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第132話 翡翠

 マドールでの戦いから数日後、やっと落ち着いてきたところで、翡翠を召喚することにした。


「オン・アムリタ・ヴァルナ・シャンタ・ソワカ! 星水の座、清流の霊女、深淵を統べる霊水将。ここに応えよ。来たれ! 翡翠! 急急如律令!」


 黄金の襖が宙に現れ、タンっと開いた。

 そこから薄い水色のワンピースを着た翡翠が現れた。そして一歩一歩見えない階段に足をつけるように降りてきた。


 シーツで隠れていたのでわからなかったけど、サラサラの黒い髪は腰まで伸びていた。不意に来た微風になびき、翡翠はそっとなびく髪を手で抑えた。


「お久しぶり……でないないのですね。言葉すると悲しいのですが、今世では初めまして。私の御主人様」


「あぁ。すまない。覚えていないんだ」


「それは仕方のないことです。それより先日はご迷惑をかけて、申し訳ございませんでした。そして助けて頂きありがとうございます」


「あぁ。気にするな。これからよろしくな」


「はい」


 翡翠は花のような絵美を浮かべて答えてくれた。

 なんだろう。今までにないまともさだ。

 今までが一癖二癖あるやつらばっかりだったからか、気になっただけか?

 いや、そうでもないか。煌姫だってまともだし、月華だってグッズを作りたがる以外は、沈着冷静で頼れる軍師だ。

 強烈な奴がいるから気にし過ぎていただけだな。

 

「琴音様」


 翡翠が琴音を見て微笑んだ。


「……なに?」


「今日は御主人様とデートをしますか?」


「え? 今日は冒険しないから、この後秀一ちゃんとまったりしようかなと」


 そうそう! マドールのアストラルゲートから、常夏の島へ行けるようになったんだ!

 享楽之神がつないでくれたそうだ。

 これで常夏の島経由で、いつでもギルトに帰れる。

 配信用の動画製作やサムネイル作りは、自室のパソコンからしかできない。

 戻れないと配信に支障が出るからな。


「そうですか。私もご一緒してもよろしいでしょうか? 御主人様とひさぶりにお話しがしたくて……。決して二人っきりになりません。お話しする時は琴音様も一緒です」


「……まぁ積もる話もあることだし?」


 俺にはないんだけど……


(御主人様! 今すぐ私を呼んで!)


 煌姫の声が頭に響いた


「ちょっと待った。煌姫が呼べって」


「ちっ」


 え? 気のせいかな? 翡翠が舌打ちした気がする。


「オン・プトゥリー・シャクンタラー ・マハーラーニー・ソワカ! 光月の座、破邪の天女、六翼を翔る霊光将。ここに応えよ。来たれ! 煌姫! 急急如律令!」


 黄金の襖が現れると、こじ開けるように煌姫が出てきて飛び降りた。

 煌姫にしては行動が荒い。焦っている?


「御主人様! 翡翠は危険です! 話す時は私を同伴させてください!」


「ええっ!? 翡翠!?」


 翡翠を見ると、険しい顔になっていた。

 え? さっきまで微笑んでいた、清楚な顔はどちらに……


「煌姫! 邪魔をしないで!」


「翡翠! ちゃんと協定は守りなさい!」


「あのような協定、守れるはずがありません。どうして皆さんは我慢できるにですか?」


「我慢ってなんだ? 俺は何か酷いことしてるのか?」


「御主人様。聞いてはいけないわ。翡翠は清楚に見えて……頭の中は常に……ええと……ピンク色なのよ!」


「え?」


「余計なことを……」


「え?」


「御主人様、知りたいですか?」


「そりゃあ、俺が悪いところがあれば知りたい」


「そうではないのですが……」


「だめよ! 聞いてはだめ!」


「私の頭の中で、御主人様はもう……ぐふぉぉおおっ!」」


 いつぞやのシルヴィア……いや、もう蒼蓮か。蒼蓮のように、翡翠の頭が何かに殴られたように下がった。


「くっ、妄想くらい……いえ、お、お許しください」


「妙光如来様はお怒りよ」


「そ、そのようで……」


 翡翠の真後ろに金の襖が現れて開くと、金色の腕がいくつも伸びてきて、翡翠を掴んだ。

 

「御主人様! 私をむぐうう」


 黄金の手が翡翠の口を塞ぎ、すごい勢いで連れ去った」


「一体なんだったんだ……」


「秀ちゃん。あの子は危険な気がするよ!」


「……確かに」


「琴音様の言うとおりです」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 私の名前は翡翠。御主人様の翡翠です。

 

 私は今、妙光如来様からありがたいお説教を受けています。妙光如来様から直接お話を聞けるなど、普通ありえないことです。

 

 先日御主人様に調伏されて、魔物から本来の姿に戻ることができました。

 

 調伏って、少し卑猥だと思いませんか? まるで御主人様に屈服して、全てを委ねるような。そんな響きがします。

 一度転生したことによって、今世で私はまだ清い体です。早く御主人様のものに……ぐあああっ!

 

 痛い痛いです! 頭に付けられた輪っかが締まります!

 

 はい。すみません。ちゃんと聞きます。

 清く正しく美しく、ですね。

 清くと言えば……堅物の月華が、御主人様へお手付きしないという協定を提案し、こともあろうか多数決で可決したのです。ありえないことです。昔は全員で御主人様の寵愛を……んあああっ!

 

 はい。ちゃんと聞きます。 

 あの頃の記憶が蘇ると体が熱く……ぎゃあああっ!

 

 ……あまりの痛さにしばらく気を失っていました。

 まだ説教が足りないと……すみません。

 

 まずいです。このままではいつまで経っても終わりません。

 心頭滅却すれば、火もまた涼しい。いえ、妙光如来様の説法が嫌だという意味ではありませんよ。

 

 火……燃えますね。私の心は常に燃えています。燃料はもちろん秀一様です。えぇ。もう秀一様で……今すぐうごごごっ!

 

 

 悶えること数日後。

 私はとうとう悟りを得ました。

 清楚とはどういうことか。

 可憐とはどういうことか。

 わからされました。

 それはもうきっちりと。

 

 妙光如来様以外にも、様々な如来様が助っ人にいらした時は、もうだめかと思いました。

 危うく浄土世界から出禁になるところでしたが、ギリギリのところでなんとかなりました。

 

 あの恥ずかしい私はもういません。

 妙光如来様から解放され、十二姫将の宿に戻ってこられました。

 

 ふふ。皆さん、この清らかな私を見てください。

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