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体育祭〈ルート共通イベント?〉⑤


 自分の頭を悪いと思ったことはないけれど、人並外れた頭脳の持ち主である亘矢と幼い頃から接してきたからか、どちらかといえば凡人寄りではあるとつむぎは思う。会社の人たちにはよく、「狩野くんが大概変なだけで、お嬢様も世間一般から見れば充分超人の域にはいますからね?」と呆れられるが。


「待て待て、勝手に納得をするな。そもそも、どんなトラブルだったんだ?」


 風紀委員会が解決したトラブルと、白雪監禁事件が繋がっているとはどういうことか。

 詳細な説明を求めたつむぎに対し、亘矢の返答は簡潔だった。


『詳しくは直接話す。――あと三分待ってくれ』

「承知した」


 途中から亘矢が慌ただしく移動しながら通話していたことは察していたので、つむぎもそれ以上は尋ねず、通話を切った。

 ふぅと呼吸を整えてから、つむぎは扉と向き合った。


「あと三分ほどで助けが来る。もう少しの辛抱だぞ、白雪さん」

「助け、とは……狩野先輩、ですよね?」

「あぁ。コウなら、正規の〝鍵〟がなくとも南京錠を開けられるからな」

「つむぎさんと狩野先輩が親しい間柄であることは〝よく〟存じ上げていたつもりでしたが……それほどの信頼を得ている先輩が、心の底から羨ましいです」

「まぁ……コウとは、それなりに付き合いが長いからなぁ」

「それも含めて羨ましい限りですわ。出発地点は似たようなところにおりましたのに、狩野先輩は上手に姫川からお逃げになって」

「……そこまで調べたんだな?」

「〝狩野〟に関しては調べるまでもないでしょう。彼の祖父が姫川の忠臣であったことも、娘婿となった彼の父が特大の〝ハズレ〟で、姫川に甚大な被害を与えたことも、まだまだ色濃い記憶として関係者の脳裏に刻まれていますもの」


 あっけらかんと言い放った白雪の声音からは、その事実に対する含みなどは感じられない。一瞬だけ、亘矢を返せと言われたらどうしようかと構えたけれど、そんな気配は微塵もなかった。

 ここまで突っ込んだ話ができる機会もないので、この際だからと聞いておくことにする。


「〝狩野亘矢〟がこのまま、飯母田の人間として中枢を担っていくことに、白雪さんとしては異存ない感じかな?」

「〝狩野〟は元を正せば姫川の臣なのだから帰って来いと言ったところで、あの方が頷くわけもないと分かり切っていますのに、そのような話を持ち出すこと自体が無意味ですわ。わたくしとしても、〝狩野亘矢〟を得てしまうと姫川が望ましいパワーバランスを保てなくなる可能性が高いので、是非とも先輩にはこのまま、飯母田に尽くして頂きたいですわね」

「……言われるまでもねぇよ。俺の居場所は、飯母田(ここ)だけだ」


 宣言通り三分でやって来た亘矢は、白雪とつむぎが扉越しに自分のことを話し合っていると察して成り行きを見守っていた。述べられた白雪の結論は亘矢の意向にも沿うものだけれど、それを彼女に言われるのは、どうにも気に食わないらしい。


「いらしていたのですね。お忙しいところありがとうございます、狩野先輩」

「そーいう言い様を慇懃無礼っつーんだよ。いいからちょっと離れてろ」


 実直で優秀な風紀委員長の皮を最初から脱ぎ捨てている亘矢は、手持ちのタブレットで南京錠を解析し、ほっと息をついた。


「単純なダイヤルロックだな。指紋認証機能もねぇ。これなら楽に外せる」

「それは朗報だ」

「番号割り出して解除するから、タブレット持っててくれ」

「分かった」


 つむぎにはよく分からない小さな機械を南京錠に接続し、亘矢が何やら操作をした数拍後、軽い電子音と共に上のロックが外れた。思ったよりもお手軽な作業に、何となく遠い目になってしまう。


「コウはその気になれば、立派な泥棒になれるな……」

「今だって似たようなモンだろうが。ハッカーなんぞ、電子世界の盗賊以外の何者でもねぇぞ?」

「そういう、つむぎさんの立場まで危うくなることは言わないでください!」

「うるせぇ。鎖このまま放置すんぞ」

「こらこら。さすがに風紀委員長の皮を忘れ過ぎだぞ、コウ」

「……つむは姫川白雪に甘ぇんだよな」

「可愛らしい女の子に絆されるのは、世界の真理じゃないか?」

「俺、その真理知らねぇわ。俺が絆されるのは、昔も今もつむだけだし」


 南京錠が外れさえすれば、あとは鎖を外すだけ。亘矢と二人でワイワイ話しつつ、ぐるぐるまきにされた鎖をじゃらじゃら外していく。これだけ巻くにも手間だったろうに、ご苦労なことだ。

 無事に鎖を外し終え、「開けるぞ」と一声かけて、つむぎは扉をガラリとスライドさせた。


「つむぎさん……!」

「大変だったな、白雪さん。気分はどうだ?」

「つむぎさんに助けて頂けて、プラマイプラスになりましたわ!」

「それは何よりだ」


 感無量といった様子で抱きついてきた白雪を支え、二人で笑い合う。人気のない場所にある体育倉庫で監禁されるなんて、普通に考えて相当恐ろしい経験だろうに、可愛らしい見た目に反して相も変わらずタフな少女だ。


「――姫川白雪」


 解放されてほっとした笑顔を浮かべている白雪へ、厳しい表情の亘矢が近づいてくる。白雪さんは被害者なのだから、事情を聞くにしてもあまり強い言い方は……と密かに案じたつむぎだが、次の瞬間に亘矢の口から飛び出してきた言葉は、予想の範疇を遥かに飛び越えていた。


「お前、この体育倉庫に閉じ込められてから、倉庫内の用品に何か触ったか?」

「……はい?」

「いいから答えろ。触ったか?」


 意図が分からない質問をされた白雪は、困ったようにつむぎへ視線を向けたが、あいにくつむぎにも亘矢の考えは読み取れない。監禁場所から解放されたばかりの被害者へ開口一番問い掛けるには、あまりにも脈絡がない質問に思えるが……一つ前のトラブルに絡んでいるモノ、だろうか。


「……いいえ、何も」


 戸惑っている白雪であったが、亘矢の様子から、どうやらとても大切な質問らしいと感じ取ったらしく、真面目に返答してくれた。


「間違いないな?」

「間違いありません。閉じ込められる前は、鳴っていたタイマー時計を探すため、奥側のボール籠やロープなどに触れましたが、閉じ込められてからは扉しか叩いてないです」

「奥側のボール籠とロープ……あの辺か」


 白雪が示したボール籠は、扉を開けた真正面奥の壁際にあった。金持ち学園らしく、奥行きも両幅もそこそこにある倉庫だが、両開きスライド扉の真正面は動線確保のためか物がそれほど置かれていないので、外から覗いても奥まで楽に見通せるのだ。


「触ったのもあの辺だけってことだな?」

「はい。件のタイマー時計は、ロープとロープの間に挟まっていましたので」

「ちなみに、その時計はどこにある?」

「こちらに」


 白雪のジャージポケットから出て来たのは、何の変哲もない、手のひらサイズのタイマー時計。設定した時間を電子音が知らせてくれる、よくあるやつに見える。平たい本体を折り畳み式の脚で支えるタイプのようなので、これならロープとロープの隙間にも隠せるだろう。


「これか。こちらで預かるので、この袋に入れてくれ」

「かしこまりました」


 亘矢が差し出したジッパーバッグに白雪がタイマー時計を投入したところで、そろそろ良いかとつむぎは彼へ向き直った。


「――それで? 今の白雪さんの証言で、何か分かったのか?」

「いや。今のは単なる確認だな。――つむ、ちょっと付き合えるか」


 体育倉庫を親指で指しつつ問うてきたということは、亘矢はこの倉庫内を調べたいらしい。


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