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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第80章 救出作戦


 アルセリア辺境伯領、北方主要防衛砦。


 ルミナの援護によって城門の突破を防いだものの、戦況は依然として厳しかった。


 砦の周囲には、まだ大量の魔物が残っている。


 さらに、砦を迂回した約二千匹の魔物が、東街道を南下していた。


斥候「閣下! 東街道の魔物は現在も南下中! 先頭の群れが宿場町ハルベルトへ接近しています!」


騎士団長「ハルベルトか……!」


 会議室の地図へ、新たな赤い印が置かれた。


 ハルベルトは商人や旅人が集まる宿場町で、住民は三千人以上。


 その先には、南方へ続く重要な街道がある。


アルセリア辺境伯「住民の避難は?」


斥候「すでに開始されています。しかし、全員が退避するには時間が足りません!」


騎士団長「こちらの守備兵を動かせば、砦が持ちません」


 フィオナは腕を組もうとして、右腕の痛みに顔をしかめた。


フィオナ「……ったく。厄介なことになったな」


 彼女は地図を覗き込む。


 そして、町の西側を指さした。


フィオナ「閣下。魔物を倒すんじゃなくて、町の人間を逃がすことだけ考えませんか?」


アルセリア辺境伯「詳しく聞こう」


フィオナ「この森林道です。昔、騎士団の巡回で使いました。今はほとんど利用されていませんが、荷車も通れるはずです」


騎士団長「なるほど。東街道を使わず南西へ抜けられるのか」


フィオナ「ただ、狭い場所が多いんです。荷車が詰まったら面倒ですよ」


 その時、隣で地図を見ていたルミナが口を開いた。


ルミナ「私が向かいます」


フィオナ「……ルミナ?」


ルミナ「町の避難を支援します」


     


アルセリア辺境伯「君は先ほどの戦闘で、かなり魔力を消費したと聞いているが」


ルミナ「はい。現在、大規模な殲滅魔法の連続使用は困難です」


騎士団長「それで魔物二千を相手にするつもりか?」


ルミナ「いいえ。二千匹を倒す必要はありません」


 ルミナは淡々と答えた。


ルミナ「必要なのは、住民が退避するまで敵を足止めすることです」


フィオナ「……なるほどな」


ルミナ「フィオナ様の地形知識があれば、作戦の成功率を高められます」


フィオナ「へえ、ずいぶん褒めてくれるじゃない。でも残念、今の私じゃ剣もまともに振れないよ?」


ルミナ「問題ありません。必要なのは腕ではなく、頭脳です」


フィオナ「ふふっ、そこまで言われると照れちゃうな」


ルミナ「ただし、無茶をして負傷する傾向には改善の余地があります」


フィオナ「ちょっと! せっかくいい気分だったのに!」


ルミナ「長所と短所を公平に評価しました」


フィオナ「私、いつから採点されてたんだ!?」

 

ルミナは真顔のまま、小さく首を傾げた。


ルミナ「なお、負傷中に無理をしようとする点も減点対象です」


フィオナ「まだ採点続いてたのかよ!」

 

フィオナは頬を膨らませたあと、思わず笑った。


フィオナ「……ま、いいわ。今回は頭を使って頑張るから!」


ルミナ「賢明な判断です。加点しておきます」


ルミナと話す時は少しだけ、同年代の女子同士の口調に戻ってしまう。



 辺境伯は少し考え、騎士団長へ向き直った。


アルセリア辺境伯「騎兵五十を派遣する。目的は住民の避難支援だ。魔物の主力との交戦は避けろ」


騎士団長「承知しました!」


アルセリア辺境伯「ルミナ。部隊への同行を頼めるか?」


ルミナ「はい」


フィオナ「ルミナ、こっちへ来て。道を説明する」


 フィオナは地図に細かく印をつけた。


 荷車が詰まりやすい曲がり角。


 騎兵が通れる脇道。


 森の中で魔物を足止めできる場所。


フィオナ「いい? ここは急な坂だ。重い荷車は先に通せ。あと、この曲がり角には――」


ルミナ「倒木を利用して、敵の進路を狭められますね」


フィオナ「……話が早いな!」


ルミナ「ありがとうございます」


フィオナ「褒めたんだけど、ちょっと悔しい」


 ルミナは小さく首を傾げた。


 やがて説明が終わると、ルミナは出発の準備を整えた。


 長距離転移で消費した魔力は、まだ十分に回復していない。再び転移することはできないため、今回は飛行と通常移動を組み合わせて町へ向かう。


フィオナ「無茶するなよ、ルミナ」


ルミナ「フィオナ様も、安静になさってください」


フィオナ「……それを言われると弱いな」


 ルミナは一礼し、騎兵隊とともに砦を後にした。


  


 宿場町ハルベルトは、混乱の真っただ中にあった。


 荷物を抱えて走る商人。


 泣き出す子供。


 家畜を連れ出そうとする住民。


商人「商品を全部置いていけっていうのか!?」


町長「落ち着いてくれ! 順番に避難するんだ!」


住民「順番なんか待ってたら魔物が来るぞ!」


 町の西門には避難民が殺到していた。


 すでに多くの住民が森林道へ向かっていたが、老人や子供を乗せた荷車が詰まり、移動は遅れている。


 そこへ、騎兵隊が到着した。


騎兵隊長「アルセリア辺境伯の命令で救援に来た! 町長はどこだ!」


町長「わ、私です!」


 騎兵隊長が状況を確認している間に、ルミナは町の周囲を見渡した。


ルミナ「西門付近の混雑が最大の問題です。荷車と徒歩の方々を分けて誘導してください」


町長「……君は?」


ルミナ「王立セレスティア高等学院所属、ルミナです」


町長「学生なのか!?」


ルミナ「はい」


町長「そんな若い学生に、何ができるというんだ!」


 その瞬間、町の東側から悲鳴が上がった。


兵士「魔物だ! 狼型の群れが来たぞ!」


 先行してきた魔物が町の入口へ飛びかかる。


 ルミナは静かに片手を上げた。


ルミナ「防護障壁、展開」


 透明な壁が出現し、魔物を弾き返した。


 続けて光の槍が放たれ、先頭の魔物が倒れる。


町長「……!」


ルミナ「説明は以上です。避難を開始してください」


騎兵隊長「よし! 荷車は先に西門へ! 歩ける者は騎兵の指示に従え!」


 町長は慌てて頷いた。


町長「わ、分かった! みんな、急げ!」


    


 避難は少しずつ進み始めた。


 老人や子供を荷車へ乗せ、歩ける者は騎兵に誘導されて森林道へ向かう。


 しかし、東側から魔物の先行集団が次々と現れた。


騎兵「敵、百以上!」


騎兵隊長「全員、迎撃準備!」


ルミナ「私が先頭を抑えます」


 ルミナの周囲に光の槍が浮かび上がる。


ルミナ「射出」


 魔物たちが次々と倒れる。


 騎兵たちも槍を構え、町へ侵入しようとする敵を迎え撃った。


 だが、別の方向からも魔物が現れた。


騎兵「西側にも敵影! 避難路へ回り込もうとしています!」


ルミナ「……確認しました」


 ルミナは複数の障壁を展開した。


 しかし、魔力の消耗は無視できない。


ルミナ「残存魔力量、低下。広域防衛の継続は困難です」


騎兵隊長「危険だ! いったん下がるぞ!」


ルミナ「まだ町に住民が残っています」


騎兵隊長「しかし、このままでは!」


 ルミナは周囲の建物を見た。


 町の入口には石造りの倉庫が並び、道路は途中から狭くなっている。


ルミナ「騎兵隊長。入口の荷車を移動してください」


騎兵隊長「何?」


ルミナ「倉庫と荷車を利用して、魔物の進路を限定します」


 騎兵隊長は一瞬考え、頷いた。


騎兵隊長「……なるほど!」


 騎兵たちが荷車を動かし、道を塞ぐ。


 ルミナは必要な場所だけ障壁を展開した。


 広範囲を守るのではなく、敵が通れる場所を狭める。


 フィオナが石橋で実践していた戦い方だ。


ルミナ「一度に接近できる敵を制限しました。迎撃をお願いします」


騎兵隊長「よし! 槍兵、前へ!」


 騎兵たちが魔物を次々と撃退する。


 こうして町の東側に、何とか防衛線が築かれた。


   


 一方、砦ではフィオナが斥候から届く報告を整理していた。


 右腕はまだ痛むが、地図の上に印をつけるくらいなら問題ない。


 彼女は東街道に置かれた赤い印を見つめていた。


フィオナ「……待てよ」


騎士「どうされました?」


フィオナ「町へ向かってるのは、全部じゃないのか?」


騎士「はい。魔物の主力は、東街道をそのまま南下しているようです」


 フィオナは地図を広げた。


 東街道。


 ハルベルト。


 さらに南。


 そこには、王国軍の補給物資を集める重要な街道拠点があった。


フィオナ「……まずいな」


騎士団長「何が分かった?」


フィオナ「ハルベルトを襲ってるのは一部だけです。残りは、そのまま南へ進んでる!」


騎士団長「……補給路か!」


 砦へ送る食料、武器、魔石。


 それらは南方の補給拠点を経由して運ばれてくる。


 もしそこを失えば、兵士が何人いようと長く戦い続けることはできない。


フィオナ「……あいつら、町を襲うだけじゃない」


騎士団長「だが、補給拠点を狙っていると断定するには……」


フィオナ「分かってます。でも、結果として補給路が危なくなるのは同じでしょう?」


 騎士団長は頷いた。


 報告を受けたアルセリア辺境伯は、すぐに指示を出した。


アルセリア辺境伯「南方の守備隊へ警告を送れ! 補給拠点にも警戒を命じる!」


騎士「承知!」


 フィオナは地図を見つめた。


(……城壁を守るだけじゃ、駄目なのか)


 戦いの規模は、彼女が想像していた以上に大きくなっていた。


   


 ハルベルトでは、住民の大半が町を脱出していた。


 だが、最後尾の荷車が森林道の狭い場所で立ち往生してしまう。


騎兵「後方から魔物です!」


騎兵隊長「数は!?」


騎兵「少なくとも五十! 速い!」


 ルミナは残る魔力を確認した。


 全員を覆う広い障壁を長時間維持する余裕はない。


ルミナ「森林道の入口を塞ぎます。皆様は住民の誘導を続けてください」


騎兵隊長「君一人では危険だ!」


ルミナ「一人で戦うとは申しておりません」


騎兵隊長「……え?」


ルミナ「皆様にも協力していただきます」


 ルミナは周囲の倒木と岩を魔術で動かした。


 道の両側を塞ぎ、魔物が一度に進める幅を狭める。


騎兵隊長「なるほど! これなら!」


ルミナ「フィオナ様から教わった方法です」


 騎兵たちが槍を構える。


 先頭の魔物を倒し、後続を押し返す。


 少しずつ時間を稼ぎながら、住民たちを逃がしていった。


 しかし、その時。


 倒木の上を飛び越えた狼型の魔物が、逃げ遅れた少女へ襲いかかった。


少女「きゃあっ!」


ルミナ「……!」


 ルミナは即座に駆け出した。


 残る魔力を一点に集中させる。


ルミナ「防護障壁!」


 少女の前に、小さな透明の壁が現れた。


 魔物が激突する。


 その隙に騎兵が槍を突き立て、魔物を仕留めた。


騎兵「大丈夫か!?」


少女「う、うん……」


 ルミナは少女の前へ膝をついた。


ルミナ「お怪我はありませんか?」


少女「……大丈夫」


ルミナ「それは、よかったです」


 少女はしばらくルミナを見つめていた。


 そして、小さな手を伸ばす。


少女「……ありがとう、お姉ちゃん」


 ルミナの手を、ぎゅっと握った。


ルミナ「……」


 その温かさを、ルミナは静かに感じ取った。


 彼女はかつて、命令を実行するために作られた存在だった。


 だが、今は違う。


 誰かの命令ではなく、自分の意志でここへ来た。


 そして、目の前の少女を守ることができた。


ルミナ「……どういたしまして」


 ほんのわずかに、ルミナの口元が緩んだ。


    


 やがて、最後の荷車が森林道を抜けた。


騎兵「避難完了!」


騎兵隊長「全員、撤退!」


ルミナ「了解しました」


 騎兵たちは防衛線を下げ、森の奥へ退いた。


 追ってくる魔物を障壁で足止めしながら、住民たちを安全な地域へ送り届ける。


 しばらくして、避難民の最後尾も南西の守備隊がいる拠点へ到着した。


 騎兵隊長はようやく馬を止め、ルミナへ頭を下げた。


騎兵隊長「君が来てくれなければ、間に合わなかった。感謝する」


ルミナ「皆様が協力してくださった結果です」


騎兵隊長「……しかし、君は本当に学生なのか?」


ルミナ「はい。学院生活は非常に充実しております」


騎兵隊長「……そうか」


ルミナ「ただし、現在は授業を欠席しております」


騎兵隊長「……それは大丈夫なのか?」


ルミナ「レオン様への説明が必要です」


騎兵隊長「……何だか、そっちの方が大変そうだな」


ルミナ「その可能性があります」


 騎兵隊長は苦笑した。


 ルミナは少し首を傾げる。


 自分の返答のどこがおかしかったのか、よく分からなかった。


    


 その夜。


 避難民が落ち着き始めた頃、辺境伯からの伝令が到着した。


伝令「ルミナ殿! 至急、こちらをご確認ください!」


ルミナ「何でしょうか」


伝令「東街道を南下していた魔物の主力が、さらに進路を変えました!」


 伝令が地図を広げる。


伝令「向かっているのは、王国軍の補給拠点です!」


 ルミナは静かに地図を見つめた。


 その拠点には、北方防衛線を支える食料、武器、魔石などが集積されている。


 ここを失えば、主要防衛砦だけでなく、周辺の守備隊も長く戦えなくなる。


ルミナ「……補給拠点を失った場合、北方防衛軍の継戦能力が著しく低下します」


伝令「はい! 辺境伯様は各部隊へ警戒を命じられました!」


 ルミナは残存魔力量を確認する。


 まだ回復には時間が必要だった。


 しかし、何もできないわけではない。


ルミナ「……状況を整理します」


 その頃。


 北方主要防衛砦では、フィオナが地図の前に立っていた。


フィオナ「……城壁を守るだけじゃ駄目なのか」


アルセリア辺境伯「そうだ。どれほど強い兵がいても、食料と武器が尽きれば戦えん」


フィオナ「……厄介ですね」


アルセリア辺境伯「まったくだ」


 そこへ、斥候が駆け込んできた。


斥候「閣下! 補給拠点へ向かう魔物の進軍速度が上がっています!」


騎士団長「このままでは間に合わんぞ!」


 フィオナは地図を見つめた。


 東街道を南下する魔物の主力。


 南方の補給拠点。


 そして、限られた王国軍の戦力。


 しばらく考えていたフィオナが、ふと顔を上げた。


フィオナ「……待てよ」


 彼女は地図の端に描かれた細い道を指さした。


フィオナ「閣下。この道、まだ使えるはずです」


アルセリア辺境伯「……古い山道か?」


フィオナ「はい。騎兵なら、街道を大きく迂回せずに南へ抜けられます」


騎士団長「しかし、道幅が狭い。大軍は通れんぞ」


フィオナ「大軍を送る必要はありません」


 フィオナは不敵に笑った。


フィオナ「魔物より先に補給拠点へ着いて、守りを固めればいいんです」


 辺境伯は地図を見つめた。


アルセリア辺境伯「……詳しく聞こう」


 フィオナは頷いた。


フィオナ「今度は、守るだけじゃありません。先回りします」


 砦から町へ。


 町から街道へ。


 そして今、戦いの舞台は王国軍の生命線である補給路へと広がろうとしていた。


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