第121話 結城視点 私の配信
自衛隊中央即応連隊所属、結城早苗。
これが私の正式な肩書になります。
ライブスフィアで配信をしているのは、任務でしかありません。
私の主な配信は異世界での冒険記録ということになっています。
ただ、私のチャンネルは人気がありません。ファンよりアンチの方が多いでしょう。
今日の配信はいつもより気が滅入ります。
「本日の配信を行います。デーモン襲撃は辛勝にて終わりました。脱落者は二名。小川誠也さん二十三歳。小森裕子さん十九歳。我々の監督不届により、このようなことになってしまい、誠に申し訳ございません。地球には遺骨のみの帰還となります」
私はまるでニュースのようだなと思いつつも、淡々と配信を続ける。
パーティーメンバーからコメントをもらっているので、最後の雄姿を見ているかどうかわからない遺族へ伝える。
我々はデーモン襲撃にどう対応したのか、小川誠也さんと小森裕子さんがどのように戦ったのか、話せる範囲で説明していく。
案内妖精は死に際をカットするから。
そして最後にコメントをチェックする。
犠牲者が出た日の配信は辛い。コメント欄を見たくない。でもこれも任務です。
今日もコメント欄は荒れていた。
配信が終わると、今度はメンバー限定配信に切り替える。この限定配信は誰でも入れるものではなく許可制になっている。
メンバーは全て政府関係者で、こちらでも事務的に報告を行いました。
月華さんがこっちに来てから、陰陽庁からのクレームが多くなった。もっと丁寧に扱えとか、奇行を阻止しろとか、そもそも戦場に出すなとか、そんなこと知ったことでない。
月華さんは表向きはまともに見えます。。
早川君が絡まなければ、思慮深い聡明な人だと思います。
しかし早川君がからむと、ただのストーカーに成り果てます。人造式神による盗撮行為など、目に余る行為もたびたびありました。なんなのですか。あの人は。
何度か話す機会があったけれど圧倒されました。正面に座っただけで、萎縮してしまうほどです。
たしかに陰陽庁の幕僚長なだけあります。
幕僚長とは、陸軍、海軍、空軍のそれぞれのトップであり、防衛大臣の補佐する役割もあります。
つまり月華さんは陰陽庁のトップであり、政治にも絡んでくる大物なんです。一介の自衛隊員である私が意見などできません。
ただやんわりと苦情を入れるだけです。それだけでも神経が削れるのよね……
そんな時、ドアをノックする音がしました。
私は少しため息をついてから立ち上がった。気持ちが滅入っていたのに、思ったより体が軽く感じる。
こんな時間に来る人なんて、あの人しかいない。
いつからだろうか。煩わしいと思ってたあの人が、少しだけ心の支えになっていました。
「よ。結城ちゃん。お疲れ」
やっぱり沖田さんでした。
「結城ちゃんはやめてください」
この人を顔を見てホッとする私がいる。
「この後暇? 常夏の島で飲まない?」
この人は一見チャラく見えるけど、一度でも部屋に入ろうとしない。
「えぇ。そうですね。愚痴を言っても?」
「それを聞くために来たんだけど?」
やっぱりこの人には全く敵わないな。
「では先に行って呑んでいてください」
「あいよ」
ドアを閉めてから顔の緊張を解いた。
さっきまで硬かった顔が、緩んでしまった。
こんな顔は見せたくない。
私は急いでシャワーを浴び、化粧を直した。
あの人は私が着くまで、ノンアルコールしか飲まないんです。あまり待たせてはいけません。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「全くなんなのですか! あの人は!」
私はカウンターに勢いよくグラスを叩きつけた。
ちゃんと手加減はしている。これでもレベルが二百を超えた化物だから。
もはや人類と言えるのでしょうか?
「まぁまぁ。落ち着きなって」
「私は落ち着いています! こうなったのは全て月華さんのせいです!」
「ほら、水も飲めよ」
沖田さんから水をもらって、一気に煽る。
「月華さんって、本当の幕僚長なのですか!? ただのストーカーじゃないですか!?」
「それくらいにしておけって。相手は式神だぞ。この会話だって聞かれてるかもしれねぇ」
「酔いが醒めることを言わないください」
私はぐでぇっとカウンターに突っ伏した。
「それに一人だけ地球に戻れるなんてズルすぎです」
「十二姫将は、プレイヤーじゃないからな。他の式神も戻れるぞ。狐様はプレイヤーになっちまったから無理だけどな」
「アイテムボックスがないから、物資運搬もできないなんて!」
「手紙を届けてくれるだけでもありがたいと思うぜ」
「……それは助かっています」
召喚時に持ってこれるのは身に着けている衣服や手に物てるもの。リュックに物を詰め込んで持ち込むのも可能。
拳銃なども持ち込めるけど、享楽之神がロックをかけてしまうので、許可が下りない限り使用はできない。
機動式神と同じ扱いになるのよね。
そもそも月華様は秀一君の命令しか聞かないし、月華様に睨まれるから、危険な物資の運搬はお願いできない。
手紙や日常品がせいぜいだ。
手紙と聞いてあることを思い出してしまった。
最悪な事実。
「……残り七十二人」
「あぁ。今回も二人やられたな。俺の指導不足だ。あーあー。訓練をつけてやるとか言ってこのザマだよ……」
「沖田さんはよくやってますよ。戦争に出て死亡者二名って普通あり得ないと思います」
「……そうだな」
「愉悦之神は悪神なのですか?」
「わからねぇ。月華様でさえ、真名が掴めない。ただ、享楽之神が善神ではないことはわかったよな」
「えぇ。そしてここが地獄だということも。私は自ら地獄にきちゃったんですか? 知っていたら、来なかったですよ」
「地獄か。罪を持った魂がここに転生して、罪が消えるまでここで生まれかわるか……。確かに過酷な世界だと思うが、俺達が想像している地獄より、だいぶマシな世界じゃねぇか?」
「人間に生まれ変わった人達はそうかもしれませんが、モンスターに生まれ変わった人達は……やはり地獄ですよ」
「……俺達は生まれ変わったわけじゃねぇよ」
「そうですね。考えすぎもいけませんね。私はただ早く帰りたい。そのためにも明日からまた王国と交渉しないと」
「これからはこっちが魔族領に攻め込む。いつまでもやられっぱなしじゃあ、性に合わねぇ」
「ええ。レベルもあがったので、攻勢に出るべきです」
「ただ、魔族領は広い。ゲートでいくつも繋ぐ必要がある」
「ゲートを守る人員も必要になるかと」
「あぁ。俺達だけじゃ維持できない。王国の兵による占領が必要だ」
「そもそも私達はゲートの建築方法を知りません」
「そりゃそうだな。ならこっちにも交渉するカードが必要だ。そのカードは……俺達プレイヤーの戦力と、通販で買える食料か?」
「私達の食事は、オレリア王女がいたく気に入ったようですね」
「あぁ。秀一には感謝だな」
「早川君は嫌われたみたいですけど……」
「あのハーレム野郎な。ちょっとモテ過ぎじゃね? アリサちゃんも気をつけないと炎上するっぞ」
「えぇ。既に複数のリスナーが気づいているみたいですけど、彼女のキャラクターで誤魔化せている状況です」
「まぁ炎上して引退したら、こっちが引き取るけどさ」
「沖田さん?」
「冗談冗談。まぁ引退しなくてもこっちに取り込むけどな」
「そうですか」
「それも無事に戻れたらの話だ」
「そうですね。もう一踏ん張りしますか」
「あぁ。だが今日はもう呑もうぜ!」
「ええ!嫌なことは全部忘れましょう!」




