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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第94章 北境大攻勢


北境の山岳地帯。


山腹に埋もれた古代遺跡の入口で、青白い魔法陣が不気味な光を放っていた。


ゴゴゴゴゴ……!


地面が激しく揺れる。


岩肌に刻まれた古代文字が、次々と輝き始めた。


レオン「……おいおい。これ、どうなってるんだ?」


俺――レオン・アルセリアは、剣を構えながら周囲を見渡した。


つい先ほどまで、ただの廃墟にしか見えなかった場所だ。


それが今では、山そのものが目覚めようとしているかのようだった。


ルミナ「地下からの魔力反応が増大しています」


フィオナ「崩れる危険は?」


ルミナ「不明です。ただし、地盤の変動を確認しています」


フィオナ「分かった! 騎士たちは全員、後方へ退避! 崖から離れて!」


辺境騎士「はっ!」


フィオナの命令に従い、騎士たちが素早く移動する。


俺は魔法陣へ視線を戻した。


レオン(……どうすればいいんだ、これ?)


魔力の流れを感じ取ることはできる。


だが、未知の古代術式を操作する方法までは知らない。


下手に手を出せば、かえって危険かもしれない。


レオン「ルミナ。この魔法陣、何をしてるか分かる?」


ルミナ「解析中です。地下から魔力が流出していますが、同時に周辺の魔力を取り込んでいるようです」


レオン「……取り込んでる?」


ルミナ「はい。ただし、目的は不明です」


フィオナ「それって、さっき見た弱った魔物たちと関係があるの?」


ルミナ「可能性はあります。しかし、断定はできません」


そのとき。


ピシッ……!


魔法陣の中心に亀裂が走った。


レオン「まずい!」


ルミナ「魔力反応、急上昇!」


フィオナ「全員、下がって!」


俺は咄嗟に二人の前へ出た。


術式を止める方法は分からない。


だが、何かが飛び出してくるなら、剣で対処するしかない。


次の瞬間。


ドォォン!!


青白い光の柱が、地面から噴き上がった。


ルミナ「防御障壁、展開します!」


透明な障壁が俺たちを包み込む。


凄まじい衝撃。


舞い上がる土煙。


そして数秒後、光は消え去った。


レオン「……助かった」


ルミナ「地下の活動は継続しています」


フィオナ「じゃあ、また起きるかもしれないってこと?」


ルミナ「はい」


レオン(……厄介だな)


原因も、目的も分からない。


こんな状態で内部へ踏み込むのは危険すぎる。


レオン「一度戻ろう。父上に報告した方がいい」


フィオナ「賛成。監視だけ残して撤収するよ!」


そのとき。


一羽の伝令鳥が、山の向こうから飛来した。


辺境騎士「フィオナ隊長! 司令部から緊急伝令です!」


フィオナ「何があったの?」


書簡を開いたフィオナの表情が変わる。


フィオナ「……北境第一防衛線に、大規模な敵軍が接近してるって」


レオン「敵軍?」


フィオナ「これまでの魔物とは違う。完全に統率された軍勢らしい」


ルミナ「……魔王軍の可能性があります」


フィオナ「うん。しかも、竜族と思われる指揮官まで確認されたって」


レオン「……竜族?」


嫌な予感がした。


北境で、何かが大きく動き始めていた。




北境第一防衛線。


岩山の間に築かれた要塞では、見張りの兵士たちが信じられない光景を目撃していた。


辺境兵「……なんだ、あれは」


地平線の向こう。


黒い波のようなものが近づいてくる。


ゴブリン。


オーク。


巨大な魔獣。


甲冑をまとった魔族の兵士。


それらが整然と隊列を組み、進軍していた。


辺境兵「魔物が……軍隊みたいに動いてやがる……!」


辺境指揮官「全軍、戦闘配置! 司令部へ伝令を送れ!」


警鐘が鳴り響いた。


だが、敵軍は砦の射程外で進軍を止めた。


その前方へ、一人の女性が姿を現す。


長い銀紅色の髪。


黄金色の瞳。


額から伸びる二本の竜角。


漆黒の甲冑をまとい、長剣を佩いた美しい女だった。


彼女の名は――


ヴェルセリア・ドラグレイン。


ドラゴン族の女将軍。


魔族将校「ヴェルセリア将軍。全軍、配置を完了いたしました」


ヴェルセリア「ご苦労。人間どもの防衛線は?」


魔族将校「正面は堅固ですが、東側の山道に比較的手薄な箇所があります」


ヴェルセリア「……なるほど」


彼女は地図を眺めた。


ドラゴン族。


竜の力を受け継ぎ、人の姿と竜の姿を持つ強大な種族。


だが、今回の戦争にドラゴン族そのものは参戦していない。


魔王軍への協力を決めたのは、ヴェルセリア個人の意志だった。


そのため、彼女には一族との間に明確な取り決めがあった。


同族の戦力を動員しないこと。


そして、戦場で竜の姿へ変じないこと。


竜の姿による戦闘は、一族の軍事介入と受け取られかねない。


ヴェルセリアはその条件を受け入れ、あくまで一人の武人として魔王軍に加わっていた。


魔族将校「将軍。失礼ながら、やはり竜の御力をお使いになれば……」


ヴェルセリア「その話は終わったはずだ」


静かな声だった。


だが、将校は背筋を伸ばした。


ヴェルセリア「我が一族は、この戦には加わらぬ。私も約定を違えるつもりはない」


魔族将校「……申し訳ありません」


ヴェルセリア「もっとも、竜の姿にならねば戦えぬほど、私は弱くないがな」


彼女は小さく笑った。


そして、地図の東側を指差す。


ヴェルセリア「正面から攻撃を仕掛け、敵の注意を引きつけろ。その間に別働隊を東の山道へ回す」


魔族将校「はっ!」


ヴェルセリア「無駄な損害は避けよ。砦一つ落として終わる戦ではない」


彼女は長剣を抜いた。


ヴェルセリア「――全軍、進撃!」


その号令とともに、魔王軍が動き始めた。




ドォン! ドォン!


北境第一防衛線。


城壁上の魔導砲が、次々と火を噴いた。


辺境兵「命中! 敵前衛に損害!」


しかし、魔王軍の進軍は止まらない。


倒れた兵士の穴を後続が埋め、盾を持った重装兵が前進する。


辺境指揮官「……統率が取れすぎている!」


通常の魔物なら、これだけの損害を受ければ混乱する。


だが、敵は違った。


魔族将校「魔術部隊、攻撃開始!」


ドガァァン!!


巨大な火球が城壁へ直撃した。


辺境兵「ぐああっ!」


辺境指揮官「防御障壁を維持しろ! 負傷者を下げろ!」


激しい攻防が続く。


しかし、その裏で。


魔王軍の別働隊が、東側の山道を進んでいた。


魔族将校「……攻撃開始!」


ドォォン!!


魔導兵器が火を噴く。


砦の東側城壁が大きく揺れた。


辺境兵「敵襲! 東側から別働隊です!」


辺境指揮官「何だと!?」


正面の敵を防ぐため、東側の守備兵は減らされていた。


そこへ、重装備の魔族兵が殺到する。


辺境指揮官「予備兵力を東門へ!」


辺境兵「しかし、正面も限界です!」


そのとき。


敵軍の後方から、一人の女が歩み出た。


ヴェルセリアだった。


ヴェルセリア「……よく持ちこたえているな」


彼女は崩れかけた城壁を眺める。


ヴェルセリア「だが、ここまでだ」


長剣に、黄金色の魔力が集まった。


辺境兵「敵将が来るぞ!」


ヴェルセリア「《竜炎斬》!」


ゴォォォッ!!


剣から放たれた炎の斬撃が、城壁へ叩きつけられた。


ドガァァァン!!


石壁が砕け散る。


辺境兵「城壁が……!」


辺境兵「突破された!!」


魔王軍が崩れた城壁へ殺到した。


しかし、ヴェルセリアは追撃を急がせなかった。


魔族将校「将軍! このまま敵を追撃すれば……!」


ヴェルセリア「深追いは無用だ」


魔族将校「しかし……!」


ヴェルセリア「後方にはアルセリア辺境伯の軍が控えている。突出すれば包囲されるぞ」


魔族将校「……はっ!」


ヴェルセリア「ここを確保し、補給路を整えよ。次の進軍はそれからだ」


北境第一防衛線。


その一角が、ついに破られた。




アルセリア辺境軍司令部。


緊急の軍議が開かれていた。


アルセリア辺境伯「……第一防衛線の東部が突破されたか」


副官「はい。残存部隊は第二防衛拠点へ撤退中です」


アルセリア辺境伯「避難民は?」


副官「周辺村落へ退避命令を出しています」


アルセリア辺境伯「……敵将は?」


副官「現時点では、身元を特定できておりません。ただ、竜角を持つ女性が敵軍を指揮していたとの報告があります」


アルセリア辺境伯「……竜角を持つ女か」


副官「はい。ドラゴン族の可能性がありますが、確証はありません」


アルセリア辺境伯「……ドラゴン族か」


副官「なお、竜の姿をした個体や、ほかの竜族と思われる兵の存在は確認されておりません」


アルセリア辺境伯「ならば、一族全体が参戦したと決めつけるのは早い」


副官「はい。引き続き情報を集めます」


アルセリア辺境伯「それでも、脅威であることに変わりはない」


彼は地図へ視線を戻した。


アルセリア辺境伯「第二防衛線を強化しろ。西部の部隊は配置を維持。敵の別働隊に備えよ」


副官「はっ!」


アルセリア辺境伯「補給路を分散させろ。避難民の移送を最優先する」


副官「承知しました!」


アルセリア辺境伯「王都へ緊急報告を送れ。魔王軍による大規模侵攻を確認した、と」


副官「はっ!」


軍議が続く中、アルセリア辺境伯は地図の北東部へ目を向けた。


そこには、古代施設が存在する山岳地帯がある。


アルセリア辺境伯「……レオンたちは戻ったか」


副官「まもなく帰還予定です」


アルセリア辺境伯「戻り次第、ここへ通せ」


魔王軍の侵攻。


地下古代施設の異変。


そして、魔物たちの異常行動。


アルセリア辺境伯「……偶然とは思えんな」




夕刻。


俺たちは辺境伯城へ戻ってきた。


だが、城内の様子は出発前とは一変していた。


負傷兵を乗せた荷馬車。


慌ただしく行き交う騎士たち。


次々と運び出される補給物資。


レオン「……本当に戦争が始まったんだな」


フィオナ「……うん」


ルミナ「負傷者が増えています。救護班への支援が必要です」


レオン「父上への報告が終わったら、俺も手伝うよ」


ルミナ「ありがとうございます」


俺たちは軍司令部へ向かった。




アルセリア辺境伯「……戻ったか」


レオン「はい、父上」


俺たちは古代遺跡で確認した異常を報告した。


地下の膨大な魔力反応。


周辺の魔力を取り込む術式。


突如として噴き上がった光の柱。


アルセリア辺境伯「……原因は分からぬのだな」


レオン「はい。俺には魔法陣を解析する知識も、操作する技術もありません」


ルミナ「私も詳細な解析には至っていません。ただし、王都の古代施設と類似する反応を確認しています」


アルセリア辺境伯「……そうか」


父上はしばらく考え込んだ。


そして、地図を指差す。


アルセリア辺境伯「第一防衛線の東部が突破された。敵は竜族と思われる女指揮官を中心に、統率された軍として動いている」


レオン「……魔王軍なんですね」


アルセリア辺境伯「そう判断している。ただし、敵将の正体はまだ分かっておらん」


フィオナ「私たちはどう動けばいいんですか?」


アルセリア辺境伯「フィオナには避難路の確保を命じる」


フィオナ「……前線ではないんですか?」


アルセリア辺境伯「右腕の負傷を考えろ」


フィオナ「でも……!」


アルセリア辺境伯「民を守ることも騎士の務めだ。お前の指揮能力を見込んで任せる」


フィオナ「……承知しました!」


アルセリア辺境伯「ルミナには、転移魔法による物資と負傷者の輸送を頼む」


ルミナ「はい。可能な範囲で対応いたします」


そして、父上は俺を見る。


アルセリア辺境伯「レオン。お前には古代施設の調査を続けてもらいたい」


レオン「……はい」


アルセリア辺境伯「ただし、未知の術式へ不用意に手を出すな。目的は情報の収集だ」


レオン「分かりました」


アルセリア辺境伯「異常があれば退け。必ず生きて戻れ」


厳格な父上の言葉。


その奥にある心配を、俺は感じ取っていた。


レオン「……はい、父上」




その夜。


俺は城壁の上から北の空を眺めていた。


遠くに見える赤い光。


戦場の炎だろうか。


レオン(……魔王軍、か)


自分が異世界へ転生し、この身体で生きるようになってから、いろいろなことがあった。


剣聖の力。


学院での生活。


仲間たちとの出会い。


そして、古代遺跡を巡る事件。


だが、今度の相手は軍隊だ。


いくら剣聖の力があっても、俺一人で戦争を終わらせられるわけじゃない。


フィオナ「……やっぱり、ここにいた」


振り返ると、フィオナが立っていた。


レオン「フィオナ」


フィオナ「あんた、昔から考え事すると、一人になりたがるよね」


レオン「……そうだったっけ?」


フィオナ「そうだよ」


彼女は俺の隣に立った。


しばらく、二人で北の空を眺める。


フィオナ「……怖いね」


レオン「……ああ」


フィオナ「私、騎士になったとき、いつかこういう戦いが来るかもしれないって覚悟してた」


レオン「うん」


フィオナ「でも、実際に起きると全然違うね」


彼女は右腕へ視線を落とした。


フィオナ「……もっと強くなりたいな」


レオン「フィオナは十分強いだろ」


フィオナ「そうかな」


レオン「ああ。今日だって、部隊をちゃんと指揮してた」


フィオナ「……ふふっ。ありがと」


そして、彼女は少し懐かしそうに笑った。


フィオナ「でも、レオンも変わったよね」


レオン「……俺が?」


フィオナ「うん。昔は、剣だって苦手だったし、何かあるとすぐ困った顔してたのに」


レオン「……まあ、そうだったな」


フィオナ「それが今じゃ、すっかり頼りになるんだから」


レオン(……中身が変わったから、なんて言えないよな)


俺は苦笑した。


フィオナ「でもさ」


レオン「ん?」


フィオナ「あんまり一人で頑張りすぎないでよ」


レオン「……分かってる」


フィオナ「ほんとに?」


レオン「ほんとだって」


フィオナ「……なら、いいけど」


彼女は微笑んだ。


フィオナ「絶対、無茶しないでね」


レオン「それ、俺の台詞なんだけど」


フィオナ「私はいいの!」


レオン「よくないだろ……」


フィオナ「ふふっ!」


彼女の笑い声が、夜風に溶けていった。




魔境の奥深く。


古城の地下。


古代の魔導装置が並ぶ広大な部屋。


真紅の魔導人形が、空中に浮かぶ魔力映像を見つめていた。


映し出されているのは、北境の古代施設。


そこから広がる青白い魔力の波紋だった。


真紅の魔導人形「あらあら……ずいぶん賑やかになってきたわね」


少女は楽しそうに微笑んだ。


真紅の魔導人形「地上では戦争。地下では眠っていたものが目を覚まそうとしている……」


指先を動かすと、空中に浮かぶ光点がいくつも広がった。


真紅の魔導人形「ふふっ。みんな目の前の敵に夢中で、足元で何が起きているのか気づいていないのね」


そのうちの一つが、強く輝いた。


レオンの魔力反応。


真紅の魔導人形「あら……でも、一人だけ気になる子がいるわ」


少女は赤い瞳を細めた。


真紅の魔導人形「レオン・アルセリア。あなたは剣で斬れないものを前にしたとき、どうするのかしら?」


楽しげな笑み。


真紅の魔導人形「強い剣を持っているからって、何でも斬れば解決するわけじゃないものね」


彼女はくすくすと笑った。


そして、別の光点へ視線を移す。


ルミナの魔力反応。


真紅の魔導人形「あら、銀髪の子も一緒なのね」


少女は小さく首を傾げた。


真紅の魔導人形「自分の意志で人間を助けるなんて……本当に面白い子」


少しの沈黙。


真紅の魔導人形「でも、もし自分の意志と、大切な人を守るための選択が食い違ったら……」


少女は意味ありげに微笑んだ。


真紅の魔導人形「あなたは、どちらを選ぶのかしら?」


そのとき。


部屋の奥で、巨大な魔導装置が低い音を立てた。


ゴウン……。


ゴウン……。


床を走る魔力回路が、赤く輝き始める。


真紅の魔導人形「あら。こちらも準備が整い始めたみたい」


彼女は装置を見上げた。


真紅の魔導人形「マスターの計画は順調……と言いたいところだけど」


赤い瞳に、悪戯っぽい光が宿る。


真紅の魔導人形「予定通りに進むお話ほど、退屈なものはないわよね?」


そして、楽しそうに笑った。


真紅の魔導人形「ふふっ……誰が最初に、決められた筋書きから外れるのかしら」




北境。


第二防衛線を見下ろす丘の上。


ヴェルセリア・ドラグレインは、夜風に銀紅色の髪をなびかせていた。


魔族将校「将軍。第二次攻勢の準備が進んでおります」


ヴェルセリア「……そうか」


魔族将校「明朝には進軍可能です」


ヴェルセリアは静かに頷いた。


ヴェルセリア「アルセリア辺境伯……なかなかの武人らしいな」


魔族将校「はい。北境を長年守ってきた名将です」


ヴェルセリア「……一度、剣を交えてみたいものだ」


魔族将校「将軍……」


ヴェルセリア「分かっている。戦の目的は忘れぬ」


彼女は長剣の柄に手を添えた。


竜の姿へ変じることはない。


同族を戦場へ呼ぶこともない。


それが、一族と交わした約定だった。


だが。


ヴェルセリア「この身一つでも、十分に戦える」


黄金色の瞳が、南の空を見据える。


ヴェルセリア「さあ、人間ども」


静かな闘志が、その声に宿っていた。


ヴェルセリア「どこまで我らを止められるか、見せてもらおう」


北境の夜が深まっていく。


魔王軍の侵攻。


古代施設の異変。


そして、ドラゴン族の女将軍の参戦。


アルセリア辺境伯領を巡る戦いは、さらに激しさを増そうとしていた。


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