第129話 水の怪異
マドールの町に入ったプレイヤー達は、全員逃げ戻ってきた。
無限に湧き出る水の触手に対応できなかった。
もしかしたら、マドールを襲った魔王軍のモンスター達は、全て水の触手によって殺されたのかもしれないな。
その後も近寄るモンスターは皆殺しにされ、草木の肥料になったとか……
みんなの話を聞くと、水の触手はレベルは四百から四百五十くらいだ。
ほとんどのプレイヤーよりレベルが高いな。それでも戦えるってことは、もうみんなブレイブハートなんて必要ないくらいには、成長しているってことだ。
触手の攻撃方法は回転ドリル。
これが厄介で、ゴリゴリとシールドが削られていく。
今のところ犠牲者は出ていないが、シールド値が残り十パーセントまで削られた者もいた。
そして重要なのは水のモンスターがいるのではなく、水そのものを操るモンスターがいるということだ。
紅羽が言うには、俺の元式神――翡翠の核として使われているらしい。
翡翠は水を自在に操る力をもっているらしい。
それを裏付けるかのように、アイテムボックスからペットボトルを取り出したら、そこから襲われたパターンもあった。
どうやら純粋な水しか操れず、ジュースやお茶は襲って来なかったらしい。
「ねぇ。秀ちゃん。ここならアレ使えるんじゃない?」
「あれって?」
「超高高度から、でっかい石を落としちゃおうよ」
「町が吹っ飛ぶだろ!」
「もう無人だし?」
「拠点にするんじゃないのか? そもそもこの国のアストラルゲートを復旧しないといけないんだぞ」
「そうだった!」
「じゃあ、玄武の力を使って、町ごと氷漬けにしちゃう?」
アリサさんが別のアイデアを出してくれた。
「それで倒せるなら……」
「なぁ。いいか?」
たしかゲーマーの……獅堂なおとさんが手を上げた。
「もし地下水とか流れてたらまずくないか? どこからでも水が噴き出すってことは、地下水があるかも」
「地上だけ凍らせてもダメってことか……」
「じゃあどうするの?」
「町の外まで追って来なかったな」
「町の外というより、こっちの方面に地下水が流れてないからとか?」
「つまり水がないと行動できない?」
まずい! みんな一斉に意見を出して収集がつかなくなってきた。
「おい……」
師匠が一括入れそうな雰囲気を出したところで、桃瀬さんが手を上げた。
「ねぇ! それなら私にユニークスキルが使えるかも!」
桃瀬さんが声を張って手を上げたことで、みんなの視線が集まった。
「私にユニークスキルは自然現象。雷が落ちそうな天気だったら、落雷を落としたり、地下に水脈があったら、ウォーターカッターを地面から出せる。その副産物として、水脈があったらわかるの」
「なるほどな。お前すげぇな。陰陽庁にスカウトしてぇくらいだ」
師匠が関心すると、桃瀬さんは苦笑いをした。
「あはは。それは遠慮します」
「ありゃ。振られちまったな。まぁそれはいいや。ってことはよ。もし町に入る地下水脈があったら、堰き止めたり、別の方向へ向かわせればいいって話だな」
「はい。倒す間だけでいいなら、ため池をつくるだけでもいいかなと」
「なるほどな」
「あっ! はいはい!」
「おう。えーと……」
「空太です」
「おう。何かいいアイデアあるのか?」
「俺にユニークスキルはゴーレム生成です。土を固めて作ったりもできます。土を材料にすれば簡単に穴が掘れるし、ゴーレムを並べて壁も作れます。もちろん岩を材料にすれば、硬い岩盤だって穴を空けられます」
「なるほどな。ゴーレムでため池を作るってことか」
「町を迂回させるのは?」
「大掛かり過ぎない?」
「地下水って地下を流れてる川だよな。太さによるんじゃないか?」
「細かったらため池で、太かったら迂回とか?」
「とりあえず調査だな。水さえ尽きれば倒せそう?」
方針が決まってきたせいか、再び意見が飛び交った。
「触手の化け物だけでもレベル四百オーバーなんだよね。本体ってやばそう」
「どうせまた早川の元式神なんだろ? 俺達で触手をなんとかするから、本体は早川が調伏だっけ? してもらう方がいいんじゃないか? その後戦力になるんだろ?」
「俺達が倒しちゃったら悪いしな!」
確かにまだ言ってなかったけど、紅羽の情報によれば俺の元式神だ。
「みんなすまない」
「そうと決まればまずは調査だな。桃瀬ちゃんのパーティーだけでいけそう?」
「えぇ! 今日の視聴率は私達が頂くわ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
桃瀬さんのパーティーが持ち帰った調査結果によると、やはり町の下に地下水脈があった。
地下水脈はそれほど大きな物ではなく流れも緩やか。一時的にため池を作る程度で済みそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日の昼前、俺達は遠目に町が見えるあたりで待機していた。
今頃、桃瀬さんのパーティーが町の外で地下水脈の位置を特定し、空太さんのパーティーがゴーレムで地下水脈をせき止め、そのままため池を作って、町に地下水が流れないようにしているはずだ。
残りは各パーティーごとに集まって、信号弾が打ち上がるのを待っている。
その間に俺は、再び紅羽を呼び出した。
「……ん。嬉し」
紅羽が案内妖精の前にトテトテと歩いて行き、案内妖精の顔を覗き込んだ。
「……おー。みんな見てる?」
するとコメントが高速で流れ出した。
近い近い! とか、紅羽ちゃん可愛い! とか……ウルチャで私も呼んでーってこれは白夜か。
浄土世界からウルチャってどうやってやってるんだ? というか式神も収入あるの?
「紅羽。お前達って、浄土世界で働いてる?」
「……ん? お給料? ……月華からお小遣いもらってるよ?」
「まじか……。ウルチャで無駄遣いするなよ」
「……浄土世界はお金いらないし、スマホの料金は月華が出してくれるし……使い道がない。あっ! 秀一様グッズ! いっぱい出して!」
「……その内な」
俺のグッズって式神以外に需要あるのか? でも最近ファンも多くなってきたし、ちょっと出してみようかな?
コメント欄に、グッズ開発について後ほど打ち合わせをお願いしますと、月華のコメントが上がった。
すると今度は欲しい人! と白夜がコメントしやがった!
おおいっ! 何やってるんだよ! 俺のグッズなんて……え……?
『ノ』と挙手のコメントが結構あるんだけど……
「まじかよ」
「あんたもそろそろ自覚持ちなさいよ」
アリサさんがちょっと呆れ顔になっていた。
「そうだよ! 秀ちゃんの抱き枕カバーとか出しちゃおう!」
「それは絶対に嫌だ!」
「月華さん。グッズの制作会社やノウハウについて協力できると思うわ」
アリサさんまで混ざってきたよ!
「正直恥ずかしいんだけど……」
「諦めなさい。需要あるんだから」
ワイワイやっていたら、町の南の方で信号弾が上がった。
信号弾といっても、ファイアー・ボールだけどな。
ファイアー・ボールが爆発した音を聞くと、みんな緊張が走り気持ちが切り変わった。
「作戦開始だ!」




