↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/110

第91章 二十体の魔導鎧


 王立学院、魔術研究会。


 俺――レオン・アルセリアは、目の前に立つ赤銅色の魔導鎧を見上げていた。


 アーマードクラリッサ。


 マリアベル・クレイン先輩が発表した、クラリッサ専用の魔導強化鎧である。


 先日の試験では歩行制御に問題が発生し、俺たちが総出で停止させる羽目になった。


 だが、その性能には確かな可能性が感じられた。


 何しろ、クラリッサの筋力を増幅するだけでなく、重量物の運搬や救助活動にも利用できるというのだから。


 もっとも。


 レオン(……安全装置代わりにされるのは、もう勘弁してほしいけどな)


 俺は小さくため息をついた。


 そのとき。


 マリアベル「さて、皆さん! 今日は重大な発表があります!」


 またか。


 嫌な予感しかしない。



 マリアベル「実はこのアーマードクラリッサ、私が一から製作したものではないの!」


 クラリッサ「……え?」


 リリアーナ「……説明が必要です」


 マリアベル「もちろんよ!」


 先輩は眼鏡を押し上げた。


 マリアベル「この鎧の原型は、ずっと昔に発見された古代遺跡の発掘品なの!」


 レオン「……古代遺跡?」


 思わず聞き返した。


 マリアベル「ええ。発見された当時、すでに稼働不能だったそうよ」


 ヴィクトリア「それを修復したということですの?」


 マリアベル「正確には、歴代の魔術研究会が修復と再起動を目指して研究してきたのよ!」


 マリアベル先輩は分厚い記録帳を取り出した。


 革の表紙は擦り切れ、何度も修復された跡がある。


 マリアベル「この学院の魔術研究会では、何代にもわたって、この古代鎧の研究を引き継いできたの」


 エリシア「何代も……」


 マリアベル「そう! 先輩から後輩へ、後輩からさらに次の世代へ! 稼働させるという夢を託してきたのよ!」


 普段の大げさな口調だったが、その表情には本物の誇りがあった。


 リリアーナ「……知っています。歴代部長の研究記録です」


 マリアベル「よく読んでいるわね!」


 リリアーナ「全巻読みました」


 レオン「全巻!?」


 リリアーナ「はい」


 レオン「……何冊あるんだ?」


 リリアーナ「四十七冊です」


 レオン「……お前、暇なの?」


 リリアーナ「研究です」


 即答だった。



 マリアベル「そして! 今回ようやく、停止していた古代鎧の一体を試験的に動かすことに成功したの!」


 アーヴェル「つまり、先輩が開発したのは、古代鎧を動かすための制御機構ということですね」


 マリアベル「その通り!」


 先輩は胸を張った。


 マリアベル「古代の装甲そのものは、私たちには作れないわ。だから既存の機構を調べ、外付けの制御術式と魔力供給装置を組み合わせたの!」


 リリアーナ「……正確には、復元と再設計です」


 マリアベル「そういうこと!」


 クラリッサ「でもさ、これって何であたし専用なの?」


 マリアベル「あなたの身体能力と火属性魔術に合わせて、試作制御機構を調整したからよ!」


 クラリッサ「おおっ!」


 リリアーナ「原型の名称は不明です」


 レオン「じゃあアーマードクラリッサって名前は?」


 マリアベル「私が命名したわ!」


 レオン「やっぱりか!」


 クラリッサ「いい名前じゃん!」


 ヴィクトリア「どこがですの!?」


 カグラ「……分かりやすい」


 レオン「お前まで!」


 いつもの騒がしさが少し戻ってきた。


 だが、マリアベル先輩の説明はまだ終わっていなかった。


 マリアベル「それじゃあ、もっと面白いものを見せてあげる!」



 俺たちは研究会の地下保管庫へ案内された。


 重い扉が開く。


 その向こうには、広大な石造りの部屋があった。


 そして。


 レオン「……は?」


 思わず固まった。


 薄暗い保管庫の奥に、巨大な人影が整然と並んでいたのである。


 一体。


 二体。


 三体。


 ……多い。


 クラリッサ「うわあああああ!!」


 赤髪の少女が歓声を上げた。


 クラリッサ「何これ!? 全部あの鎧!?」


 マリアベル「そうよ!」


 先輩は得意満面で答えた。


 マリアベル「古代遺跡から発掘された魔導鎧は、全部で二十体!」


 ヴィクトリア「に、二十体!?」


 エリシア「こんなにたくさん……」


 アーヴェル「発見されたものが、すべてここに保管されているのですか?」


 マリアベル「ええ。現在は十九体がこの保管庫にあって、残る一体がアーマードクラリッサとして試験稼働中よ」


 俺は並んでいる鎧を見上げた。


 いずれも赤銅色の古代金属で構成されている。


 形状には多少の違いがあるが、基本構造は共通しているようだった。


 何より不気味なのは、古びた外見に反して装甲にほとんど傷がないことだった。


 アーヴェル「……相当な強度ですね」


 マリアベル「そこが最大の特徴よ!」


 先輩は装甲板を軽く叩いた。


 澄んだ金属音が響く。


 マリアベル「この装甲は、現代では再現できない古代の金属でできているの」


 リリアーナ「加工不能です」


 レオン「加工不能?」


 リリアーナ「はい。既存の工具では削れません。溶解もできません」


 マリアベル「歴代の研究会があらゆる方法を試したそうだけど、加工に成功した記録はないわ!」


 クラリッサ「すっげえ! じゃあ、めちゃくちゃ頑丈なんだ!」


 マリアベル「そういうこと!」


 ヴィクトリア「ですが、加工できないのでしたら、どうやって修理するんですの?」


 リリアーナ「交換です」


 彼女は鎧の関節部分を指差した。


 リリアーナ「装甲自体は加工できません。でも、元からある接続機構を利用すれば、部品単位で取り外せます」


 アーヴェル「なるほど。新しい部品を作るのではなく、残された部品を組み合わせるわけか」


 マリアベル「その通り!」


 ただし、それは大きな問題でもあった。


 破損した部品を新しく作れない以上、使用できる数には限界がある。


 マリアベル「だから、実用化できた場合の運用計画も決めてあるの!」


 先輩は指を十本広げた。


 マリアベル「二十体のうち十体を実用装備として使用! 残り十体は予備部品の供給元として保管する予定よ!」


 エリシア「半分を予備にするのですね」


 マリアベル「ええ。装甲の再製造ができない以上、長く運用するにはそれしかないわ」


 リリアーナ「合理的です」


 アーヴェル「だが、現状で動かせるのは一体だけなんですよね?」


 マリアベル「そうなのよねえ」


 レオン「そこが一番重要じゃないですか!」


 マリアベル「だから研究するんじゃない!」


 クラリッサ「十体動いたらすごいよね!」


 リリアーナ「十倍です」


 レオン「何が!?」


 リリアーナ「クラリッサさんの数です」


 レオン「増殖させるな!」


 クラリッサ「あたしが十人!? 最高じゃん!」


 ヴィクトリア「最悪ですわ!!」


 実験場に戻る前から、騒動が始まっていた。


   


 しかし、笑ってばかりもいられなかった。


 保管庫の出口で、アーヴェルが真剣な表情を浮かべた。


 アーヴェル「これほどの古代装備が存在していたのに、なぜ長年動かせなかったのか……」


 マリアベル「制御方法が分からなかったからよ。現代の魔術とは、根本的に違う仕組みが使われているの」


 リリアーナ「……魔力回路の一部が不明です」


 アーヴェル「つまり、今は動いていても、本来の性能は分からないわけか」


 マリアベル「そういうことね」


 レオン(……古代の魔導装備、か)


 俺は鎧の胸部に刻まれた模様を見つめた。


 幾何学的な線が、複雑に交差している。


 どこかで似たものを見たような気もする。


 だが、思い出せなかった。


 レオン(……気のせいかな)


 そのとき。


 研究会の扉が開いた。


 セレフィア先生「皆さん、少しよろしいですか?」


 穏やかな声だったが、表情は真剣だった。


 セレフィア先生「北境から新たな戦況報告が届きました」



 王立学院の会議室。


 俺たちは教師の許可を得て、支援活動に関係する部分の報告を聞いていた。


 セレフィア先生「北境では、魔物たちの動きがさらに複雑になっています」


 アーヴェル「統率された集団と、そうでない集団が混在している件ですね」


 セレフィア先生「ええ。しかも、互いに争っている群れも確認されているそうです」


 クラリッサ「魔物同士で?」


 セレフィア先生「そうです」


 リリアーナ「……指揮系統が異なる可能性があります」


 セレフィア先生「軍も同じ見方をしています。ただし、すべての集団の正体が判明したわけではありません」


 俺は地図を見つめた。


 北境の街道。


 補給路。


 破壊された集落。


 そして、俺の故郷。


 多くの死傷者が出ている。


 敵の攻勢が一時的に弱まったからといって、安心できる状況ではなかった。


 エリシア「……ルミナさんやフィオナさんは?」


 セレフィア先生「現時点で二人の死亡報告はありません。ただし、前線の状況は依然として厳しいようです」


 その言葉に、皆が僅かに息をついた。


 ヴィクトリア「……無事に戻っていただきたいですわ」


 ソフィア「私たちの医療物資も、少しでも早く届けたいですね」


 アーヴェル「王都の東街道を使う補給便について、学院も後方支援を行うことになっている。まずはそこからだ」


 クラリッサ「あたしも手伝う!」


 マリアベル「じゃあ、アーマードクラリッサで物資を運びましょう!」


 レオン「駄目です!」


 即答した。


 マリアベル「どうして!?」


 レオン「まだ歩行制御すら完全じゃないでしょう!」


 リリアーナ「同意します、先に安全試験です」


 レオン「ほら!」


 リリアーナ「そのあと重量物運搬試験です」


 レオン「結局やるのかよ!」



 その日の夕方。


 王都東街道の補給集積所では、北境へ送る物資の積み込みが行われていた。


 学院から参加を許可された俺たちは、軍の監督下で後方支援を手伝っていた。


 ヴィクトリアは荷馬車の配分を確認している。


 エリシアは風魔術で積み荷を支え、ソフィアは薬品箱の破損を調べていた。


 アーヴェルは護衛兵と経路の確認を進めている。


 俺とクラリッサは、ひたすら木箱を運ばされていた。


 クラリッサ「ねえレオン! こういうときこそ鎧があれば楽なのに!」


 レオン「俺もそう思う。でも、暴走して荷馬車を踏み潰したら本末転倒だろ」


 クラリッサ「それは困る!」


 カグラ「……来る」


 突然、カグラが顔を上げた。


 レオン「何が?」


 カグラ「……森の方。魔獣」


 直後、街道脇の茂みから獣の咆哮が響いた。


 現れたのは、傷だらけの四足魔獣だった。


 その後ろから、さらに数体。


 目は充血し、互いにぶつかりながら走ってくる。


 アーヴェル「護衛兵は荷馬車を守れ! 学院生は退避を優先!」


 レオン「分かった!」


 だが、一台の荷馬車が進路を塞がれていた。


 その荷台には医療物資が積まれている。


 クラリッサ「……あれ、放っておけないよね!」


 レオン「ああ!」


 アーヴェル「クラリッサ、俺と前へ! レオンは荷馬車側を頼む!」


 クラリッサ「了解!」


 クラリッサが大剣を構えた。


 アーヴェルがその横へ並ぶ。


 一体の魔獣が突進した。


 アーヴェル「今だ!」


 巧みな足さばきで敵の進路をずらす。


 クラリッサ「おりゃあああ!」


 炎をまとった大剣が、魔獣の前脚を薙いだ。


 巨体が崩れる。


 アーヴェル「次が来る!」


 別の魔獣が側面へ回り込む。


 カグラ「……遅い」


 風をまとった東方剣が閃いた。


 魔獣が体勢を崩す。


 ヴィクトリア「これ以上、近づけさせませんわ!」


 光の障壁が荷馬車を守った。


 エリシア「皆さん、こちらです!」


 風魔術で御者たちの退路が確保される。


 俺は暴れる馬の手綱を掴み、荷馬車を安全な位置へ誘導した。


 レオン(……戦わずに済むなら、それが一番なんだけどな!)


 その間に、アーヴェルとクラリッサが残る魔獣を制圧した。


 戦闘は短時間で終わった。


 補給物資の大半は無事だった。


 クラリッサ「やったあ! あたしたちだけでも何とかなった!」


 アーヴェル「全員が役割を守った結果だ」


 レオン「……本当に助かったよ」


 クラリッサは嬉しそうに笑った。


 クラリッサ「次は鎧を着てもっと活躍するからね!」


 レオン「頼むから安全試験が終わってからにしてくれ!」


    


 同じころ。


 北境、旧北方街道の石橋。


 フィオナは右腕をかばいながら、橋の下を見下ろしていた。


 先ほどまで不安定な魔力を放っていた古代施設は、ひとまず静まっている。


 だが、完全に停止したわけではない。


 フィオナ「……また動き出すかもしれないな」


 ルミナ「はい。地下の魔力の流れが、まだ安定していません」


 フィオナ「軍には報告した。これ以上、調査員なしで近づくのは危険だろう」


 ルミナ「……そうですね」


 ルミナは静かに橋の下を見つめた。


 古代の装置。


 複雑に組み合わされた導管。


 そして、円環状の奇妙な文様。


 それらが、何のために作られたものなのか。


 まだ分からない。


 だが、ひとつだけ確かなことがあった。


 ルミナ「……これは、ただの遺跡ではありません」


 フィオナ「……ああ。私もそう思う」


 遠くで、軍の警戒を告げる鐘が鳴った。


   


 王都地下。


 古代封印施設。


 シオン・アルトゥスは、静かに魔法陣を見つめていた。


 封印は維持されている。


 しかし、北境方面から流れ込む魔力の乱れは、以前よりも大きくなっていた。


 シオン「……また、動き始めている」


 銀髪の青年は、慎重に魔力を流した。


 王都を離れることはできない。


 自分がここを離れれば、封印が崩れる危険がある。


 シオン「……まだ、間に合うはずだ」


 過去に失われた未来。


 救えなかった命。


 その記憶を胸に、シオンは封印の維持を続けた。


    


 そして王立学院。


 夜の魔術研究会。


 保管庫では、十九体の古代鎧が静かに並んでいた。


 マリアベルは歴代の研究記録を読み返していた。


 マリアベル「……これだけ長く研究されてきたのに、まだ分からないことばかりね」


 隣ではリリアーナが、古代装甲の文様を写し取っている。


 リリアーナ「先輩」


 マリアベル「何?」


 リリアーナ「この模様、通常の装飾ではないと思います」


 マリアベル「どうして?」


 リリアーナ「全機体で配置が一致しています」


 マリアベル「製造時の共通意匠じゃないの?」


 リリアーナ「可能性はあります。でも……」


 少女は記録帳を開いた。


 リリアーナ「魔力を流したとき、この線だけ反応しました」


 マリアベルの目が輝いた。


 マリアベル「興味深いわね!」


 リリアーナ「はい」


 マリアベル「明日、詳しく調べましょう!」


 リリアーナ「記録します」


 二人は顔を見合わせ、静かに頷いた。


 二十体の古代魔導鎧。


 そのうち十体を実用化し、残る十体を予備部品とする計画。


 歴代の魔術研究会が引き継いできた研究は、ようやく一歩を踏み出したばかりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。