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27:少女の歓迎会

 さてさて。もうじき夕飯時とあって、そろそろ夕食の仕度を始めねばならない。ティアを喜ばせるためにも、美味しいものを作ってやりたいな。


 というわけで、どうせならとティアの歓迎会を開くこととなった。発案者はシエラ。どうやら彼女には、子供を喜ばせる秘策があるらしい。


「じゃーん! これを見なさい、シギ」


 シエラに連れられ、氷室に足を運ぶ。彼女がもったいぶって仰々しく俺に見せてきたのは、黒い靄を放つ怪しい物体だった。


「……なにこれ? 食べ物なの?」


「当たり前じゃない。ほら、もっとよく見て? 不気味に思えるかもしれないけど、ちゃんとした卵よ」


 どれどれ……。試しに手に持ち、触って確かめる。うん、紛うことなき卵だ。

 どうやらスキアフォーゲルの卵らしく、俺たちが町に出かけている間にシエラが森で見つけ、とっておいたそうだ。


 卵の正体を知って、不気味な黒い靄にも納得がいく。卵の頃から種の特徴をしっかりと発揮しているとは、たまげたな。

 ちなみに親鳥同様、靄の正体である粒子には毒が含まれている。だが中身を食べるだけなので、誤って殻が混入しない限り影響はない。


「ほら子供って、卵料理が好きな子が多いでしょ? だからこの卵を使って、美味しい料理を作ってあげてちょうだい」


 子供は卵料理が好き、その認識はどこの世界でも共通なんだね。かくいう俺も子供の頃、オムライスやオムソバの卵を先に食べちゃって、親に何度もおかわりを催促したっけ。


 気を利かせてくれたシエラのおかげで、卵料理は決定した。氷室に来たついでに、保存されている食材を物色し、残りの献立を考えていく。




「――シギ。頼まれた通り、牛から乳を搾ってきたぞ。新しい住処に移ってすぐだからか、出がよくなくてな。この量で足りるか?」


「ありがとう、ガルグ。……うん、大丈夫。足りると思う」


 ガルグから、絞りたての牛乳が入った桶を受け取る。手伝いに感謝し、夕食が出来上がるまでガルグには居間で休んでいてもらう。


 ティアはまだガルグに対し怯えを見せるが、接する時間が増えるにつれ、ゆっくりだが和らいでいる。保護した当初と比べれば、少なくとも泣き出すことはなくなった。


 第三者を交えてならガルグが話しかけても大丈夫なので、エルフ娘たちを間に挟み親睦を深めてもらいたい。


 ガルグから受けとった牛乳を、町で買い揃えてきた大きめのボウルに移す。それから溶いたスキアフォーゲルの卵を加えてかき混ぜ、続いて砂糖を投入。分量は全て、昔作った自分の勘が頼りだ。


 しっかりと全ての材料が混ざり合ったら、熱に強い小さめの陶器に入れていく。量が足りるか心配だったが、ぎりぎり足りて安心した。


 人数分の陶器に液体を移したら、あらかじめ大きな鍋で沸かしておいたお湯に浸ける。お湯の量は、陶器が半分ほどつかるぐらい。

 陶器を並べたら、蓋をして弱火で温める。だいたい十分くらいの過熱を目安に、あとは合間合間に様子を窺うだけだ。


「これでよし。さーて、お次はっと……」


「ねぇ、シギ。私もなにか手伝おうか?」


 ティアの相手をしてくれていたシエラが、あとをフィエリとミファに任せ、料理の手伝いを申し出てくれた。

 歓迎会の発案者として、じっと待ってはいられなかったのだろう。


「ありがとう、助かるよ。なら……そこに置いてある野菜の皮を剥いて、みじん切りにしてもらえる?」


「えっと、これ? みじん切りって、細かく切ればいいのよね。うん、任されたわ」


 いやー、本当に助かった。今日の献立を作るうえで、憂鬱だった工程をシエラが引き受けてくれるんだからね。

 俺は俺で本日の主菜となる、スケイルボアという猪肉の調理にかかる。


 スケイルボアとは、鱗状に固まった強固な体毛を持つ猪だ。槍のように鋭く尖った牙と、天然の鎧が非常に脅威で、ひとたび走り出せばまさに弾丸。

 魔蝕の森におけるカーストでは下位に位置するが、だからといって舐めてかかると大怪我を負う魔物である。


 ちなみにこのスケイルボアの肉だが、この森で取れる獣肉の中では一番美味しいと断言できる。たっぷりと身に脂肪が乗り、網目状に入った脂身はまさしく霜降り。猪を家畜化させたのが豚だというし、肉として美味しいのは当然だといえる。


 両手に包丁を握り、猪肉を何度も刃で叩く。何度も何度も叩き、刻んでミンチ肉にする。ミキサーがあれば楽だったけれど、ない以上は人力で頑張るしかない。


「うぐっ……えぅ……ちょっと、シギぃ……」


「ん? どうしたの、シエラ?」


「あなたに頼まれてお野菜を刻んでたら、さっきから目が痛くて……。ずっと涙が止まらないんだけどぉ……!」


 目をしぱしぱとさせ、涙を流すシエラさん。

 うん、そうなるだろうとは思ってた。むしろ知ってて任せたからね。


 シエラが刻んでいた野菜の正体は、玉ねぎ。この世界の玉ねぎはナガ○ワ君ヘッドとは違い、丸みが強い。おまけにでかい。一般的なキャベツぐらいの大きさがある。


 町で買ってきた野菜類は基本的に、俺の知る範囲のものだけ。俺の記憶にある野菜と形や色が違っていたり、大きさがおかしかったりはするが、ひと目で「ああ、これはあれか」とすぐに連想できる類のものばかりを買い揃えてきた。


「それは玉ねぎっていう野菜なんだけど、知らなかった?」


 さもとぼけた体を装っているが、シエラが玉ねぎを知らないであろうことは予想がついていた。この玉ねぎを買った店の店主が、最近出回りだした珍しい野菜だと言っていたからね。

 だから任せたのは確信犯である。


 そもそもシエラが知っていれば、躊躇いなく包丁を握ったりはしなかっただろう。無知は罪とは、よく言ったものである。


「こんな野菜、初めて見たわよぅ……。これ、本当に食べても大丈夫な野菜なの? 毒を持っているから、切っていて目が痛くなったんじゃないの?」


「不安がらずとも大丈夫だってば。目や鼻にしみる刺激成分が入っているだけで、食べても害はないよ」


 少なくとも、人族には。エルフや獣人が食べても安全かはちょっとわからない。でも普通のネギは問題なく食べていたから、たぶん大丈夫でしょ。


 目にしみないための対策として、玉ねぎは料理する前に先に電子レンジで軽く温めておくといい。熱で刺激成分が変化するのだとか。なので俺が料理をする際には、もっぱらこの手段を用いていた。


 でもこの世界に電子レンジはないからね。仕方ないね。……切る前に、軽くお湯にくぐらせておいたらよかったかも。全てはもう後の祭り。どんまい、シエラ。


 ちなみに今回俺が作ろうとしているのは、皆大好きハンバーグ。これとカレー、エビフライは子供の好物として鉄板だろう。


 シエラに刻んでもらった玉ねぎを色がつくまで炒めてから、スキアフォーゲルの卵と一緒に猪肉のミンチに混ぜ込む。少量だけ購入した胡椒の実をすり鉢で砕き、塩と一緒に調味料として加える。本来であればパン粉を入れるのだが、今回は代わりとして片栗粉を投入。


「ねぇ、シギぃ……」


「はいはい、目の痛みが治まらないんでしょ。手伝いはもういいから、水で洗っておいで。少しはましになるから」


 ハンバーグの生地を練っている間も、シエラの涙は止まらなかった。横でずっとめそめそされたままでは鬱陶しいので、洗面所に行って水で目を洗ってこいと促す。


 泣きながらシエラは台所を離れ、入れ替わるようにして今度はミファがやってきた。


「なぁ、シギー。シエラが泣いていたが、どうかしたカ?」


「さぁ、どうしたんだろうね? 悲しいことでもあったんじゃない?」


 俺はなにも知りませんよと、とぼけておく。

 ミファは頭上に疑問符を浮かべるが、深くは追求してこなかった。俺とシエラが喧嘩をしたのではないことぐらい、承知しているのだろう。


「ミファも手伝うカー?」


 俺が練っているボウルの中身を見て、興味が湧いたらしい。普段なら食べる専門のミファが、今日は珍しく自分から手伝いを申し出た。


「じゃあ、お願いしようかな。えっと、ならミファにはこの続きを任せるね」


 任せるのは生地の成形。まずは見本として、俺が試しにひとつ作ってみせる。


 ひとり分の量を手にとり、キャッチボールをする要領で手から手へと投げ、生地の中にある空気を抜く。これをしておかないと、焼いたときに中の空気が膨張して崩れちゃうからね。


 空気抜きをしながら形を整え、円盤型に成形。仕上げに真ん中を窪ませておき、中まで熱が通りやすくしておく。


 たいして難しい作業ではないから、これならミファにもできるはず。

 続きを彼女に任せている間、俺はハンバーグのつけ合わせとソース作りに専念する。


 ……と、その前に。お湯に浸けていた陶器の中身を確認。細い木串を中央に突き刺してみて、刺した感触で火の通り加減を確かめる。うん、十分に熱が通っているな。


 卵に対し牛乳が少なかったためか、予想よりも固い仕上がり。柔らかすぎるよりかはましなので、よしとする。


 陶器を今度はお湯から冷水に浸け、冷やしにかかる。熱がとれるまでは何度か水を張り替え、冷たくなるまで放置しておけばいい。


「シギ、見て見テ! なぁ、シギってバ!」


 ミファが執拗に呼ぶので、何事かと振り返る。すると皿の上にハンバーグの生地で形作られた、不思議な生き物が鎮座していた。


「お肉でアムドウルスス作ったゾ!」


「お、おお。アムドウルススだったのね、これ。なるほど、確かに腕が四本ある。……って、おい。お手伝いはどうしたのかな、ミファちゃん?」


「……おぉゥ。つい夢中になって、うっかりしていタ」


 やはりか。食べ物で遊ぶのは感心しないな。生地を粘土と間違えていやしないか、ミファよ。

 110歳になっても、まだまだミファは子供なんだな。歳をとったからといって、誰もが必ずしも大人になるとは限らないという、まさにいい例である。


 怒られたミファはいそいそとアムドウルススを生地に戻し、指示された通りに一人前ずつ成形していく。またさぼらないようにと俺が目を光らせているので、次はちゃんとやってくれるだろう。


 ミファが真面目に手伝いをしはじめたので、俺は俺で主菜の付け合せとソース作りに戻る。


 ハンバーグの付け合せといえば、グリーンピース、コーン、ニンジン、ジャガイモあたりが定番かな? なので手元にある食材から、ニンジンとジャガイモをチョイスする。

 ジャガイモはふかして、ニンジンは水煮でいいか。色合いとして緑が欲しくなるので、レタスを下に敷いておけばいいな。


 続いてハンバーグにかけるソース作り。自家製のトマトケチャップと晩酌用に買った赤ワイン、醤油を使い、摩り下ろした余り野菜も加えて煮込み、デミグラスソースっぽく作ってみた。


 味見をしてみたが、そこそこ美味しくできたと思う。まだまだ高みを目指せる味だったが、現状ではこれが限界かな。ここにハンバーグを焼いたあとに残る肉汁を加えれば、味に重みがでるはず。


 ミファが成形してくれたハンバーグを、最後に俺が整える。熱したフライパンに油を引き、生のハンバーグを投入。


 最初は強火で両面に焼き色をつけたら、火を弱くして水を少量入れ、蓋をして蒸し焼きに。生焼けを避けるため、中までしっかりと火を通す。

 水気が飛ぶまで待ち、串を刺してみて穴から透明な肉汁が溢れてくれば焼きあがった証拠。


 皿に敷いたレタスの上にハンバーグを置き、隣に付け合せのジャガとニンジンを添える。

 肉汁を加えてから軽くひと煮立ちさせたソースをかければ、今晩の献立となるハンバーグの完成である。


 町で買ってきた既製品のパンを薄くスライスし、大皿に盛って食卓の中央に配置する。

 子供には果実を絞ったジュース、大人には赤ワイン。配膳が完了したら、ようやくお待ちかねの夕食もとい、ティアの歓迎会の始まりだ。

お読みいただき、ありがとうございます。

いただいた感想、ブクマ、評価は今後の創作の励みになります。

引き続き、お付き合い願えれば幸いです。

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