第130話 触手のお約束・アリサ危機一髪
マドールの町で巨大な破裂音がしたかと思ったら、水で出来た巨大なドラゴンが何体も現れた。
水の流れが弱まってきた段階で、慌てて確保したのかも知れない。
「ちょっと冗談じゃないわよ! ウォータードラゴン、レベル四百七十ってなに!?」
まどかさんが非難めいた声を上げた。
「まぁ、やりがいがあるんじゃない?」
そう言う凛さんの声は引きつっていた。
「でもやるしかないわねぇ」
キャサリンさんの声も若干震えていた。
「ふっ、本体は……まだ見えないか」
レンさんが何故か薔薇を取り出してくるくると回すと、案内妖精にウィンクしていた。
「早川君達は大丈夫なの? 本体はもっとレベルが高いんじゃない?」
まどかさんが不安そうに聞いてきた。
「俺達にレベルは関係ないさ。こっちの世界に来る前はレベルなんてなかった。大丈夫さ! 余裕があったらそっちも倒しちゃおうかな?」
「ふふふ。さすが陰陽師の早川君ね! こっちも負けてられないわ!」
「そうね! 私達もサクッと倒して、早川君を援護しよう!」
まどかさんと凛さんが拳を突き合わせた。
「そうねぇ。筋肉コンディションも最高よ。この上腕二頭筋が火を吹くわ!」
「まぁ僕の美貌の前では、ドラゴンも恐れおののくかもね! ニカッ!」
キャサリンさんもレンさんも、言ってる意味がわからない。
「そっちも気をつけてな!」
「えぇ。身代わりの呪符までもらったし、サクッと倒してくるわ!」
まどかさん達は飛行の魔法を唱えて先に飛び立った。ウォータードラゴンの気を引くためだろう。
他のパーティーもまどかさん達に続いて飛び立っていった。
その好意を無駄にできない。俺達は目立たないように地上から接近することにした。
「スプリンター!」
俺達は高速移動のスキルを発動して、地面を蹴った。
草原を駆け抜け、廃墟と化した町に入ると、あちこちから水の触手が襲いかかってきた。
俺達は触手を避け、時に凍らせながら本体を探して駆け抜けた。
こんな時に鑑定スキルが役に立つ。
「秀ちゃん、あっち!」
琴音が指差す方を見ると、壊れかけた家越しに、『ウォーターエレメンタル・レベル520』と表示された。姿はまだ見えないが方向はわかった。
「ダブル・ジャンプ!」
崩れた家を乗り越えるために、スキルを発動させてジャンプすると、水の触手が襲ってきた。
「はっ!」
二段目のジャンプスキルで触手をかわし、
「エア・スキャフォールド」
さらに襲ってきた触手を、足場を作るスキルを発動させ、空中で蹴って避けた。
着地するたびに触手が迫ってきたが、移動スキルを駆使して、避けながら進み続ける。
「ひぃいいああああ!」
悲鳴の方を見ると、アリサさんが足を触手に掴まれ、かなり高いところで逆さ吊りにされていた。
なんとかスカートを押さえて、配信を守ってる。
掴まれた部分のシールドが削られているのか、その部分が虹色のダメージエフェクトで点滅していた。
「やっぱりこうなるのよぉおおお! 触手なんて大嫌い!」
「ダブルジャンプ!」
俺はスキルを使って、二段ジャンプして高度を稼ぎ、アリサさんの高度までたどり着いた。
「氷華斬!」
氷属性の斬撃スキルで触手を斬り、凍ったところで刀を切り返して砕いた。先端の触手が力を失い、アリサさんが解放される。
すかさずスキルで空中に足場を作って一瞬静止し、落下してきたアリサさんを両手で受け止め、お姫様抱っこのまま落下した。
「あ、ありがとぉおおおっ!」
無理に喋るな!
「フォーリンフォール! 琴音ぇええっ!」
着地のために浮遊の魔法を発動させた。
ゆっくり落ちるために、どうしても隙だらけになる。
「アイスピラー! アイスピラー! アイスピラァァアー!」
琴音が無詠唱で氷の柱を次々と生成した。
押し寄せる水の触手が柱に阻まれ、俺達は無事に着地できた。
「来るぞ!」
狐鈴の警告とほぼ同時に、あちこちから水の触手が襲いかかってきた。
「紅羽!」
「……ん」
水色の線が無数に走ったかと思うと、触手が次々と凍っていく。
しかし触手は凍った部分を切り捨て、短くなった分、細く伸ばして再び迫ってきた。
「アイス・ジャベリン!」
氷の槍を無詠唱で打ち出すと、閃きが来た。
「アイス・ファランクス!」
俺の周囲に氷の槍が八本現れ、触手に向かって一斉に発射された。琴音とアリサさんも閃いたのか、無数の氷の槍が触手を迎撃していく。
そして狐鈴が落ちた氷を狐火で蒸発させていった。
「まどろっこしいわね! みんな、カバーよろしく」
そう言ってアリサさんが呪文を唱え始めた。
「オン・クールマ・ウッタラ・ヒマ・ソワカ! 祖、安倍晴明の名と血の元に命ずる。北方の守護者、大地を統べる玄冥の霊獣よ! ここに来れ! 玄武! 急急如律令!」
空が暗くなったかと思うと、巨大な亀が降ってきた。
ズドォンと大地が震え、立っているのが精一杯になった。
ふとアリサさんを見ると、しりもちと突き、危うくスカートの中が見えそうになっていた。
アリサさんは慌ててスカートを抑えつつ、俺を一瞬睨んだ後、前方に向かって指をさした。
「やっちゃって!」
玄武がゆっくりと息を吸い込み、凍てつく息を前方へ吐き出した。
地面が白く染まり、触手が根元から凍りついていく。大地そのものが極寒の世界へと変わっていった。
「すげぇ」
再び鑑定スキルを使うと、倒壊した建物の向こうにウォーターエレメンタルの名前が見えた。
あと少しだ……




