第143話 神々の戦いの真相
俺達は見たことのある風景にたどり着いた
ここは浄土世界の入り口だ。遠くに見えるのは、浄土世界の中心にある須弥山だと思う。
俺達は須弥山の周りを歩き、いつの間にか、九山八海を巡り、そして様々な世界を渡り歩いた。
ここもその一つなのかもしれない。
元居た場所とは似ているけど、別の世界かもしれない。
そんな不安に打ち消すように妙光如来様の声がした。
「案ずることはない」
妙光如来様が歩いて来られた。
その後ろには月華や蒼蓮だけじゃない。十二姫将のみんながいた。
「御主人様! やっと帰ってきた!」
「心配しました……」
白夜、煌姫がホッとしたように笑った。
そんなに心配かけるようなことになっているのか?
「もう帰って来ないかと思ったぞ!」
蒼蓮はちょっと泣きそうだ。
他のみんなも安堵した顔だった。
「え? どれくらい経ってたんだ?」
「もう少しで一年になります」
一年!? 月華が信じられないことを言った。
「えええっ!」
「そ、そんなに!?」
俺と琴音は顔を合わせて驚いた。
「やばくないか!?」
「大丈夫ですよ。現世では二分も経っていません」
妙光如来様の言葉に俺は安堵した。
思い出した。こっちの一か月は現世では数秒だったはず。
「それなら大丈夫かぁ……」
「もう手を離しても大丈夫ですよ」
妙光如来様がそう言ってくれたので、俺は手を緩めた。
「なんか名残惜しいね」
琴音はちょっとためらった後、スッと力を抜いた。
「そうだな」
ちょっと怖いけど、俺達は絡んだ指を名残惜しく解いていく
「ご主人様のオーラがすごい……」
白夜が口をポカンと開けて眩しそうに見てきた。
「……うん。神々しい」
紅羽は相変わらず表情が読めない。
……けど、だいぶ驚いているのが分かる気がする。
「ほんの少しですが、三千世界を歩いて来たのです。もはや只人ではないでしょう」
妙光如来様がとんでもないことを言い出した。
三千世界……確かこの浄土世界も三千世界の一部だ。
ここみたいな世界が十億集まった世界が、三千世界とか呼ばれていたんだっけな?
陰陽師の勉強をした時に少しかじった程度なので、詳しくはわからないけど……
「秀ちゃん……私達ってすごい体験しちゃったのかな?」
「あぁ。さっきまで色々な世界を渡っていたってことだよな?」
「そうですよ。三千世界で様々な試練を受けてもらいました。過酷な状況の中、あらゆる欲求、未練、誘惑に打ち勝ち、お互い最後まで手を離さず信頼しきる。中々できることでありません」
「私達頑張ったよね?」
「あぁ。そうだな」
「修行の成果は目立ったものには見えないでしょう。ですがちゃんと成長していますよ。あちらの世界の魔王は、ここに来る前のあなた達では厳しかった。ですがここで得た力をさらに昇華させていけば、きっと勝てるでしょう」
「はい。ありがとうございます。ですが……」
「秀一は優しく誠実な子ですね。私が手を貸すのは不公平だと」
「……はい」
「つながりも力ですよ。享楽之神へ挑むのです。これでも足りないくらいでしょう」
「やはり、最後は享楽之神と戦うことになるのでしょうか?」
口に出してハッとした。
案内妖精に監視されているはず?
いや、今は案内妖精の気配というか、存在を感じられない。
浄土世界に来た時に切り離されたか?
そんな考えが顔に出たのか、妙光如来様は俺を安心させるようにうなずいてくれた。
「直接戦うことはないでしょう。グランドクエストは享楽之神が用意した契約の試練です。転移する際、享楽之神とグランドクエストをクリアしたら帰還できるという契約がありましね。神とて契約は破れません。享楽之神は他の神仏の介入を拒んでいるようですが、それはあちらが後から決めたこと。契約外なのです」
神様の決めごとってことか。
「私が手を貸すのには、いくつか理由があります」
「……それはなんでしょうか?」
「愉悦之神が助けを求めてきたのです」
「え? 愉悦之神が助けを?」
「自分は悪神と呼ばれても構わない。どんなことになっても構わないから止めてくれと。私利私欲のために地獄を創り、人を連れ去り、後のことな考えずに、魔法やスキルを与え、それを見世物にして神力を集めるなど、友人として見ていられないと」
「……そうだったんですね」
だけどそのせいで、プレイヤー達は何人も死に、アルベールも怨念となった。
「秀一の疑問もわかりますが、愉悦之神は死者の魂をあの都市……ダムゼルで保護しているのですよ。怨霊と化したアルベールや彼に殺されたデーモン達も」
「えっ!」
「愉悦之神は確かにアルベール達を騙して、たきつけました。ですがそれも本気で戦って人間に討伐されて、初めて輪廻の輪に戻れるルールを適用するためです。あの時アルベール一派のデーモン達は、手を抜き秀一達の手にかかって死にました。それは自殺と同じことです。輪廻の輪に戻れなかったでしょう。彼らを本気にする必要があったのです」
「そうだったんですね」
「そしてもう一つ。私には後ろめたいことがあるのです。秀一の式神が愉悦之神に利用されるのを見逃してしまいました。すまなんだ。式神達を一時的とはいえ、粗末に扱うことになってしまいました。その償いとして、こうして手を貸し、修行を行ったのですよ」
「心遣い感謝します。ただ、私のことよりも、その……式神をよろしくお願いいたします」
「そうか。ならば引き受けるとしましょう」
「ありがとうございます」
「ではそろそろ戻りなさい」
スゥと視界が白くなり、気づけばそこは現世だった。
視線を落とすと、そこには平伏しているリリスとリリィがいた。
「調伏をお願いします」
「私達も再びあの場所へ」
「わかった」
俺は再び調伏の術を唱えた。
もうこいつらの真名を知っている。
夜宵と夢月だ。




