第134話 予期せぬ再会
マドールの町から北上して一日後、大きな都市にたどり着いた。
この都市はかつてダムゼルと呼ばれていた。綺麗な白い城壁に囲まれ、都市の上を天馬が飛び交っていたらしい
「普通に人がいるね」
上空から都市を見下ろすと、目抜き通りには露店が軒を連ね、色とりどりの野菜や様々な肉が並べられ、飲食できる屋台から煙や湯気が上がっていた。
行き交う人々は生き生きとしていて、子供が走り回り、公園では老人が日向ぼっこをしていた。
外側に近い住宅街では洗濯物が揺れ、井戸端で女性達が笑いあっていた。
廃墟だったマドールとは全く違う。ここだけ時が止まっていたかのように、普通の日常がそのまま残っていた。
「幽霊か? それともデーモンが化けているのか?」
「えっ? 幽霊!? 私ちょっとお腹が……」
アリサさんの顔が青ざめた。苦手な空路での移動に加え、幽霊話まで出てくるなんて、少し気の毒になった。
「まじで幽霊なら、無理することないぞ」
「そうだね。ここは任せて」
「ううっ! が、頑張る!」
「ふむ。安心せい。あれは幽霊などではない。鑑定スキルを使ってみるのじゃ」
狐鈴に言われた通りに、鑑定スキルを使ってみると、『人間・レベル2』や『人間・レベル1』と表示された。
「ただのぉ。おかしいのは確かじゃ……」
念のためスキルを強化してから、再度鑑定スキルを使っても結果は同じだった。
「ねぇ。どうしよう。あそこにいる人達って敵なの?」
「わからないよ。とりあえず接触してみるしかないかな?」
こんな時は狐鈴に聞くのがいい。
「そうじゃな。何かあっても我がどうにかしよう。我はお主の式神なのじゃからな」
「頼りにしてるよ」
「カカッ! なんぞ久しぶりに聞いたの」
狐鈴の目は少し咎めるような、もっと頼れと言っているような、そんな気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
都市の中は外から見たのと変わらず、普通に人々が暮らしていた。
目抜き通りを歩いていると、食欲を刺激する匂いがあちこちの屋台から漂ってきた。
何があるかわからないので、俺達は固まって都市の中央へ進んで行った。
「食べたら泥団子ってことはないよね?」
琴音の問いに、狐鈴は小さく笑った。
「妖の妖術ではないぞ。むしろこれは……かつてここで暮らしていたものの、残滓かもしれぬ」
「残滓?」
「すまぬ。残りかすという意味じゃが……少し違うの。記憶のコピーが未だここで生きておるのじゃ。言うなればNPCじゃな」
「明らかに怪しいな。この都市」
「うむ。残滓だけではないぞ。この近くにはおらぬが、本物の魂も感じる。油断せぬことじゃ」
「まぎれているのか。今夜はどうする? この都市で夜を明かすか? それとも外でテントを張るか?」
「それ程脅威を感じぬ。我の結界内なら大丈夫じゃろう。虎穴に入らずんば虎子を得ずじゃ」
しばらく進むと、見たことある人がいた。
あれは……そんな……
「……拓哉?」
後ろで声がした。
「やあ。みっちゃん」
「うそ……だって拓哉は……え……なんで私……今まで忘れてたの……」
プレイヤーの死亡者名簿に載ってしまった人だ。
俺達がこの世界で死亡すると、忘れ去られてしまう。
まるで都合が悪いことを隠すように……
「拓哉!」
女性ストリーマーの立花みちるさんが、俺達をかき分けて、拓哉さんの胸に飛び込んだ。
「みっちゃん! また会いたかったよ!」
拓哉さんは立花さんを抱き止めた。
「ねぇ! どうしちゃったの!? 生き返れたの!?」
「わからない。気づいたらここにいたんだ」
「そう! じゃあまた一緒に冒険できるね!」
拓哉さんを鑑定すると、『人間・レベル42』いたって普通だ。
どこもおかしくない。言動も行動も。
「……それはできないんだ」
「え? どうして?」
「僕はこの都市から出られない。生きているけど、この都市に縛られているんだ」
「どういうこと?」
「僕だってわからないよ。でもわかるんだ。この都市で出たら死ぬ」
「……そんな」
「よう。感動の再会のところ悪いんだが……」
師匠が二人の側に立った。
「お前敵なの?」
「ぼ、僕は敵じゃない。僕は忠告に来たんだ」
「あ?」
「僕は陰陽師でも超能力者でもないからわからないけど、この都市は何かおかしいんだ」
「それは俺も知りてぇ」
「別に危害を受けたりしない。むしろ優しい人達ばかりだ。魔法技術も進んでて、日本にいたころとあまり変わらない暮らしもできているんだ」
「ほう」
「だからここに長くいちゃいけない。僕みたく囚われてしまうかもしれない」
「お願いがあります!」
みちるさんが師匠を見上げた。
「一日でいいので、拓哉と一緒にいさせてください」
「……俺が決めることじゃねぇな。お前のパーティーに聞いてみな」
「はい!」
「ただし。やることやったらここを出発する。その時は拉致してでも連れていくからな」
「わかりました!」
俺達はこの時、拓哉さんの忠告通り、すぐに引き返すべきだったんだ。




