第140話 双子
「あ~あ~。王子様ざこすぎ」
「使えないざこだったわね」
また双子の声だ。
(御主人様。全員の解呪と儀式の準備が整いました)
そこに煌姫の念話が届いた。
待ってたぜ!
(わかった。みんな良くやった!)
「一時てったーい」
「次は負かせ……あれ? 下僕君がいなくなってる?」
そうだろうな。俺の式神達がなんとかしてくれたぜ!
「オン・マシャリタ・ウン・ケン・ソワカ! オン・マシャリタ・ウン・ケン・ソワカ!」
遠くの方から微かにマントラが聞こえてきた。
ドンっと衝撃があちこち起こり、空を見上げると、八つの光の柱が天に向かって伸びていた。
「オン・マハー・クシェートラ・パーラ・ソワカ! 八陣の光、邪気を断ち、魔を祓う! 浄域結界! 急急如律令!」
「きゃああっ!」
「いやあああっ!」
淫魔の二人が耐えられなくなって、俺の前に姿を現した。
一人は金髪碧眼の黒ゴスロリの少女で、もう一人は銀髪赤目の白ゴスロリの少女だ。
二人共顔立ちがよく似ていて、髪型もロングツインテールで統一されていた。
第一印象は色違いの双子だ。
この都市に張られた結界は邪を封じる儀式結界だ。しかも狐鈴と十二姫将七人の力で張られている。
双子には相当キツイはずだ。
「はーい。負け負け! こんなの勝てるわけないじゃん!」
「あ~あ~こんなはずじゃなかったのに……」
「結界がチクチク痛いから、早く調伏でもなんでもしてよ!」
「少女虐待よ!」
見た目の年齢は中学生くらいか?
絵面的に非常にまずい。
このままでは炎上確実だ。
早く片付けよう。
「お前達、名前は?」
俺は言霊を乗せて命令した。
「リリス」
「リリィ」
まずはリリスからだ。
「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! リリスよ! 調伏の印、いま結び奉る。縁鎖・魂縛・理鎖・封絶・従命! 急急如律令!」
「ぐああっ……」
リリスは大げさに仰け反り……
「なんてね!」
姿勢を戻して生意気な笑みを浮かべた。
そして手をパンっと叩くと、体の前に禍々しい鏡が浮かび上がった。
鏡を隠していたのか!
古来鏡は魔を払い、邪気を跳ね返す呪具として使われてきた。
まずい!
「リフレクション」
リリスに向かって流れていた呪力が、呪具を触媒にした呪詛返しによって弾かれて、逆流してきた。
俺は調伏の波動に包まれ、両膝を付き、頭を垂れた。
「キャハ! ざぁこ! お兄さん弱すぎ!」
リリスの顔が恍惚に歪み、俺を見下すように罵ってきた。
「うししし。弱弱だねぇ。もう私達の言いなりじゃん」
りりィも調子に乗っている。
いや、お前に返されたわけじゃないからな!
「言い返せないのかなぁ?」
「まじでざこ過ぎでしょ!」
双子の淫魔は無警戒に近寄ってきて、俺の耳元で囁きかけてきた。
油断しすぎだ。
俺は……バッと袖口から呪符を取り出し、リリスとリリィの額に貼り付けた。
「オン・アチャラ・ソワカ! 不動の守護者、明かしをもって縛れ! 不動縛符! 急急如律令!」
「なっ!」
「えっ! 動けない」
「……俺がこういった状況を想定していないとでも?」
俺の懐から千切れかけた呪符がひらりと落ちた。
「身代わりの護符だよ」
「くっ!」
「卑怯すぎ!」
さてどうするか? 今調伏しても返されるかもしれない。少女の見た目をしているけど強敵だ。もっと弱らせてから、もしくは勝てないとわからせてから調伏しないと……
え? 自然と頭の呪文が現れた。これは何度か感じたことがある。白夜や炎華の時と同じだ。
これはきっと妙光如来様からのお告げだ。
「オン・スカーヴァティー・マハー・クシェートラ・ソワカ! 清浄なる彼の地、穢れなき光の門、今ここに開かん! 浄土光路・開門! 急急如律令!」
あたりが真っ白にな光に包まれた。
とっさに目を閉じたけど、まぶたの外から強烈な光を感じる。
しばらくして光が晴れると、俺は全く別のところにいた。
さっきの呪文は一体なんだったんだ?
「ぐあああっ!」
「ぎゃああっ!」
双子の淫魔が喉を抑えてもがき苦しんでいた。
まるで祝詞を受けた魔族のようだ。
「ここは……」
目の前に広がっていたのは、どこまでも続く白銀の大地だった。
砂でも雪でもない、細かな光の粒が敷き詰められたような地面は、踏んでも沈まずそれでいて柔らかい。
空を見上げると、青とも金とも紫ともつかない光が、幾重にも重なり合っていた。
遠くには山々が連なり、少し離れた場所には巨大な門があった。
その門は開いていて、その向こうに黄金に輝く建物が見える。
どことなく見たことがある。十円玉に彫られた建物、平等院鳳凰堂みたいな建物だ。
「秀ちゃん!」
琴音が駆け寄ってきた。
「琴音。ここは一体……」
「わかんない。みんなは?」
俺と琴音以外は、双子の淫魔だけだ。
みんなが消えたというより、あの……頭に浮かんだ術によって、俺達だけ転移したのか?
ぐるぐる見渡していると、不意に翡翠が現れた。
一瞬前までそこに居なかったのに、視界を戻したら突如いた。
まるで現世から送還されて戻って来たかのような……
そう。俺はこの風景を知識として知っている。
「ここは浄土世界……の入り口です」
翡翠が少し焦った顔をしていた。




