第136話 狐鈴視点 考察
我は狐の式神、狐鈴じゃ。
よわい九九七歳の魔法少女でもある。
もう少しで九百九十八になるがな。
我のことはこの際どうでもいい。気になったら我のチャンネルを覗くがよい。
さて、今非常に危険な状況に置かれておるようじゃ。
沖田の小僧には期待しておったのじゃが、あやつさえこの都市に囚われおった。今頃結城とやらと合体しておるのじゃろう。
今日はアストラルゲートに集まる予定だったのじゃが、誰一人として来んかった。呆れてものを言えぬわ。
この都市は人の欲求を最大限引き上げる。そんな術がかけられておる。
NPC共には効かぬようじゃがな。
我が思うにここは享楽之神が用意した試練の都市かも知れぬ。戦闘ばかりじゃと、視聴者も飽きるからの。
そして推測じゃが、ここはモンスターに襲われ、廃墟となることを想定した都市だったのではないか? だからここに住まう人は、仮初の魂で作られ、まるでNPCの様な生活をしている。人格を持った魂を自らの遊びで殺すのは忍びないと思ったのじゃろう。
しかしここを襲ったモンスターは人々を殺さなかった。
そのモンスターは十中八九、秀一の元式神じゃろう。そして手引きした愉悦之神は、ある程度転生前の知識を残し、現代日本風の誘惑を仕掛けてきた。ジムも美容院も、ライブ施設もこの世界に似つかわしくないからの。
もしかしたら愉悦之神の慈悲かも知れぬな。
その愉悦之神が作ったモンスターは、我らをこの都市に捕らえようと暗躍しておる。現に皆ここでの誘惑に負け、好き勝手しておるしの。
キャサリンは筋トレ、レンは美容、アリサ達はライブ会場を見つけ、歌配信に夢中になっておる。
皆、普段やれぬことをやれて、息抜きになれたのは良いことじゃが、長居は禁物じゃ。そろそろ解放せねばならぬな。
そして皆が誘惑に負けたのは、己の欲望を増幅する術にもかかっておるせいじゃ。
秀一と琴音は誘惑と言うより、いつも心に秘めた思い。それをどうにかしたいという思いが爆発したようじゃな。
秀一は式神のアプローチのせいで、琴音に嫌われたらどうしようと思っておる。
琴音は秀一が何を考えているのか、本当に自分を愛しているのか、式神やアリサに浮気をしていないのか、それを知りたいと思っており、信じるに足りる言葉や行動を欲しておる。
その答えを得るために、感情をぶつけ合って大喧嘩の最中じゃ。
「ねぇ秀ちゃん! そろそろいい加減にしないと、別れちゃうかもよ!」
「どうしろって言うんだよ! 琴音だって、式神にきつくするなって、言っていただろ!」
「言ったけど! 本当は嫌なの! 気づいてよ! わかってよ!」
「我慢しているなら言えよ! 遠慮する仲じゃないだろ!」
「うー! 私だって秀ちゃんを追い込みたくないの! 嫌われたくないの! 察して欲しいの!」
「察するって難しいんだよ! 俺には無理だよ! じゃあ式神を出さない! これでいいだろ!」
「それはダメ! 私達だけじゃ勝てない! だってそう仕組まれたかもしれないじゃん!」
「利用するだけの一方的なのは、嫌なんだよ! 無理なんだよ!」
「それはそう! 私もそんなことする秀ちゃんは嫌だから、なんとか折り合いつけて!」
「それができたら悩んでない!」
「私だってこんなこと言いたくなかった! でもなんかもう無理! こんな私嫌! 嫌な人間になりたくない! 助けてよぉ!」
「なんだ月華! 今は念話するな! 煌姫も! 白夜も! うるさい! うるさい!」
む、式神共が秀一に念話を送っておるのか?
「ええい! わかった! 来い! 白夜! 炎華! 蒼蓮! 月華! 煌姫! 紅羽! 翡翠!」
秀一も成長したの。それとも式神達との関係が良いゆえか、とうとう詠唱なしで呼べるようになっておった。
我も次は詠唱なしで呼べるのかの?
ずっと出ずっぱりで、縁も深くなっておるしな。期待しておるぞ。
黄金の襖が弧を描くように並んで出現し、一斉に開くとそこから式神共が降りてきた。
皆かしこまって頭を垂れ、片膝をついた。
「我ら十ニ姫将、ご主人様の悩みの種になりたくありません」
煌姫が代表して口を開いた。
「私達が一番恐れているのは式神を解かれること」
続いて白夜も頭を上げず、少し震えた声を放った。
「我らのことは道具や駒とお使いください」
蒼蓮らしいと言えばそうじゃが、皆もそう思っているのか。
「それはできないと……」
秀一は戸惑いながら口を開いたが、どう対処したらよいかわからぬのか、言葉が尻切れトンボになっておる。
「秀一様は優しすぎるのです。本来陰陽師は式神を縛り、無理矢理にでも使役するものでございます」
そういえば、炎華は縛りを入れておったの。今思えば縛りなど入れる必要なかったか。
「私達はその優しさに甘えてしまいました」
今日の月華はまじめじゃな。いつもふとした瞬間、狂気じみた恋慕の目で秀一を見ておったが、時と場合をわきまえておる。
「……自重する」
紅羽はいつも簡潔じゃな。
「我らは秀一様の式神です。いかようにもお使いください」
翡翠はまだよくわからぬ。最初は下心が見え見えじゃったな。今はそうでもないようじゃが……
「我ら一同身を引く所存です」
最後は皆声を揃えて言ったせいで、秀一がおじけづきおった。
しゃんとせえ。
「そんな、それってもしかして……」
琴音は自分のせいだと思うじゃろう。
「琴音様。もし心が痛むのなら、一つお願いがあります」
いつも代表するのは煌姫じゃな。
「なに?」
「来世の秀一様をください」
「え?」
「琴音様と秀一様が同じ時代に生まれない。もしくは同じ時代に生まれても、出会わない場合、私達が秀一様を落とします。構わないですよね?」
「……まぁ来世のこととかピンと来ないし……。出会わないならいいんじゃないかな?」
琴音はどうしていいのかわからぬのじゃろう。秀一に助けを求めたのじゃが、それは酷というものじゃ。
「琴音がいいなら……」
「そんなのわかんないもん。秀ちゃんが決めてよ!」
「秀一様も宜しいでしょうか」
「……わかった。今世の代償として、俺を好きにしていい」
その言葉は危険じゃ。まぁ式神共は意味をくみ取ってくれるじゃろう。もしもの時は我が助ければよいこと。
「その言葉を励みに今世で秀一様と琴音様の力になりましょう」
式神達の雰囲気がいつも通りに戻ったな。
「とりあえずここをどうにかしないとねぇ」
白夜が辺りを見渡した。この都市全体に広がる嫌な雰囲気のことを言っておるじゃろう。
「……あの双子の気配がする」
紅羽は言葉が少ない。もう少しわかりやすく話して欲しいものじゃ。
「やっぱり俺の式神なのか?」
「はい。秀一様の前世が調伏した、双子の淫魔です。みんな自分の欲に負けて大変なことになっているわ」
「……私の欲望」
「琴音様。気にしてはダメよ。あなたの欲望は正しかった。むしろ歪だった私達の関係を、正しい方向に向けてくれた。怪我の功名ってやつね」
煌姫がフォローするように言った後、軽くウィンクをした。気が利く奴よの。
「そう……なのかな?」
「ええ。もちろん」
「手分けして、一人一人片付けていきましょう」




