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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第70章 俺の知らない、俺の居場所

 

 記憶を失って三日目。


 学院生活には慣れてきた。


 ただ。


「……何これ」


 黒板の魔術式が。


 まったく分からない。


「先週やったところだぞ」


「先週の俺を呼んできて」


「無茶言うな」


 すると。


「俺のノート使えよ」


「魔術史ならこっち」


「こっちの方が見やすいよ」


 クラスメイトたちが次々ノートを差し出してくる。


「……みんな、いいの?」


「困ってるんだろ?」


「まあ」


「なら使え」


 何でもないように言われる。


 少し。


 嬉しかった。




 休み時間。


 別クラスから見物人まで来た。


「本当に何も覚えてないの?」


「《剣聖》は?」


「婚約候補も忘れたって――」


「はいはい」


 ジェイドが間へ入る。


「見世物じゃねえぞ」


 マリエッタも。


「レオン、まだ本調子じゃないんだから」


「ジェイド」


「何だ?」


「俺たち、仲良かった?」


「……まあな」


 一瞬だけ。


 寂しそうな顔。


 でもすぐに。


「忘れたなら、もう一回覚えろ」


「雑だな!」


「その方が早い」


 マリエッタも笑う。


「私も忘れないでね」


「うん。もう覚えた」


「ならよし」




 昼休み。


 俺の机に。


 異様に分厚いノートが置かれていた。


 《レオン・アルセリア学院生活完全復元資料》


「……何これ」


「作った」


 リリアーナ。


「一晩で?」


「協力者多数」


 開く。


 《人物識別一覧》


 《授業進行状況》


 《学院施設》


 《行動傾向》


「意外にすごくまともだ」


「失礼」


 次。


 《女性関係》


「……待って」


「何?」


「これ必要?」


「重要」


「重要じゃない!」


「必要ありませんわ!」


 ヴィクトリアまで入ってくる。


 エリシアは。


「……少しだけ内容が気になります」


「エリシア!?」




 さらにページをめくる。


 途中から。


 明らかにいろんな人の字が混ざっていた。


『剣術後は水を飲み忘れない』


『食堂では窓際を好む』


『魔術史の先生の話が長いと眠そうになる』


「……よく見てるね」


「まだある」


 リリアーナがページをめくる。


『購買の焼き菓子は昼前に売り切れる』


「これは俺の情報じゃなくない?」


「重要情報」


「まあ重要だけど」


 次。


『アーヴェルの言うことは半分だけ信じる』


「……」


 俺は顔を上げる。


「アーヴェル」


「待て」


「何?」


「誰だ! 俺の信用を半分にした奴!」


 アーヴェルが教室を見回す。


 教室の奥で数人が目を逸らした。


「複数犯!?」


 さらに。


 クラリッサ。


『剣の相手ならいつでもする!』


 カグラ。


『甘味を勝手に取らない』


 ソフィア。


『怪我をしたら、大丈夫でも保健室へ来ること』


 そして。


『ヴィクトリアを褒めると面白い』


「誰ですの、これを書いたのは!」


「これは覚えておこう」


「忘れなさい!」


 最後には。


 エリシアの字。


『一人で全部思い出そうとしなくて大丈夫です』


「……」


 俺はノートを閉じた。


「ありがとう」


 みんなが。


 少しだけ笑った。


 


 午後の魔術実習でも。


「手順、分からない」


「じゃあ俺が術式を見る」


「私は出力調整」


「レオンは安定化だけ頼む」


「俺、ほとんど役に立たないけど」


 同じ班の男子が笑う。


「一回くらいいいだろ」


 女子生徒も。


「今日は私たちが助ける番」


「……そっか」


 今まで俺は。


 助ける側のつもりだった。


 でも。


 助けてもらってもいいらしい。


 


 放課後。


 廊下で一年生が教材を落としかけた。


「あっ!」


「危ない!」


 考える前に。


 体が動く。


 生徒を支え。


 落ちてきた魔道具を受け止めた。


「大丈夫?」


「は、はい!」


 その瞬間。


 頭の奥で。


 何かが弾けた。


「……っ」


 暴走する馬車。


 金色の髪。


『大丈夫ですか?』


「……ヴィクトリア」


「え?」


 映像は。


 すぐ消えた。


 でも。


 初めて。


 自分から記憶が戻った。


 


 夜。


 自室で。


 リリアーナたちが作ったノートをもう一度開く。


 最後のページ。


『思い出せなくても、明日も一緒に授業だから大丈夫』


「……」


 指で文字をなぞる。


 瞬間。


 頭の奥に。


 次々と映像が流れた。


 クラリッサ。


 カグラ。


 ソフィア。


 リリアーナ。


 ヴィクトリア。


 エリシア。


 アーヴェル。


 そして。


 暗い古代施設。


 まだ名前のなかった。


 銀白色の少女。


『あなたの名前は――』


「……ルミナ」


 口にした瞬間。


 全部が。


 つながった。


「……思い出した」


 


 翌朝。


 コンコン。


「レオン様。起床時刻です」


 俺はすぐに扉を開けた。


「おはよう、ルミナ」


「おはようござい――」


 ルミナが止まる。


「……レオン様?」


「うん」


「今の呼び方は……」


 俺は笑った。


「全部、思い出した」


「……」


 返事がない。


「名前を付けた時のことも」


「……はい」


「一緒に学院へ戻ったことも」


「はい」


「君がここに残るって決めたことも」


「……はい」


 いつもなら。


 すぐ答えるのに。


 今日は少し遅かった。


「ルミナ?」


「確認します」


「うん」


「私の名前は?」


「ルミナ」


「誰が付けましたか?」


「俺」


「昨日、レオン様は私に何を頼みましたか?」


「今日も起こしに来てって」


「……」


 ルミナが俯いた。


 肩が。


 ほんの少しだけ震える。


「ルミナ?」


「申し訳ありません」


「何が?」


「私は……」


 ゆっくり顔を上げる。


 その目には。


 今まで見たことがないくらい。


 はっきりとした安堵があった。


「レオン様が私を思い出してくださったことを」


 一度。


 言葉が止まる。


「とても、嬉しいと思っています」


「……そっか」


「はい」


「俺も嬉しいよ」


 ルミナが。


 少しだけ。


 でも確かに。


 笑った。


 


 教室へ行くと。


「みんな」


 何人かが振り向く。


「記憶、戻った」


「本当に!?」


 一気に囲まれた。


 ヴィクトリア。


「当然、わたくしについても?」


「野営の料理まで全部」


「そこは忘れたままでよろしかったですわ!」


 教室中が笑う。


 リリアーナは。


「復元資料が記憶再接続の契機になった可能性」


「それはあるかも」


「保存決定」


「《女性関係》は消そう」


「却下」


「何で!?」


 横からアーヴェル。


「じゃあ俺について書かれた部分も消せ!」


「却下」


「即答!?」


 俺は笑う。


「まあ、半分だけ信じるよ」


「記憶戻ったんだから、その情報もういらないだろ!」


「いや」


 少し考える。


「思い出した上で、半分くらいがちょうどいい」


「親友だろ!?」


「だから半分」


「意味分かんねえよ!」


 


 記憶は戻った。


 記憶を失っていた三日間も。


 ちゃんと残っている。


 忘れても。


 結局。


 また同じ人たちと仲良くなった。


(ここが)


 俺の居場所なんだろう。


 


 その日の夜。


 誰もいない魔術実習室。


 封印された記憶投影晶。


 何年も。


 問題なく使われてきた魔道具。


 その内部に。


 一瞬だけ。


 黒い光が走った。


 同じ頃。


 学院地下。


 第二管理系統に文字が浮かぶ。


 《記憶領域 再同期完了》


 《記憶投影晶 異常反応原因――該当なし》


 少し間。


 《事故発生時》


 《魔力供給経路 一時欠損》


 《継続時間――〇・七秒》


 さらに。


 《類似現象照合》


 表示が止まる。


 《一致候補――東部観測系統》


 そして。


 すべての文字が。


 静かに消えた。


 誰にも。


 見られないまま。


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