第126話 ヤンデレASMRとあまあまASMR
「秀ちゃん♡ 好き♡ 好き♡ 大好き♡!」
「……!」
声を出せないのが辛い! 俺も琴音が好きだと言いたい!
俺が悶えているのを見て、琴音がドヤ顔になった。
「ふふん。どうよ!」
「いや、対象は視聴者だから、秀ちゃんって言っちゃだめでしょ?」
「ええ! でも今は勝負だから!」
「じゃあ、私も秀一君好きよとか言ってもいいの?」
「よ、余裕だし! ねぇ! 秀ちゃん! アリサちゃんの誘惑に負けないよね?」
「大丈夫だ!」
「本当に? 秀一君♡」
「うあああっ!」
「秀ちゃん!?」
「だ、大丈夫だ! 琴音!」
「じゃあさっきのリテイクはなしで、こ、今度は私の番ね。い、いくわよ!」
アリサさんが軽く息を吐いてから、俺の耳元まで寄せてきた。
「好きよ……ずっとこの言葉を言いたかったの……ふぅ……やっと言えた……言葉にできた。ねぇ。この気持ち届いた?」
なんか妙に気持ちが入っている気がする……これがプロってことか?
「さすがにこれはアリサさんだな……」
「秀ちゃん!? ううぅ。でもこれは私でも分かるよ……次はお仕置きASMRだからね!」
「了解よ。そしたら私は、返しで癒しにしようかな」
アリサさんの方が一枚も二枚も上手だ。
お仕置きより癒しの方が良いに決まっている!
「ねぇ。今、他の女の子のこと考えてたでしょ? ちょーと許せないかなぁ。私が一番だって、わからせる必要があるみたいね」
わからせられたい! もうそろそろ限界です!
ちょっと琴音を舐めていた!
今度はアリサさんが、俺の耳に口を近づけてきた。
「……疲れているんでしょう。ちゃんと知ってるよ? 無理しなくていいんだよ? 側にいてあげるから……ね?」
柔らかい声だ。さっきの告白より深く刺さってくる。これがプロなのか……
「むぅ!」
今度は琴音が、俺の反対の耳に口を寄せてきた。もうくっつきそうだ。
「ねぇ♡ 私がいるよ? ずっと一緒にいるよ? 絶対離さないからね♡」
琴音は普段、芝居が入ったようなことは言わない。ド直球の好きをぶつけてくる。でもこういうのもいい! しかも耳元で言われると破壊力が全然違う!
「ねぇ……私のこと……嫌いじゃないでしょ? 今はそれで十分なの。側にいさせてくれるだけでいいから……」
なんか妙に本気に聞こえるのは気のせい……だよな? そうだよな!?
「秀ちゃん。浮気したらどうなるかわかってるよね? みんな死んじゃうよ?」
怖い怖い! もう何のASMRかわからないよ! もうシチュがヤンデレ系になってるよ!
「秀一君。私が癒してあげるね。なんでもしてあげるよ? 例えば……私の……初めてのキス……とか?」
横目でチラっとアリサさんを見ると、耳まで真っ赤になっていた。
「許さない! 許さないよ!」
そのままアリサさんの方を向きそうになると、琴音にガシっと頭を掴まれて、無理矢理琴音の方を向かされた。
「むむむむ! 秀ちゃん!」
「はーい。私の勝ちぃ! というか、琴音ちゃん。途中からASMRじゃなくなってるし……」
「それはアリサちゃんがいけないの! 秀ちゃんを誘惑しないで!」
「いや、これは勝負だし。というか、最初は秀一君の名前ださない方がいいてっ言ったでしょ? それに、秀一君。わかっていると思うけど、演技だからね! 本気にしちゃだめだからね?」
「わ、わかってるよ」
「そんなわけで、勝負は私の勝ち! 勝者へのご褒美は……秀一君が私に囁いてもらおうかな?」
「それはだめ! そんな約束してないし!」
「冗談よ。とりあえず琴音ちゃんにASMRの基礎を教えるわ。このままじゃ本番撮影できないし……」
「むぅ。わかった。でも本番はやっぱりASMR用のマイクでやろうよ」
「そうね。私もちょっとからかい過ぎたわ」
「最近のアリサちゃん。ちょっとからかい過ぎ!」
「そう? 遠慮がなくなっただけよ」
「なくなり過ぎ! 線引きは大事だよ!」
「ごめんごめん。気を付けるわ」
アリサさんがなんとも言えない顔で笑っていた。
やってやった? やり過ぎた? ちょっと後悔?
複雑すぎて読み取れなかった。
「とりあえず、凄かった……。まったく心臓に悪いぞ」
「あんたもね。あれだけやられて……反応が声だけとか、どんだけ琴音ちゃんのこと好きなのよ」
いやいや、かなりまずかったぞ!
「とりあえず、今日中にASMRを撮っちゃいましょう。明日からはそんな暇なさそうだし」
そう。明日から魔族領攻略が始まる。




