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体育祭〈ルート共通イベント?〉③


  ***************



 有意義な昼休みを終え、各チーム有志による応援合戦と部活動対抗リレーを挟んで、いよいよ午後の競技が始まった。

 午後も変わらず休憩スペースを捌いていたつむぎだが、出場競技が近づいてきたので、いったん場を離れることにする。ちなみに、午前中は交代要員を送ってくれた体育委員会だけれど、午前で生徒たちも概ね休憩スペースの使い方を理解したと判断したらしく、つむぎが出る時間近くになっても代わりの人は現れなかった。体育委員会が一年で一番忙しい日に、わざわざ休憩スペースの面倒まで見ていられないという、その気持ちは分からなくもない。そのための〝ボランティア同好会〟でもあることだし。


「あれ? 飯母田、次出番?」


 つむぎが給水所周りを整理し出したのを目敏く見つけた晴緋が、水を飲みつつ近づいてきた。クラブ対抗リレーのサッカー部代表で見事な走りを披露し、乾いた喉を潤しに来たらしい。


「あぁ、大天くん。次ではないのだが、出順が近づいてきたのでね。すぐ出られるよう、整えておこうかと」

「マジかー。飯母田居なくても、置いてある和菓子って食べて良い感じ?」

「構わないぞ? もとより〝ご自由にお取りください〟のつもりで設置したコーナーだしな」

「なら、悪いけど多めに置いといてくんね? 聞いた感じ、〝休憩スペースに置いてある和菓子〟の評判良いんだよ。午前中はスルーしてた奴らも、昼休みに話聞いたり、実際に食べてるのを見たりして、気になってるみたいでさ。今休憩スペースに来てる連中も食べたいって言ってるし、午後はたぶん、午前以上に動くと思う」

「なんと……」

「……てか、そんなに食べられて大丈夫か? もし数がないなら、サッカー部には遠慮させるけど」

「数はまだまだあるから大丈夫だ。大天くんも、サッカー部の人たちも、遠慮せず食べてくれ」


 これぞまさに、嬉しい悲鳴というやつだ。和菓子に興味がない層の興味関心まで引けたとなると、今回の販促活動は一定以上の成功と評価できるだろう。

 つむぎは和菓子コーナーに今ある分の和菓子を全て並べ、少し考えて〝ご自由にお取りください〟と書いた紙をポップ横へぺたりと貼り付けた。


「こうしておけば、私が居なくても遠慮せず取ってもらえるかな」

「おー、分かりやすくて助かるわ。サンキューな、飯母田」

「こちらこそ。ありがたい助言だったよ、大天くん」

「にしても、和菓子で熱中症対策とか、飯母田の会社の人は面白いこと考えるよなぁ。栄養と塩分が一緒に補給できるなら、この先の部活で取り入れるのもアリじゃね? って思った」

「……ふむ。部活動の補助食として取り入れたいのなら、私から社の担当へ話を通しておくぞ? さすがに商品をそのまま卸すわけにはいかないから、特例販売という形にはなるだろうが」

「マジで? ちょっと部員で話して、顧問にも聞いてみて、頼みたいって感じになったらまた相談するわ」

「そうしてくれ」


 思わぬところから思わぬ顧客を獲得できそうな気配がしてきた。体育祭の熱中症対策と称して持ち込んだ和菓子なのだから、暑い中で部活に励む運動部にも需要があることは、よく考えれば当たり前なのだけれど。つむぎの目的はあくまでもお中元商戦へ向けた販促活動であったため、そちら方面へ売り出すことはあまり考えていなかったのだ。


(ターゲット層とは違っても、ウチの商品を求める人は皆、お客様だからな。購入希望されているのを、わざわざ弾くこともない)


 つむぎが脳内で〝塩餡和スイーツ、宝来運動部向け戦略〟の概要をざっくり練ったところで、隣のテントからアナウンスが流れてきた。


『次の競技は、ハードル競走です。ハードル競走に出場する選手は、入場門前へお集まりください』


「おっと、出番だ。行かないと」

「おぅ。ほどほどに頑張れ~」

「残念ながら、勝負ごとに手は抜かない主義でね」


 つむぎとはチームが違う(確かリーブスグリーンだった)からか、かなりやる気のないエールを送ってきた晴緋へ不敵な笑みを返し、つむぎはテントを後にした。

 そのまま入場門へ直行し、ほどなく始まったハードル競走にて、有言実行とばかりにぶっちぎりの一位を叩き出し。意気揚々と、休憩スペース用のテントへ戻るべく歩く。


「お疲れ~! 休憩所行こ!」

「行く行く! ね、次何食べる?」

「水まんじゅう美味しかったから、もう一回食べたいな~」

「あんみつも程よい甘さで食べやすかったよ?」


 つむぎと同じハードル競走に出た生徒たちも、応援席へそのまま戻ることはせず、休憩スペースを目指しているようだ。周囲からは当たり前のように、休憩スペースに置かれた和菓子を求める声が聞こえてくる。

 心中を喜びで跳ねさせつつも、表向きはあくまでも通常を装い歩いていると、すれ違った生徒の一人が足を止め、くるりと振り返った。


「あっ、飯母田さん! お疲れさま~」

「お疲れ様です、先輩」


〝ボランティア同好会〟を通じて顔見知りになったバドミントン部の三年の女子である。顔見知り以上に親しいわけではないので、わざわざ足を止めて声をかけてきたということは、何かしら用事があるのだろう。

 つむぎも足を止めると、彼女は笑顔で近づいてきた。


「給水所の横にある和菓子って、飯母田さんの家の会社で実際に売られてる商品なんだよね? あれってどこで買えるの?」

「ネットショップで購入頂けますよ。よろしければ後ほど、ネットショップのQRコードが記載されたショップカードをお渡しします」

「そうなんだ? 私、競技終わりの人じゃないけど、もらいに行って大丈夫?」

「長居しなければ大丈夫だと思いますが……」


 受け答えしつつ、何となく周囲の視線が集まっている気がして見回すと、いつの間にか他の生徒たちも足を止め、つむぎたちの会話に聞き入っていた。

 何となく、予感がして。周囲に視線を流しつつ、問いかけてみる。


「えぇと……『飯母田製菓』のショップカード、皆さんもご入用ですか?」

「もらって良いんですか?」

「もらえるなら欲しい!」

「ありがとうございます、飯母田先輩!」


 返ってきたのは、肯定が多数だ。ハードル競走には出ていない生徒も大勢、ショップカードを求めている。


「この人数がカードを求めて休憩スペースに入ってきたら、さすがに手狭ですね……。ショップカードは後ほど休憩スペースの入り口に置いておきますので、ご入用の方はご自由にお持ちください」

「それが良いと思う。じゃあ私も、後で行くね」

「ありがとうございます、先輩」

「飯母田先輩、私はハードル競走終わりなので、今から休憩所へ行くんですが、直接カードを頂いても良いですか?」

「もちろん。競技終わりの人は、そのまま来てくれて良いよ」


 どうにかこうにか話を短くまとめ、つむぎはハードル競走の選手たちを引き連れて、休憩スペースまで辿り着いた。出る前に極限まで補充していったからか、和菓子用の机にはまだ、それなりの量が残っている。強いて言えば、水まんじゅうの減りが早いか。


「飯母田先輩、ショップカードをください!」

「私も!」

「私も欲しいな~、飯母田さん」

「はい、少々お待ちを!」


 和菓子を取っていってくれたハードル競走の選手たちにショップカードを手渡し、どうにかこうにか〝客〟を捌いていく。持てる接客技術をフル稼働させ、全員を椅子へ落ち着けてから、つむぎはスペース内をぐるりと見回した。


(あまり使われていない机……端に置いてあるあの辺りで良いか)


 1人掛け用椅子の横に置いてある、サイドテーブル的な机を一つ借りて、休憩スペースの外、入り口脇に設置。白いコピー用紙に〝本日差し入れた和菓子は、『飯母田製菓』のネットショップにて購入できます。ネットショップ直通のURLが記載されたショップカードを置いておきますので、ご入用の方はどうぞお持ちください〟と書いて、机の上に貼る。仕上げに、紙の余ったスペースにショップカードの束を置き、風で飛ばないよう和菓子を模したペーパーウェイトを乗せれば、カードの設置は完了だ。……突然出てきた和菓子のペーパーウェイトは、不器用で芸術センスもさほどないつむぎでも露店設営を〝それなり〟に魅せるために欠かせないアイテムで、今日のように外で簡易的な〝店〟を構える際は、使用如何に関わらず常備している、仕事道具の一つである。


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