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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第89章 魔物の異変

 

 王立学院、魔術研究会の実験場。


 俺――レオン・アルセリアは、目の前に置かれた巨大な魔導鎧を見つめながら、深いため息をついていた。


 赤銅色の装甲。


 大型の肩当て。


 背中に搭載された魔力炉。


 そして両腕と両脚を覆う、複雑な魔導駆動装置。


 その名も、アーマードクラリッサ。


 二年生の魔術研究会部長、マリアベル・クレイン先輩が開発した新型魔導強化鎧である。


 北境で続く魔物の大規模暴走。


 その被害を少しでも減らすために開発されたという、実に立派な目的を持つ装備だ。


 ただし。


 レオン(……どうして俺が安全装置なんだよ)


 納得できないことがありすぎた。




 マリアベル「それでは諸君! 記念すべき第一回装着試験を開始するわ!」


 実験場に先輩の声が響く。


 クラリッサ「おおおお! ついに来た!」


 クラリッサはすでに鎧の前で準備運動をしていた。


 リリアーナも記録用のノートを開いている。


 リリアーナ「……魔力供給、正常」


 マリアベル「出力は?」


 リリアーナ「予定値の二十三パーセントです」


 マリアベル「素晴らしい!」


 クラリッサ「えっ、まだ二十三パーセントなの!?」


 リリアーナ「はい」


 クラリッサ「じゃあ全開にしたらもっと強いんだ!」


 リリアーナ「理論上は」


 クラリッサ「すっげえ!」


 リリアーナ「ただし、壊れる可能性があります」


 クラリッサ「……あたしが?」


 リリアーナ「鎧です」


 クラリッサ「なんだ、よかった!」


 レオン「よくねえよ! 中身のお前はどうなるんだ!」


 ヴィクトリアが額を押さえた。


 ヴィクトリア「本当に、この三人に任せてよろしいのでしょうか……」


 エリシア「一応、防御魔術の準備はしておきましょう」


 カグラ「……賛成」


 アーヴェル「観測者は障壁の後ろへ移動しよう」


 ソフィア「救急箱も持ってきました」


 レオン「……全員、事故が起きる前提じゃないか」


 マリアベル「失礼ね! 安全には十分配慮しているわ!」


 レオン「だったら俺を安全装置に指定しないでください!」


 マリアベル「万全を期しているのよ!」


 ……なるほど。


 この人の理屈では、俺を巻き込めば安全らしい。




 装着作業が始まった。


 クラリッサが鎧の内部へ入り、マリアベル先輩が固定機構を起動する。


 ガシャン。


 ガシャン。


 赤銅色の装甲が次々と閉じていく。


 最後に胸部の魔石が赤く輝いた。


 マリアベル「装着完了!」


 クラリッサ「おおおおお!」


 鎧がゆっくりと立ち上がる。


 その姿は、まるで小型の鋼鉄巨人だった。


 クラリッサ「すごい! 身体が軽い!」


 リリアーナ「補助駆動、正常です」


 クラリッサ「腕も動く!」


 ガシャン!


 クラリッサが拳を握る。


 マリアベル「まずは歩行試験よ!」


 クラリッサ「了解!」


 一歩。


 ガシャン。


 二歩。


 ガシャン。


 三歩。


 ガシャガシャガシャ!


 ……ん?


 クラリッサ「……あれ?」


 急に歩行速度が上がった。


 クラリッサ「ちょっと待って! 速い!」


 ガシャガシャガシャガシャ!


 クラリッサ「止まらないいいいい!」


 レオン「早速かよ!!」


 ヴィクトリア「だから申し上げたでしょう!!」


 マリアベル「おかしいわね!?」


 レオン「おかしいのは設計です!」


 リリアーナは冷静に魔導計器を確認していた。


 リリアーナ「……右脚の補助出力が上昇しています」


 マリアベル「制御術式は!?」


 リリアーナ「正常です」


 レオン「じゃあ何で暴走してるんだ!?」


 リリアーナ「……正常に暴走しています」


 レオン「意味が分からん!」




 クラリッサは実験場を猛然と走っていた。


 進行方向には訓練用の木箱が積まれている。


 クラリッサ「避けてええええ!」


 エリシア「皆さん、下がってください!」


 エリシアが風魔術を展開し、軽い実験器具を安全な場所へ移動させる。


 ヴィクトリア「まったく! 世話が焼けますわ!」


 光の障壁が展開された。


 アーヴェル「レオン! 右側から回り込め!」


 レオン「分かった!」


 俺は駆け出した。


 剣聖スキルによって周囲の動きが鮮明に見える。


 鎧の重心。


 脚部の駆動周期。


 魔力の流れ。


 ……よし。


 無理に止めれば、中のクラリッサに衝撃が伝わる。


 ならば。


 レオン「クラリッサ! 腕を上げろ!」


 クラリッサ「こう!?」


 レオン「そう!」


 鎧の脇へ滑り込み、補助駆動装置の連結部に手を掛ける。


 力を加える方向を調整する。


 そして。


 ガキン!


 駆動軸がわずかにずれ、鎧の進行方向が変わった。


 その先には、エリシアとヴィクトリアが準備した緩衝障壁がある。


 ドォン!


 鎧が障壁へ突っ込んだ。


 だが、衝撃は大幅に軽減された。


 リリアーナ「……今です」


 リリアーナが魔法陣を起動する。


 青白い光が鎧の脚部を包み込んだ。


 ガシャン。


 ようやく鎧が停止した。


 クラリッサ「……止まった?」


 レオン「ああ」


 クラリッサ「やったあああ!」


 マリアベル「実験成功ね!」


 レオン「どこが成功だあああ!!」


 実験場に叫び声が響いた。




 その後、鎧を緊急停止させるための術式に問題があることが判明した。


 マリアベル「なるほどねえ。補助駆動と歩行制御の同期が少しずれていたのね」


 リリアーナ「……修正可能です」


 マリアベル「どのくらいで?」


 リリアーナ「設計次第です」


 マリアベル「じゃあ、さっそく!」


 レオン「ちょっと待ってください!」


 二人が振り向く。


 レオン「今日はもう終わりにしましょう!」


 クラリッサ「えー! まだ全力出してないのに!」


 レオン「全力を出したら実験場が壊れる!」


 リリアーナ「……可能性はあります」


 レオン「否定してくれよ!」


 リリアーナ「事実です」


 ……いつものリリアーナだった。


 そのとき、クラリッサがふと思い出したように口を開いた。


 クラリッサ「ねえ。これって北境に送るんだよね?」


 マリアベル「もちろん、そのつもりよ」


 クラリッサ「だったら、もっとちゃんと完成させないとね」


 クラリッサは赤銅色の装甲を見つめた。


 クラリッサ「ルミナやフィオナさんが頑張ってるんだし。あたしたちだって、役に立ちたいじゃん」


 リリアーナ「……同意します」


 マリアベル「そうね」


 先輩も真剣な表情で頷いた。


 マリアベル「だからこそ、安全で実用的な装備に仕上げましょう」



 ……またまともなことを言っている様な気がするが……。


 今度こそ感心してもいいのだろうか?


 マリアベル「それじゃあ明日は最大出力試験ね!」


 レオン「やっぱり全然反省してない!!」




 実験が終わったころ、アーヴェルが新たな資料を持ってきた。


 アーヴェル「皆、少しいいか」


 その表情は真剣だった。


 アーヴェル「北境の魔物について、王国軍から学院へ追加情報が届いている」


 俺たちは机を囲んだ。


 アーヴェル「今回の異変は、当初、魔物の大規模暴走と判断されていた」


 レオン「ああ。そう聞いている」


 アーヴェル「だが、最近になって、その見方だけでは説明できない事例が増えているらしい」


 エリシア「どういうことでしょう?」


 アーヴェルは地図を広げた。


 アーヴェル「一部の魔物は無秩序に南下している。食料を無視し、何かから逃げるような動きを見せる群れもある」


 クラリッサ「……逃げてる?」


 アーヴェル「ああ。しかし別の集団は、明らかに違う」


 彼は街道上の補給拠点を指差した。


 アーヴェル「輸送隊への襲撃、補給路の遮断、罠を用いた撤退。こうした行動は単なる暴走では説明しにくい」


 ヴィクトリア「……つまり、何者かが指揮している可能性があるということですわね」


 アーヴェル「そうだ」


 エリシア「では、魔物たちはすべて同じ目的で動いているわけではないのでしょうか?」


 アーヴェル「その可能性がある。軍の中でも見解が分かれているそうだ」


 カグラ「……統率された群れと、されていない群れ」


 アーヴェル「そういうことだ」


 そこでクラリッサが首を傾げた。


 クラリッサ「でも、魔物軍じゃ無くて魔王軍って呼ぶ人もいるよね?」


 アーヴェル「ああ。魔王やその配下が関与しているのではないかという見方は以前からある。しかし、今回の侵攻を魔王が直接命じたという証拠はまだ確認されていない」


 リリアーナ「……呼び方と実態は別です」


 クラリッサ「どういう意味?」


 リリアーナ「魔物軍は、軍隊のように動く魔物の集団を指す呼称です。魔王軍とは限りません」


 レオン「なるほどな」


 アーヴェル「そもそも、すべての魔物が同じ指揮官の下にあるとも限らない」


 俺は地図を見つめた。


 レオン(……そういうことか)


 魔物が大量に押し寄せている。


 だが、その中には何かから逃げている魔物と、明確な目的を持って行動する集団が混在しているのかもしれない。


 そして、その背後に魔王とその配下がいる可能性もある。


 レオン(……厄介だな)


 単なる魔物の暴走でさえ十分厄介なのに、指揮する者まで存在するとなれば、話はさらに複雑になる。


 エリシア「……ルミナさんたちは、このことをご存じなのでしょうか」


 アーヴェル「現地でも調査中のはずだ」


 ヴィクトリア「ますます心配ですわ……」


 沈黙が落ちた。


 しかし、先ほどまでとは少し違っていた。


 マリアベル「だったら、なおさら私たちの研究が重要ね!」


 リリアーナ「はい」


 ソフィア「私も北境向けの医療物資を整理してみます」


 エリシア「必要でしたら私もお手伝いします」


 クラリッサ「じゃあ、あたしは鎧の練習!」


 レオン「その前に制御装置を直せ!」


 ともかく、久しぶりに学園に活気が少し戻ってきたのは事実であった。




 そのころ。


 王都地下の古代封印施設。


 シオン・アルトゥスは、魔法陣に映し出された魔力波形を見つめていた。


 王都の封印は、現在も維持されている。


 だが、その奥で微弱な異常反応が続いていた。


 シオン「……北境の魔力と連動している?」


 魔法陣を操作する。


 地図上にいくつもの光点が現れた。


 その大半は、古代魔導施設が存在した場所と一致している。


 シオン「……まさか」


 過去の時間軸で見た記憶が蘇る。


 崩壊する大地。


 枯渇する魔力。


 そして、失われた命。


 シオン「……同じことが起きようとしているのか?」


 しかし、奇妙な点が一つあった。


 今回の反応は、以前の時間軸よりも早く発生している。


 何かが変わっている。


 シオン「……誰かが、予定を早めている?」


 封印の維持を放棄して北境へ向かうわけにはいかない。


 シオンは魔法陣へ手を伸ばした。


 シオン「……さらに深く調べる必要がある」




 北境魔境の前線。


 フィオナとルミナは、偵察隊から届いた報告を確認していた。


 フィオナ「……また別の群れ?」


 ルミナ「はい。北西の森から南下しています」


 フィオナ「攻撃してきたの?」


 ルミナ「いいえ。こちらの斥候を避けて移動したそうです」


 フィオナは眉をひそめた。


 フィオナ「妙ね。以前の襲撃部隊とは動きが違うわ」


 ルミナ「……私も気になっています」


 ルミナは地図を指差した。


 ルミナ「こちらの魔物たちは、ほとんど統率されていません。でも、補給隊を襲撃した集団は違いました」


 フィオナ「明らかに戦術を使っていたわね」


 ルミナ「はい」


 二人はしばらく地図を見つめた。


 フィオナ「……何かから逃げている魔物と、何かを狙っている魔物。そう考えれば、一連の動きにも説明がつくかもしれないわ」


 ルミナ「……その可能性はあります」


 ただし、何から逃げているのか。


 そして、誰が何のために指揮しているのか。


 まだ分からない。


 そのときだった。


 ルミナ「……?」


 微かな魔力反応。


 地面の奥深くから伝わってくる、奇妙な揺らぎ。


 フィオナ「ルミナ?」


 ルミナ「……地下に、何かがあります」


 フィオナ「地下?」


 ルミナ「はい。とても古い魔力反応です」


 ルミナは北の方角を見つめた。


 ルミナ「……何かが、動き始めているような……」


 


 さらに北方。


 魔境の古城。


 ヴァルガスは、配下からの報告を聞いていた。


 魔物兵「南下する魔物の群れが、さらに増加しています」


 ヴァルガス「……またか」


 魔物兵「我々の命令を受けていない個体も多数確認されています」


 ヴァルガス「放っておけ。我らの作戦に巻き込むな」


 魔物兵「はっ!」


 ヴァルガスは地図を見つめた。


 魔境から押し寄せる魔物たち。


 そのすべてが自分たちの軍勢ではない。


 中には、魔境の奥から何かを恐れて逃げてきた群れもいる。


 ヴァルガス「……魔境の異変は、まだ収まらんか」


 その背後から、涼やかな声が響いた。


 真紅の魔導人形「ええ。むしろ、これからが本番でしょう」


 ヴァルガス「……貴様」


 人形は静かに微笑んだ。


 真紅の魔導人形「ところで、興味深い反応を確認しました」


 ヴァルガス「何の話だ」


 真紅の魔導人形「北境へ現れた銀髪の少女です」


 その赤い瞳が怪しく輝く。


 真紅の魔導人形「彼女には、少々特別な適性があるようですね」


 ヴァルガス「……何を企んでいる」


 人形は答えなかった。


 ただ、誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。


 真紅の魔導人形「……マスター。準備は順調です」


 古城の地下で、古代魔導装置が微かに赤く明滅した。


 魔物の暴走。


 組織的な侵攻。


 そして、地下深くで進行する謎の異変。


 それぞれ別々の出来事に見えたものが、少しずつ一つの大きな謎へとつながり始めていた。 


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