第125話 俺、人間マイクになります
どうしてこうなった……
俺は今、自室のベッドに腰かけている。
そしてすぐ右に琴音が座っている。これはいつものことだ。
いつもと違うのは、左にアリサさんまで座っている。しかも近い! 触れそうで触れないくらいだ。
琴音とアリサさんでASMRの勝負をすることになったけど、それだけじゃもったいないから、ASMR配信をしようってことになったんだ。
ASMRを撮るには、それなりのマイクが必要だ。
アリサさんみたいなプロになると、凄いマイクを持っている。
例えば人の顔と同じ形をした特殊なマイクだ。そのマイクに右から囁いたら、イヤホンやヘッドフォンの右から聞こえる。逆もしかり。どこからでもリアルタイムに音が拾えるので、右から左に移動しながら囁くと、右から左に音が流れるように聞こえる。
そんなマイクと同等のことが案内妖精にできた。
でも案内妖精に向かって囁いたりするのって、興が乗らないよな。俺だったら無理だ。
そんなわけで……
「じゃあ、乗り移るわよ」
セレナはそういうと、スゥっと消えた。
案内妖精がプレイヤーに乗り移ると、プレイヤーの視線がカメラになり、耳がマイクになるらしい。
しかもASMRモードにもなれるというのだから便利すぎる。
「テスト♡」
琴音が俺の耳元で囁いた。
するとパソコンのスピーカーから琴音の声が聞こえた。
少しこもっている。イヤフォンやヘッドフォンで聞くとゾクゾクするやつだ。
実際俺はゾクゾクしているし、なんだかこそばゆい。
「大丈夫そうね?」
目を閉じて耳を澄ませていたアリサさんが目を開いた。
「まずは勝負! その後にASMRの動画を撮る。勝負は練習も兼ねてるから」
「わかった! 私、絶対負けないから!」
「それじゃあまずは……」
アリサさんも俺の耳元で囁いた。
「うおっ! これは俺が大丈夫じゃないぞ!」
「いい反応するじゃない」
「むぅ。なんか……なんかだよ!」
ちなみに今日はライブ配信じゃなくて動画撮影だ。
案内妖精によって、俺の声は録音されないようになっている。
現にスピーカーから俺の声が流れてこない。
配信では琴音とアリサさんが、ASMR専用マイクに向かって囁くという設定だ。
俺がマイクになっているのがバレたら、炎上どころの騒ぎじゃない! 危険すぎる!
撮影の後は、俺の声が入っていないかチェックしたり、センシティブな部分があったら、カットする作業がある。
「ふぅぅ……」
アリサさんが俺の耳に息をかけてきた。
ゾクゾクしてどうにかなってしまいそうだ。
慣れない感覚のせいか……苦手かもしれない。
なんかやばいんだよ!
「むぅ!」
今度は琴音が息を吹きかけてきた。
「ぶぅうう」
勢い余って、つばが飛んできたぞ!
「ぷっ、琴音、お前なぁ」
あまりにも下手過ぎて、笑ってしまった。
「秀ちゃん! 笑わないでよ! こうなったら耳を舐めて……」
「それはだめよ! 絶対にダメ! センシティブ過ぎて、収益化停止になるわ!」
「えっ!? やばっ!」
「録画で良かったわね。それと秀一君。一応ASMR用マイクで撮ってる設定だから。本番ではしゃべっちゃだめよ。琴音ちゃんもね」
「はーい」
「本番は俺がマイク役やる必要あるか?」
「そうね……琴音ちゃん。ASMR用のマイクにした方が良い?」
「ASMR用のマイクって高いんでしょ? 秀ちゃんマイクの方が気楽でいいな」
「私がこっちで購入したのって百万くらいするやつだしね」
「うええっ! 無理無理! 秀ちゃんマイクで!」
「いいの? 私が秀一君の耳元で囁いても?」
「むぅ。嫌だけど、アリサさんならまぁ……でも最近ちょっと怪しい……。いつの間にか秀一君呼びだし!」
「……あはは。琴音ちゃんが秀ちゃん秀ちゃん言うから、名前呼びが移ったのかもね。それに私、絶対負ける勝負はしないわよ」
「……まぁそれなら」
「さて! 耳に息を吹きかけるのは、ウォーミングアップみたいなもんよ! どんなシチュで勝負する?」
「そうだねぇ。好きっていうとか? それなら勝てそうだし!」
「告白ASMRね! い、いいわよ。秀一君。勘違いしないでよ。これはお題だからね! 別にあんたが好きとかじゃないんだからね!」
「ツンデレか! わかってるよ」
「そ、それならいいわ」
「じゃあ! いくよ!」
琴音が吐息がかかるほど寄せてきた。
俺は知らなかった。
内心ドキドキして、役得とか思っていたけど、ここから始まる生き地獄が始まるのを。




