第135話 誘惑の都市
みちるさんのパーティーは拓哉さんに連れられて、近くの飲食店らしき建物へ入っていった。
拓哉さんはみちるさんの元パーティーメンバーだったらしく、みんな笑顔で離れていった。
拓哉さんの話によると、アストラルゲートは都市の西側にあるみたいで、俺達は東門から入ったのでちょうど反対側だ。
「ちょっと……あれって!」
キャサリンさんが興奮した声を上げた。そのままフラフラと……いや、ドスンドスンとガラス張りの建物へ、吸い込まれるように歩いていった。
まるで現代日本の建物に見えたが、よく見ると石造りで、正面だけ大きくガラス張りになっていて、中の様子がうかがえる。
「す、素敵……」
キャサリンさんはガラスに張り付いて、中の様子を覗き込んでいた。
その建物は、現代日本でいうところのスポーツジムだった。
建物の中にはテレビで見たことがある道具や機械が並んでいた。
バーベルやダンベルを持ち上げるマッチョ達、筋肉に負荷をかける機械を使って、自分を追い込んでいるマッチョ達、そしてその様子を見て指示を出しているマッチョなトレーナーらしき人達がいた。
「なんてことかしら……道具や機械は買えても、適切な指導で導いてくれるトレーナーはいないわ。でもここになら……」
「すごいマッチョ達だね」
レンさんがキャサリンさんの隣に立ってポーズをきめた。
まどかさんと凛さんもなぜか食い入るように見ている。
「ねぇ、一日でいいの。少しだけここで筋肉を追い込んでもいいかしら?」
「いいと思うよ。みちるさん達も今日は話し込んでいると思うしね!」
「いいんじゃない?」
「ええ。少しは息抜きも必要よ」
まどかさんと凛さんも賛成していた。筋トレが息抜きになるかどうかはさておきな。
師匠を見ると、ちょっと厳しい顔をしたが、ふと息を吐いた。
「いいんじゃねぇか。キャサリンがお願いしたのを初めて見たぜ」
確かにそうだ。キャサリンさんは一見近寄りがたいマッチョなオネェに見えるが、責任感が強く、そして人格者だ。
いつも他人を気遣って、自分のわがままを出さない。
そんな彼が見せたお願いだ。
師匠ですら許可してしまうのも頷けた
キャサリンさんを置いて先に進むと、綺麗な建物が見えた。
その建物の前で、今度はレンさんが立ち尽くした。
「レンさん?」
「あぁ。ごめんね! ちょっとあの小瓶が気になって……」
建物の外側はガラス張りのショーウィンドウになっていた。
そこには綺麗な形をした小瓶と、綺麗な女性の絵が並んでいる。
まるでコスメショップみたいだ。
「ここはコスメショップでもあり、ビューティーサロンでもあるのさっ!」
レンさんの案内妖精が説明を始めた。
「美容に必要な薬品を取り扱ってたり、奥でエステもしてくれる。あぁもちろん安全は保障するよ」
「それはすごい!」
それを聞いてレンさんのテンションが上がり、かぶりつくようにもう一度中を覗き込むと、既にアリサさん、凛さん、まどかさんが入っていた。
いつの間に!
「なっ! 困った子猫ちゃん達だな!」
そう言ってレンさんも店内に入っていった。
「あーもー! やめだ! やめだ!」
師匠が頭をゴリゴリとかきむしった。
「はい! 今日は自由時間! 各自自由行動だ! 明日はアストラルゲートに集合だぞ! 時間は十時だ!」
師匠の言葉にみんな歓声を上げた。
この都市は拓哉さんが言ったように、魅力がある店がいっぱいあったのだ。
「沖田さん」
「あ? あぁ、結城ちゃんどしたの?」
「あちらの喫茶店で少し話せませんか? 最近のことで。色々と聞きたいことがあるのです」
「お! いいよいいよ! おじさんどこへでも付き合っちゃうよ!」
師匠が鼻の下を伸ばすところは見たくなかったなぁ……
んっ? 狐鈴が妖気を放った?
それはまるで呆れたような、ちょっといらだったような、それを発散させるような放ち方に思えた。
「秀一。琴音。我らはゲートに行くぞ」
「え~私もコスメショップ行きたい!」
「だめじゃ」
狐鈴はいつになく厳しい顔になった。
「お主達まで囚われるでない」
俺はハッとなった。みんな何かに惑わされている?
まかさ師匠達まで!?
「ふむ。精神攻撃の類ではない。対抗呪符も効果がないか……」
気づけば俺と琴音の背中に、精神攻撃に対抗する札が張られていた。
「いや、少しは効いておるのか?」
確かに師匠の言葉はいつもより厳しくない。琴音も少し惑わされているような気もする。
「琴音」
俺は琴音の手を握った。
「ゲートまでデートだ。買い食いしながらいこうぜ」
「しょうがないなぁ」
そう言って琴音は腕を組んできた。
後ろを振り向くと、狐鈴が小さく笑って頷いていた。
「ざこすぎない?」
「きゃはは! ちょろすぎ~」
遠くでそんな声が聞こえた気がした。
子供がなにかで遊んでいる声かな?
この都市は平和でいいな。




