第114話 アリサ視点 バーチャルアイドルアリサの叫び
私は飛行魔法を唱えて戦場に戻った。
隣にいるのが秀一君と琴音ちゃんじゃないことに違和感を感じる。それくらい当たり前になってたのね。
「アリサ。作戦を聞きましょう」
「朱雀を呼ぶわ」
「本気ですか?」
「えぇ。今の私ならできる!」
「私は運搬要員ですか?」
「それもあるけど、セリーニさんって参謀式神って名乗っていたでしょう。なら直に戦場を見た方がいいのかなって」
「なるほど。承知しました。ではアリサの力も見せてもらいましょう」
私達はモンスターの軍勢を迂回してデーモン達がいる後方まで来ると、デーモン達が一斉に向かってきた。
「オン・ヴァジュラ・ラヴィナ・ソワカ。祖、安倍晴明の名と血の元に命ずる。南方の守護者、災厄を払いし霊鳥よ! ここに来れ! 朱雀! 急急如律令!」
空が裂け、異空間から巨大な火の鳥が現れた。
大きい。ジャンボジェット機よりひと回り以上あるわね。
「くぅ……」
呪力がごっそり減っていく。
セリーニさんが私の背中に手を置くと、そこから呪力が流れてきた。
「助かるわ」
朱雀は巨大な翼を広げて、デーモン達に体当たりしていく。
なんて熱量なんだろう。近寄っただけでデーモンが燃え上がり、消し炭になって落ちていく。
アークデーモンやグレーターデーモンでさえ一瞬だ。
ステータス画面を見ると、見る見るうちにレベルが上がっていく。
体が軋む。脳に負担がかかり頭痛がする。
でも! それがどうした!
「こんんのおおおおおっ!」
朱雀は一度上昇すると、翼を大きく羽ばたく。すると炎の羽が撒き散らされ、遠くのデーモンまで炎で焼いていった。
更にレベルが上がっていく。
魔力呪力変換のスキルを閃いた!
速攻魔力を呪力に変換!
呪力は回復したけど、体中が筋肉痛で動けない。手印すら結べないよ。
そう思ったら今度は随時持続回復魔法、リジェネレーションを閃いた。
うーん。朱雀を維持しながら呪文なんて唱えられない。
すると無詠唱のスキルを閃く。
なんて都合がいい! 享楽之神様に感謝ね!
というか、享楽之神様も私のリスナーだったりする? 様ってつけておいて良かった?
「リジェネレーション」
レベルアップによって悲鳴を上げていた体がどんどん回復していく。
でも精神的にきつい。頭痛と倦怠感が襲いかかってくる。
なんかもうやる気が出ない感じ? もうここまでやればいいよねぇ……
ふと私の背中にセリーニさんが触れた。
「オン・ダーナ・ソワカ」
すぅっと頭痛が和らぎ、頭の中がクリアになっていく。
「ありがとう」
私は精神を落ち着かせる。
スゥと朱雀が消えるように送還されていった。
「オン・オン・ラカ・シューラ・カン・ソワカ。祖、安倍晴明の名と血の元に命ずる。天を駆ける蒼の龍よ! ここに来れ! 青龍! 急急如律令!」
暗雲が立ち込め、雲の間から青緑の長い体が現れた。一見蛇の様に見えるが、顔はワニに似ていて、長い髭や二本の角が生えている。背中には青い毛が生え、手足もある。
いわゆる東洋の龍の姿がそこにあった。
青龍は雷鳴と共に降りて来ると、私の意識を汲み取って、デーモン達に襲いかかった。
幾つもの稲妻は降り注いで天地を繋ぎ、デーモン達を撃ち落としていった。
さらに青龍が体当たりするだけで、デーモン達はバラバラになって吹っ飛んだ。
止めとばかりに青龍が吠えると、再び雷が雨のように降り注いだ。
「……はぁ」
私は息を大きく吐いた。
そろそろ限界だ。
青龍がスゥと空気に溶けるように消えていった。
「すごいわ……」
セリーニさんが呟くのが聞こえた。
「ごめん。もう限界」
「ええ。そうでしょうね」
「みんなごめんね。ちょっと休むから配信閉じるわね」
私は案内妖精に配信停止をお願いした。
ここから先は配信に載せられない。
「ねぇ。一つ聞きたいことがあるの」
これがセリーニさんを指名した本当の理由。
我がままで自分勝手な行動だ。
「なんでしょう?」
「セリーニさん達って秀一君のことが好きなのよね?」
「えぇ。愛してます」
「……そこまで言えるんだ」
「どうやって折り合い付けているの?」
「そうですね。私は今世では琴音様に譲るつもりなので」
「どうして譲ることができるの? 来世の秀一君が今みたいな人とは限らないんじゃない?」
「そう変わりませんよ。多少変化はありますが、根は秀一様です」
「やっぱり参考にならないよ。私はあなた達みたいに長く生きれないもの……」
「本気で秀一様を好きになったのですか?」
「……そうよ」
「秀一様と琴音様、毎晩同じ部屋で配信しているのですよ?」
「いや! 考えたくない! 聞きたくない!」
二人っきりにさせたくない? ははっ……毎晩二人っきりじゃない……
私は浮かれすぎてた。久しぶりに本気で恋して、舞い上がっていた。
「ねぇ。どうしたらこの思いを抑えられる? 辛いよ……苦しいよ……。秀一君を好きにならなければ良かった……」
気づけば涙が止まらなかった。
「このまま秀一様を好きになったらどうなりますか?」
「……パーティーが崩壊する。私、このパーティーから抜けたらやっていけない。きっと引きこもって、島のダンジョンくらいにしか行けない」
「そうなると配信はどうなりますか?」
「クオリティが下がる。PVもファンも減る。琴音ちゃんとも友達でいれない……」
「あなたが幸せに感じる瞬間はどんなときですか?」
「配信が盛り上がる時。コメントが目で追えないくらい連打された時。ウルチャ読みする時」
「秀一様への恋心が露見したらどうなりますか?」
「……最悪引退ね」
「なら配信を頑張った方が良いのでは? 今の気持ちは一時的なものかもしれませんよ? あなたはアイドルでしょう? あなたとあなたのファンが幸せになる方法を見つけてみるのはどうですか?」
「……そうよ! 私はバーチャルアイドルアリサよ!」
「アイドルに彼氏は必要かしら?」
「いいえ! いらないわ! 私はアイドル! ファンに夢を見せる存在! 匂わせなんてありえない! 普通のファンだろうと! ガチ恋勢だろうと! みんなに夢を見せる存在よ!」
私は叫んだ。 こんなに大きな声を出したことなんて、今までなかったかもしれない。
「うぉおおおおお! 炎上させてやるうう!」
「……は?」
セリーニさんの目が点になった。
「気持ちをすぐに切り替えるなんて無理よ! やっぱり辛いものは辛い。ならからかって、はぐらかして……笑って終わりにしてやるわ! この私を袖にしたことを、最後はざまぁみろって言ってやるんだわ!」
「……ぇえ。その意気はよし……ですね?」
セリーニさんが若干引き気味になってたのは、ちょっと釈然としないわ。
私をそれを見て、口元が少し緩んだ。




