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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第81章 補給拠点への競争

 

セレスティア王国、北方主要防衛砦。


 夜明け前の軍議室に、一枚の地図が広げられていた。


 地図の上には、二つの赤い印。


 一つは東街道を南下する約二千匹の魔物。


 もう一つは、その進路上にある王国軍の補給拠点だった。


 アルセリア辺境伯「敵の先頭が補給拠点へ到達するまで、早ければ明日の夕刻だ」


 騎士団長「拠点の守備兵は百四十名。あの数を防ぐのは不可能です」


 フィオナは腕を組もうとして、右腕の痛みに顔をしかめた。


 フィオナ「……だったら、守らなければいいんです」


 騎士団長「何?」


 フィオナ「補給拠点そのものは諦めます。大事なのは中の物資でしょう?」


 フィオナの指が、地図の一点を示した。


 フィオナ「この鷲尾峠。古い道が一本あります」


 騎士団長「廃道同然だぞ。馬が通れる保証はない」


 フィオナ「でも、通れれば東街道よりずっと短い。魔物より先に着けます」


 アルセリア辺境伯「……先回りして物資を運び出すのか」


 フィオナ「はい。魔物と戦うんじゃなくて、魔物より先に仕事を終わらせるんです!」


 辺境伯はしばらく考えた。


 アルセリア辺境伯「騎兵六十を派遣する。守備隊にはすでに警告を送ってある。合流して撤収を急がせろ」


 フィオナ「ありがとうございます!」


 アルセリア辺境伯「ただし、フィオナ」


 辺境伯の視線が、包帯で固定された右腕へ向く。


 アルセリア辺境伯「君は道案内と指揮だけだ。剣を抜くことは許さん」


 フィオナ「……はい」


 騎士団長「返事が遅い!」


 フィオナ「分かってますって! 今度はちゃんと大人しくしてます!」


 騎士団長は疑わしそうに彼女を見た。


 フィオナ「……そんな顔しなくてもいいじゃないですか!」




 六十騎が砦を出発したのは、まだ星が残る時刻だった。


 冷たい山風が頬を打つ。


 先頭を行くフィオナは、左手で手綱を握り、暗い山道を見つめていた。


 騎兵隊長「フィオナ殿。この道を使ったのは、いつですか?」


 フィオナ「去年の巡回です。あの時は確かに通れました」


 騎兵隊長「……去年ですか」


 フィオナ「心配しないでください。道に迷っても、ちゃんと帰れますから!」


 騎兵隊長「迷うことが前提なのですか!?」


 フィオナ「冗談ですよ!」


 兵士たちから小さな笑いが起こった。


 しかし、その笑いは長く続かなかった。


 峠の中腹へ差しかかった時だった。


 騎兵「隊長! 前方の道が!」


 街道が途切れていた。


 山肌が大きく崩れ、道の一部が谷底へ落ちている。


 馬が通れる幅は残されていなかった。


 騎兵隊長「……駄目だ。引き返すしかない」


 フィオナは崩れた道を見つめた。


 ここまで来るのに、すでに数時間かかっている。


 引き返して東街道へ回れば、魔物に先を越されるだろう。


 フィオナ「……少し待ってください」


 彼女は馬を降りた。


 そして、岩壁を見上げる。


 崩落箇所の上には、細い踏み跡が残っていた。


 フィオナ「……あった!」


 騎兵隊長「何です?」


 フィオナ「あそこ! 昔、猟師が使ってた山道です!」


 岩壁に沿って、細い道が続いている。


 だが、馬に乗ったまま通ることはできない。


 騎兵隊長「……危険です。足を滑らせれば谷底ですよ」


 フィオナ「分かっています。でも、馬を引いて慎重に進めば……!」


 騎兵隊長は険しい顔で道を見た。


 騎兵隊長「先に数名で確認します。通行できないようなら引き返します」


 フィオナ「はい!」


 斥候が岩場を登り、慎重に道を調べた。


 やがて戻ってくる。


 斥候「向こう側へ抜けられます! ただし、一列でしか進めません!」


 騎兵隊長「……よし。全員、下馬!」


 騎兵たちは馬を引き、慎重に山道へ入った。


 谷底から冷たい風が吹き上がってくる。


 途中、一頭の馬が足を滑らせた。


 騎兵「うわっ!」


 フィオナは反射的に右腕を伸ばしかけた。


 フィオナ「……っ!」


 鋭い痛みが走る。


 しかし、その前に別の兵士が手綱をつかんだ。


 騎兵「落ち着け! 大丈夫だ!」


 馬は何とか踏みとどまった。


 フィオナは胸を押さえ、深く息を吐いた。


(……駄目だな、私。すぐに身体が動いちゃう)


 彼女は右腕を見た。


 今は自分が無理をする場面ではない。


 やがて、最後の騎兵が岩場を抜けた。


 騎兵隊長「全員通過!」


 フィオナ「……よし!」


 だが、空はすっかり明るくなっていた。


 予定より大きく時間を失った。


 フィオナ「急ごう! まだ競争は終わってないよ!」




 同じ頃。


 東街道を南下する魔物の大軍。


 狼型、猪型、亜人型。


 異なる種類の魔物が、奇妙なほど同じ方向へ進んでいた。


 その様子を丘の上から観察していた斥候が、息を呑む。


 斥候A「……まずい。先頭の狼型が速度を上げている」


 斥候B「大型の魔物は遅れているぞ」


 斥候A「そうか……先行集団だけが突出しているのか」


 斥候は急いで報告を書き留めた。


 しかし、その報告が騎兵隊へ届く頃には、状況が変わっているかもしれない。


 魔物は休まず南へ進み続けていた。




 昼過ぎ。


 フィオナたちはようやく峠を越えた。


 眼下には広大な平野が広がっている。


 そして、その先に――。


 騎兵「補給拠点だ!」


 石壁に囲まれた倉庫群。


 その周囲には、物資を積んだ荷車が並んでいた。


 フィオナ「……見えた!」


 安堵しかけた、その時。


 前方から一騎の斥候が駆けてきた。


 斥候「報告! 魔物の先行集団が東街道を南下中!」


 騎兵隊長「距離は!?」


 斥候「補給拠点まで、およそ数時間! ただし、狼型の群れは本隊より速く進んでいます!」


 フィオナは北の地平線を見た。


 まだ魔物の姿は見えない。


 だが、悠長にしている時間もない。


 フィオナ「……行こう!」


 六十騎が一斉に駆け出した。


 平野に馬蹄の音が響く。


 補給拠点の門が近づいてくる。


 見張りの兵士が叫んだ。


 守備兵「王国軍の騎兵だ! 門を開けろ!」


 重い門が開かれた。


 騎兵たちが次々と中へ飛び込む。


 最後の一騎が門をくぐった時、フィオナは大きく息を吐いた。


 フィオナ「……勝った!」


 だが、競争の本当の勝負は、ここからだった。




 補給拠点の中は、すでに慌ただしく動いていた。


 辺境伯からの警告が届いていたため、守備隊は物資の積み込みを始めていたのだ。


 しかし、倉庫にはまだ大量の物資が残っている。


 守備隊長「増援か! 助かった!」


 騎兵隊長「アルセリア辺境伯の命により、騎兵六十名、到着しました!」


 守備隊長「……六十?」


 守備隊長は一瞬、言葉を失った。


 守備隊長「敵は二千近くいるのだぞ!?」


 フィオナ「ですから、戦うために来たんじゃありません!」


 フィオナは倉庫の並ぶ広場を見渡した。


 フィオナ「物資を逃がします。今すぐ!」


 守備隊長「すでに始めている! だが、全部積み終えるには明日までかかる!」


 フィオナ「……明日?」


 フィオナは目を見開いた。


 フィオナ「そんな時間、ないですよ!」


 守備隊長「分かっている! だが、食料だけでも相当な量がある!」


 フィオナは倉庫を見た。


 大量の穀物袋。


 武器の詰まった木箱。


 魔石の保管庫。


 そして、医療用品の倉庫。


 全部を持ち出すことは不可能だった。


 彼女は一瞬、唇を噛んだ。


 そして決断する。


 フィオナ「……優先順位を変えましょう」


 守備隊長「何?」


 フィオナ「最優先は魔石と医療品。次に武器と保存食。重い穀物は、積めるだけでいいです」


 守備隊長「穀物を置いていくのか!?」


 フィオナ「私だって嫌です!」


 フィオナは声を強めた。


 フィオナ「でも、全部を守ろうとして全部失うより、絶対に必要なものを持ち帰った方がいいでしょう!?」


 守備隊長は言葉を失った。


 やがて、ゆっくりと頷く。


 守備隊長「……その通りだ」


 フィオナはすぐに指示を出した。


 フィオナ「荷車は四台ずつ出発! 全部そろうまで待たないで! 街道で詰まったら大変だから!」


 兵士たちが一斉に動き始めた。


 次々と木箱が運び出される。


 魔石。


 治療薬。


 武器。


 食料。


 倉庫の広場には怒号と車輪の音が響いた。




 夕刻が近づく頃。


 最初の輸送隊が出発した。


 続いて第二、第三の輸送隊も南へ向かう。


 フィオナはようやく安堵しかけた。


 しかし、その時。


 斥候「敵襲! 北側に狼型の先行集団を確認!」


 警鐘が鳴り響いた。


 守備隊長「もう来たのか!?」


 フィオナ「……っ!」


 フィオナは北門へ走った。


 見張り台から街道を見渡す。


 北の丘陵地帯を、無数の黒い影が駆け下りてくる。


 狼型の魔物だった。


 その後方には、巨大な猪型の魔物も見える。


 さらに遠く、地平線の向こうに土煙が立ち上っていた。


 魔物の主力だ。


 フィオナ「……思ったより速い!」


 守備隊長「全軍、防御態勢!」


 兵士たちが北門へ集まり始めた。


 だが、フィオナは叫んだ。


 フィオナ「待って! 全員を北門に集めないで!」


 守備隊長「何だと!?」


 フィオナ「荷車の積み込みを続けて! 敵を倒すのは、今の目的じゃない!」


 フィオナは北門の外にある、石壁に挟まれた狭い道を指さした。


 フィオナ「あそこに障害物を置きます! 弓兵と槍兵で先頭だけを止めましょう!」


 守備隊長「しかし、あんなもので大軍を止められるものか!」


 フィオナ「大軍を止めるつもりはありません!」


 彼女はまっすぐ守備隊長を見た。


 フィオナ「あと三十分! それだけ稼げればいいんです!」


 守備隊長は歯を食いしばった。


 そして叫ぶ。


 守備隊長「……よし! 北門前へ障害物を運べ!」


 兵士たちが丸太と空の荷車を運び出した。


 北側の道へ、急ごしらえの防衛線が築かれていく。


 そして、ついに。


 狼型の魔物が、防衛線へ襲いかかった。


 


 無数の矢が夕空を切り裂いた。


 先頭の魔物が倒れる。


 しかし、後続は止まらない。


 兵士「うわあっ!」


 狼型の魔物が障害物を飛び越え、槍兵に襲いかかった。


 盾兵が割って入り、仲間を守る。


 激しい戦闘が始まった。


 フィオナ「右側! 回り込ませないで!」


 フィオナは見張り台から声を張り上げた。


 フィオナ「弓兵、左の大型魔物を狙って! 障害物に突っ込まれたら終わりだよ!」


 兵士たちが矢を放つ。


 しかし、巨大な猪型の魔物は止まらない。


 そのまま防衛線へ向かって突進してきた。


 守備隊長「まずい! 障害物が破られるぞ!」


 轟音。


 巨大な猪型魔物が丸太へ激突する。


 障害物が大きく傾いた。


 兵士たちの悲鳴が響く。


 フィオナは思わず剣の柄に手を伸ばしかけた。


 だが――。


 右腕に鋭い痛みが走った。


 フィオナ「……っ!」


(……駄目だ!)


 彼女は歯を食いしばった。


(今の私は、剣を振れない!)


 その時だった。


 夕闇を切り裂くように、銀色の光が走った。


 次の瞬間。


 巨大な猪型魔物の前に、透明な障壁が出現した。


 魔物が激突する。


 しかし、障壁は崩れない。


 守備隊長「……何だ!?」


 フィオナは空を見上げた。


 そこには、銀色の髪を揺らした少女が浮かんでいた。


 フィオナ「……ルミナ!」


 ルミナはゆっくりと地上へ降り立った。


 ルミナ「フィオナ様。遅くなりました」


 フィオナ「来てくれたんだ!」


 ルミナ「はい。補給拠点への救援が必要と判断しました」


 ルミナは周囲を見渡した。


 ルミナ「状況を確認しました。残存魔力量は十分ではありませんが、短時間の防衛支援は可能です」


 フィオナ「十分よ! お願い、あと少しだけ時間を稼いで!」


 ルミナ「承知しました」


 ルミナが手をかざす。


 巨大な障壁が展開され、魔物の進路を塞いだ。


 その隙に、兵士たちは崩れかけた障害物を補強する。


 そして、後方では――。


 伝令「第四輸送隊、出発しました!」


 フィオナ「よし! 残りは!?」


 伝令「最後の荷車が六台! 積み込み中です!」


 フィオナは息を呑んだ。


 あと少し。


 あと少しで、すべてが終わる。


 しかし、ルミナの障壁が激しく揺れ始めた。


 ルミナ「……魔力消費が増大しています」


 巨大な猪型魔物が、何度も障壁へ体当たりを繰り返している。


 透明な壁に、細かな亀裂が走った。


 フィオナ「ルミナ! 無理しないで!」


 ルミナ「はい。しかし、あと少しだけ……」


 その時。


 背後から、伝令の声が響いた。


 伝令「最後の輸送隊、積み込み完了!」


 フィオナは大きく息を吸った。


 フィオナ「……よしっ!」


 そして、叫ぶ。


 フィオナ「全員、撤退! もう十分だよ!」


 兵士たちが一斉に後退する。


 最後の荷車が南門を抜けた。


 騎兵たちも続く。


 そして、ルミナが障壁を解除した瞬間。


 巨大な猪型魔物が、障害物を粉砕した。


 魔物の群れが北門へ雪崩れ込む。


 だが、そこにはもう、王国軍の主力も重要物資も残っていなかった。




 夕闇の街道。


 南へ向かう輸送隊を見つめながら、フィオナは大きく息を吐いた。


 フィオナ「……勝った」


 隣ではルミナが静かに立っていた。


 ルミナ「はい。補給拠点の主要物資の退避に成功しました」


 フィオナ「ふふっ……やったね、ルミナ!」


 ルミナ「フィオナ様の判断が適切だった結果です」


 フィオナ「へへっ。今日はずいぶん褒めてくれるじゃない」


 ルミナ「事実です」


 フィオナ「……なんだか照れちゃうな」


 その時だった。


 後方から、一騎の斥候が駆けてきた。


 斥候「緊急報告!」


 フィオナが振り返る。


 フィオナ「どうしたの!?」


 斥候「敵の一部が……補給拠点を迂回しています!」


 フィオナの表情が変わった。


 斥候「狼型魔物の群れが、西側の森林地帯へ進入! その数、少なくとも百匹以上!」


 騎兵隊長「何だと!?」


 フィオナは地図を広げた。


 森林地帯。


 古い作業道。


 その先には、南へ続く街道がある。


 そして、その街道を進んでいるのは――。


 フィオナ「……輸送隊!」


 フィオナは息を呑んだ。


 魔物は、補給拠点だけを目指していたわけではなかった。


 このまま進めば、せっかく逃がした物資が襲われる。


 フィオナは拳を握りしめた。


 フィオナ「……冗談じゃない!」


 ルミナが隣に立つ。


 ルミナ「フィオナ様。追撃が必要ですね」


 フィオナ「うん!」


 フィオナは馬にまたがった。


 フィオナ「補給拠点への競争には勝った。でも、まだ終わってない!」


 彼女は南へ続く街道を見つめた。


 フィオナ「……次は、輸送隊を守るための競争だよ!」


 ルミナは静かに頷いた。


 ルミナ「承知しました」


 二人は再び走り出した。


 夕闇に包まれた街道を、馬蹄の音が駆け抜けていく。


 補給拠点を守る戦いは終わった。


 しかし、北方防衛軍の生命線を守る本当の戦いは、まだ続いていた。


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