ。もう逃げられないよ?」
「ほっぺとかおでこだよね?」
「口に決まってるでしょー!」
「ちょ! 配信中よ!」
「構わないでしょ!」
「……あの……私本当に初めてで……できればもっと雰囲気ある時に……」
「……まじで?」
「うん。私女子高だったし……誰とも付き合ったことなくて……」
「女子高でもチューくらいするでしょ?」
「しないわよ!」
「ふーん。そうなんだ。これはこれは……私も角がにょきにょき生えてきちゃった!」
角ってユニコーンの角だよね……
「ユニコーンのみんな! 喜べ! アリサは間違いなく……」
私はミキサーを操作して、ピー音を入れた。
「ちょっとアリサ?」
「黙れ! ユニコーン!」
この業界でユニコーンとは処女に異常なこだわりを持つファンのことだ。
角が生えるというのもユニコーン化したことを差すのよ。
まどかが私を見る目がちょっと怖いんだけど……
まさか……マジになっちゃったの?
ってまずい!
「そ、そういうのは追々? もっと雰囲気出た時で……ね!」
「はいはい。あーもう言っちゃおうか! 私とアリサは付き合うことになりましたー! ユニコーンのみんな! ごめんね!」
「まどか! 私はプラトニックな関係がいいと思うのよ!」
「はいはい。最初はそれでいいよ」
「最初って! ちょっと!?」
「それじゃあ! これからてぇてぇゲームするよ! まずはポッキーゲームから!」
「ちょっとまったぁあ! キスは雰囲気のある時にって言ったばっかりだよね!?」
「ちっ! じゃぁかわりに……」
百合営業配信がいつの間にか地獄企画配信になっていた。
打合せと違うんだけど!
◇◆◇◆◇◆◇◆
配信が終わって、コメントやSNSでエゴサした結果。私の秀一君への横恋慕疑惑は、まどかと付き合うネタで塗り替えられていた。
「ふぅ。なんとかなったわね」
「なんとかなったわねじゃないわよ! やり過ぎよ!」
「あはは。ごめんごめん」
「あー疲れた……今日はありがとうね」
「ねぇ。アリサ」
「ん?」
「私ちょっと本気になったかも……」
これは……琴音ちゃんが秀一君を見る時の顔と同じだ。
「はあぁぁあっ!?」
「ねぇ、アリサ。ちゅーしよ?」
「クイック・ステップ!」
って! 自室の中じゃスキルが使えない!?
「冗談」
「もうまどかったら……」
「まずはプラトニックから始めよ? アリサが嫌がることはしないわ」
「……え?」
「本気になりそうなのはほんとよ? 元々アリサとは付き合ってもいいかなぁって思ったから、この企画を思いついただし!」
「ええっ!?」
「百合営業は一度で終わったら、怪しまれるだけだし、その間に私もアリサに本気なのか、気持ちの整理するわ」
どうしてこうなった!?
私はどこで間違えたの!?




