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体育祭〈ルート共通イベント?〉①

体育祭、〝イベント〟本編、始まります!


 白雪に手伝ってもらい、充分な量の和菓子を補充した辺りで、午前の競技は全て、滞りなく終了した。午前競技が終われば、やって来るのは昼食を兼ねた昼休みだ。

 本日は体育祭ということで、食堂と購買部が特別なランチボックスの合同販売を行なっている。種類も豊富で一人用と複数人用が選べるなど充実し、しかも売り子に扮した食堂の給仕役や購買員が直接売りに来る辺り、いかにも宝来学園風であった。

 とはいえ便利は便利なので、つむぎは休憩スペースを訪れた購買員からランチボックス(和食膳一人用)を購入し、和菓子配布スペースの裏で食べ始める。


「あー、やっぱりつむちゃん、ここにいた!」

「茜じゃないか。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたもないよ。お昼なのにつむちゃんがフレイムレッド席に戻ってないって言うから、どうせボランティアしたそのままお昼食べてるんだろうなと思って、探しに来たの」

「それは済まなかった。見ての通り、食後のデザートにもなるかと和菓子を追加した直後なので、流石に離れるのは気が引けてな」

「相変わらずボランティア極めてるねぇ……」


 半分感心、半分呆れた声音で相槌を打った茜から「私もここで食べていい?」と聞かれたので、「構わないぞ」と返答した。競技中は競技直後の生徒が優先される休憩スペースだけれど、昼食時は完全な早い者勝ちだ。既に席の八割は、休憩スペースのルールを知っている二、三年生で埋まり、残り二割を一年生同士で取り合っている。

 つむぎが座っているのは、いわゆるケータリング席なので、通常の休憩席には含まれない。ここを使えるのは関係者に限られるのだけれど、茜は白雪と同じく、友人の誼で和菓子コーナーの設置を手伝ってくれたので、ギリ関係者で良いだろう。


「しかし茜、休憩スペースに引き篭もっている私が言うことでもないが、同じチームの人たちと友好を深めなくて良いのか?」

「ホントにつむちゃんの台詞じゃないよ。レッドチームの人に聞いたけど、つむちゃん、午前中は一度も応援席に戻ってないんでしょ?」

「それはまぁ、そうなんだが。休憩スペースの手伝いをボランティアとして引き受けた以上、そちらが優先になるのは致し方ない」

「つむちゃんが『ボランティア同好会』なのは、運動部を中心に広く知られてるし、体育委員会から仕事を引き受けたって話も出回ってたから、教えてくれた人も『飯母田さんはしょうがない』みたいな反応だったけど。友好云々言うなら、私よりつむちゃんだよ?」

「応援席には戻れてないが、休憩スペースを訪れた同じチームの方々にねぎらいの言葉はかけているから、友好度はプラマイややプラスだと信じたいな……」

「それ言うなら私だって、午前中はずっと応援席でピカピカチームの皆と一緒に応援してたんだから、友好度は充分だって。第一、体育祭のお昼ご飯は、みんなチームなんて関係なく、普段から仲良い人と食べてるよ」


 茜の視線の先にいるのは、休憩スペースに置かれた机の上にランチボックスを広げ、それを囲む生徒たちだ。一つの机を囲む生徒たちのTシャツの色は様々で、彼ら彼女らが特にチームを意識して食事しているわけではないことがよく分かる。


「うむ、平和な光景だな」

「豪華優勝景品が出る! とかならもっとバチバチするんだろうけど、この体育祭にそんなのないしねー」

「一応、優勝チームの名前が入った賞状とトロフィーは貰えるだろう?」

「貰えるって言っても、飾られるのは体育委員会室でしょ? 希望すれば見られるって話だけど、わざわざ希望してまで見たいかってなると……」

「確かに、見たいとはならないか」

「このチームだって、今日限りだもん。そりゃ、気が合う人が見つかれば仲良くしたいかもだけど、わざわざ自分から友好を深めにいく必要もない気がする」

「無理してまで友好を深めるメリットがそもそもない、と。茜の合理的な思考は、実に私好みだ」

「知ってる~」


 ほんわか穏やかな見た目と話口調、育ちの良さが全面に出ている他者と軋轢を起こさない柔らかく丸い人柄ながら、根本のところで意外とドライかつちょっぴり黒い茜は、つむぎにとっても変に構えず付き合える、得難い友人なのだ。茜と仲良くなって、つむぎは初めて、本当に育ちが良い人は基本的に性格も良いことと、性格の良さと腹黒さは両立することを知った。

 雑談しながらも手際よく、持ってきたランチボックス(洋風一人用のようだ)を広げながら、茜は目の前に並べられた和菓子の数々を見る。


「にしても、昼休みだからって張り切ったねぇ。これだけの量を一人で運び込むの、大変だったでしょ?」

「それが、一人じゃなかったんだよな。だから、覚悟してたほどは大変でもなかった」

「へぇ? 私以外に、つむちゃんの〝ボランティア同好会〟手伝うような人、いたっけ?」

「茜とは……面識なかったか、そういえば」


 園芸部員の茜は地味に忙しく、朝も昼も放課後も、長い休み時間は基本的に部活動で出払っている。つむぎと話すのは主に授業の合間の休み時間と、昼食時くらいだ。一方、白雪がつむぎを見かけて声をかけてくれるのは、つむぎが単独行動をしている昼休みや放課後時間が主。関わる時間が異なれば、当然ながら二人が知り合うこともない。


「ほら、何度か話したことあっただろう。入学式にひょんなことで知り合って仲良くなった一年生がいると」

「あぁ。オリエンテーションの鬼ごっこで、つむちゃんに取引持ち掛けた子? で、有言実行とばかりに特別寮生のリボン総取りした……」

「そうそう、その子で間違いない」

「確か彼女、例の浴場水浸し事件で濡れ衣着せられそうになって、安全のために特別寮へ移動になったんじゃなかった?」

「そうだぞ? 今は特別寮に住んでる」

「それでも変わらず、仲良いんだ?」

「あの事件は、私も無関係とは言えなかったからなぁ。彼女の無実を証明する過程に関わったこともあってか、恩義を感じてくれているみたいだ」

「つむちゃんにカッコ良く助けられたら、それだけで心臓射抜かれて、崇拝者になっちゃう気持ちは、分かるんだけど」


 ロールサンドをもぐもぐしつつ、茜は少しだけ、視線を上へと彷徨わせて。


「名前――、姫川……白雪さん、だったよね?」

「ん? そうだが」

「姫川ってことは、姫川財閥創設者の血縁?」

「血縁どころか直系だな。お父君が、姫川財閥の現総帥だと言っていた」

「あー……じゃあ生粋の姫川になるのかぁ……」


 複雑そうな表情の茜に、つむぎは少し首を傾げる。


「何か、気になることでも?」

「んーとねぇ。見た限り、姫川さん個人はマトモに育ってる感じするけど。ここ最近の姫川って、あんまり良い話聞かないから。つむちゃんがこの先も姫川さんとお付き合いするつもりなら、彼女の家には気をつけておいた方が良いのかなーと思って」

「あぁ、そのことか」

「知ってた?」

「私はさほど上流のゴシップに詳しくないが、他ならない白雪さん本人が、ご自身の家……というよりお父君とその周囲に対して、非常に辛辣だったからな。人間性が死んでいても経営手腕だけなら評価できる実業家は一定数存在するが、話を聞く限り、お父君はどちらも見るべきところがないらしい。そんな男を総帥(アタマ)に据えて好き勝手している財閥の首脳陣も、まぁマトモではないだろう」

「……姫川さん、可愛い顔して結構言う子なんだねぇ」


 一応は他家のゴシップということで、気持ち頭を沈めてヒソヒソ、つむぎは茜と言葉を交わす。


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