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体育祭〈ルート共通イベント?〉⑦


 破損した脚立を念入りに調べていた亘矢が、しばらくして踵を返し、つむぎの前まで戻ってきた。……その表情は、滅多に見ないほど、険しい。


「……誰かは知らねぇが、さすがにライン越え過ぎだろ」

「防犯カメラの映像を書き換えてまで、白雪さんを寮から追い出そうとするような輩だぞ? ラインの話をするなら、あの時点でとっくに越えてる」

「同一犯、だと思うか?」

「『mirror-of-truth』が忠告してきた点から見ても、その可能性は高いと思う。仮に複数犯だとしても、白雪さんへの尋常ならざる悪意である程度結託しているのは、おそらく間違いない」

「学園に損害を与え、その犯人に仕立て上げることで姫川白雪の立場を悪くする、っつーやり口が似通いすぎてるもんな」

「問題は、これからどうするかだが……脚立の補修は無理そうか?」

「俺もそれを考えたが、飾りはどうにかできたとしても、脚立自体がどうにもならねぇ。留め具が折れて、折れた先も行方不明。他にもネジがいくつか消えて、踏み板がぐらついてる。時間をかければどうにかなるかもしれねぇけど、演舞の予定時間までに使える状態には出来ねぇと思う」


 つむぎより遥かに頭の良い亘矢が無理だと判断したのなら、それは本当に〝無理〟なのだ。だからといって諦めてしまったら、どう足掻いても白雪の立場は悪くなる。


「ひとまず……白雪さんも交えて相談するか」

「そうだな。本人も、自分の置かれている状況を正確に理解しとくべきだろう」


 被害に遭っているのが吹けば飛ぶような繊細さんなら話は別だが、白雪は可憐でか弱い見た目とは裏腹に、とんでもなく強靭な精神力の持ち主だ。退寮未遂事件のときも、先ほど倉庫に閉じ込められていたときも、さほど堪えた様子は見られなかった。

 今回の件、白雪は確かに被害者だけれど、だからといって囲われ守られる立場に甘んじることはないだろう。彼女相手に状況を伏せるのは、却って悪手である。


「……と、いうわけなのだが」

「なんてこと……」


 つむぎは亘矢と倉庫入り口まで戻り、外で律儀に見張りを続けていた白雪へ、〝組み立て演舞〟用の大脚立が壊され、飾りもボロボロにされている現状と、白雪を閉じ込めた犯人の狙いは、この大脚立破損の咎を白雪へ被せることなのではという推論を、簡潔に伝えた。話を聞いた白雪は、さすがに硬い表情で言葉を失う――が。


「申し上げましたように、わたくしは大脚立に触れてすらおりません。そもそも、この倉庫の中にそのようなものがあること自体、初めて知りました。〝組み立て演舞〟の話は寮の先輩方から聞いておりましたけれど、その演目が学園にとってそこまで重要なものだとも存じ上げず……大脚立を壊す動機もなければ、仮に壊したとして、隠す意味もないことは明白ですが、それでも疑われると?」

「マトモにものを考える頭があれば、誰も疑わねぇと思うぜ。ただ、〝これ〟を仕掛けた奴は、是が非でも姫川白雪(おまえ)を〝学園の厄介者〟にしてぇらしい。――となれば、姑息な情報戦は間違いなく仕掛けて来るだろ」

「白雪さんが潔白であることを我々は知っているけれど、短時間であっても倉庫内で大脚立と〝二人きり〟だった事実がある以上、客観的には限りなく白に近いグレーだ。ほんの僅か〝黒〟の要素があれば、『脚立の入っていた倉庫で一人きりになった人物が怪しい』という大衆意識を噂で創造するなど容易い。違うか?」

「……違いませんね」


 つむぎの想像通り、自身の置かれた状況を正確に把握してなお、白雪の眼差しは強い光を宿して前を向き続けていた。こういうときの白雪は、どこか高校一年生らしくない、まるで歴戦の覇者のような風格を醸し出すから不思議だ。


「大脚立破損の犯人に仕立て上げられ、〝組み立て演舞〟ができなかった恨みを一身に背負うのは遠慮したいところです。無実の証明が難しいのであれば、どうにかして大脚立を演舞で使える状態にしなければなりませんが……」

「さっきも言ったが、修理は無理だぞ」

「予備は本当にないのですか?」

「学園の職員エリアにはあるかもな。事情を話して借りることは不可能じゃねぇけど、その場合、〝大脚立が壊れた〟っつー事実そのものは公になるぞ」

「最悪の場合は、それも止む無しではあるのだろうが……」

「秘密裏に処理できれば、それが最善ですものね。――ところで、」


 不自然なところで白雪が言葉を切り、自身が閉じ込められていた倉庫を見上げ、思案げな顔になる。


「どうした、白雪さん?」

「つむぎさん。つむぎさんは先ほど、大脚立について、『この倉庫の天井に届くくらいの高さがあり、耐荷重も折り紙つきの本格仕様』だと仰っていましたね?」

「あぁ、言った。三メートル近い高さの、本来ならば建築や工事の現場で使われる、大きな脚立だと」

「そういった脚立でしたら……確か、特別寮にあったと思うのです」


 白雪の口から、思わぬ情報が飛び出してきた。亘矢も初耳だったらしく、分かり易く目を丸くしている。


「マジかそれ?」

「こんな状況で嘘などつきませんわ。少し前に、橙雅……沙門先輩が談話室のシャンデリアの電燈を付け替えていたときに、かなり立派な脚立を使っていたのです。立てたときの高さがちょうど、この体育倉庫の天井くらいだったかと」

「……何で特別寮の寮生が、自力で電燈交換してんだよ。何のためのコンシェルジュだ」

「コウのツッコミは最もだが、沙門先輩なら違和感ないな。細やかな気の回る方で、生まれ育ちが上流の方とは思えないくらい、身辺の雑事全て、ご自身の手でこなす様が板についていらっしゃる。シャンデリアの電燈が切れていることに気付いたら、その流れで交換までされるだろう」

「まさに仰る通りで、『何か暗くないか?』『あ、やっぱあそこの電燈切れてる。前からたまにチカってたもんな~』『今俺暇だし、ちょっと付け替えするわ』まで、ワンシーンに収まる綺麗な流れでした。沙門先輩が脚立を取りに談話室を去ってから、『つーか普通にコンシェルジュ呼べよ』と布袋先輩が突っ込むまでが様式美といいますか」

「寮生同士、仲が良くて何よりだ。しかし、特別寮には入ったことないから知らなかったが、随分と天井の高い談話室に、シャンデリアなんて掃除も手入れも大変な照明器具がついてるんだな?」


 件の大脚立にバスケ部で百九十センチ近い身長の橙雅が乗れば、トータルの高さは五メートルにもなる。一般家屋の二階相当な高さだ。それほど天井が高い談話室だと、却って落ち着かない気もするが。


「便宜上、『談話室』と称しておりますけれど、実際は2階へ上がる階段の下に設けられた、共用スペースなのです。玄関から入って廊下を進んだ先が、ちょっとしたホールのような空間になっておりまして、その両側を囲むように二階へ上がる階段が伸びている……と申し上げれば伝わるでしょうか」

「なるほど。いわゆる吹き抜けスペースというわけか」

「そうですね。なので、その空間を照らす照明は、必然的に高い場所になるわけでして」

「その説明で理解したよ。……うん、ますます寮生が自分で交換する照明じゃないな、それ」

「一般寮でも、そのテの照明は管理人が業者に頼んで付け替えてもらうだろ」

「わたくしもそう思うのですけれど、沙門先輩としては、『俺が一番高い脚立に乗れば届くんだから、俺が交換した方が早い』というお考えのようでして」

「橙雅がそう言ってる想像はつくけど……特別寮生らしさの欠片もねぇなアイツ」

「……現特別寮生に関しては、〝らしさ〟を求めることこそナンセンスでは?」

「違ぇねぇ」


 一芸特化の特別寮生は、〝自身の専門外に関してはポンコツ〟傾向が強い。亘矢の言う〝らしさ〟とはその傾向を指すのだろうけれど、確かに現二、三年の特別寮生は、専門外以外のことも器用にこなすイメージだ。あの浮世離れした弁財深藍ですら、自分の世話はきちんと自分でできている。白雪の言葉から察するに、一年生も専門バカというわけではないらしい。


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