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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第69章 忘れても、また同じ人たちと

 翌朝。


 コンコン。


「レオン様。起床時刻です」


「……ん?」


 目を開ける。


 知らない天井。


 知らない部屋。


 昨日説明された。


 ここは王立セレスティア高等学院の男子寮。


 そして。


「レオン様」


 扉の向こうから。


 昨日知り合ったばかりの少女の声。


「……ルミナ?」


「はい」


 扉を開ける。


 銀白色の長い髪。


 青銀色の瞳。


 学院制服を着たルミナが立っていた。


「おはようございます」


「おはよう」


 少し考える。


「俺、本当に毎朝君に起こしてもらってたの?」


「はい」


「何で?」


「当初は私の自主判断でしたが、現在はレオン様から正式に依頼されています」


「俺、自分で起きられないの?」


「高確率で失敗します」


「記憶なくしてもそこだけ恥ずかしい!」


「事実ですので」


 何だろう。


 初対面のはずなのに。


 このやり取り。


 妙に自然だ。


 


 教室へ入ると。


「レオン!」


 クラリッサが飛んできた。


「今日は私と訓練しよう!」


「え?」


「やっぱり体で思い出すのが一番!」


「言い方!」


「何が!?」


 周囲から笑い声。


 アーヴェルが俺の肩を叩く。


「諦めろ。いつものことだ」


「いつものことなんだ……」


 


 午前の剣術授業。


 クラリッサと向かい合う。


「遠慮しなくていいからね!」


「分かった」


 木剣を構える。


 すると。


 相手の重心。


 踏み込み。


 攻撃の角度。


 自然に分かる。


(……《剣聖》は普通に使えるんだな)


「行くよ!」


 クラリッサが踏み込む。


 大きな一撃。


 俺は横へ流し。


 そのまま木剣を胸元へ止めた。


「一本!」


「うわーっ!」


 クラリッサが悔しそうに笑う。


「そうそう! この腹立つくらい強い感じ!」


「褒められてる?」


「半分!」


 何だその評価。


 


 続いてカグラ。


 静かな構え。


 細身の木剣。


「始める」


「うん」


 剣が交わる。


 不思議だった。


 動きが読みやすい。


 それだけじゃない。


 相手の間合いへ入る時。


 どうしてか。


 妙に安心する。


「……何か戦いやすい」


「そう」


 カグラが小さく笑った。


「前も、そうだった」


 覚えてないけど。


 少し嬉しかった。


 


 休憩中。


 カグラが小さな包みを開いていた。


 丸い菓子。


「甘いもの好きなの?」


「普通」


「今隠したよね?」


「気のせい」


「絶対隠した」


「……」


 カグラが止まる。


「どうしたの?」


「前にも同じことを言われた」


「俺が?」


「うん」


「……」


 少し考える。


 でも。


 思い出せない。


「ごめん」


「謝らなくていい」


 カグラは菓子を一つ差し出した。


「食べる?」


「いいの?」


「一個だけ」


 何となく。


 その言い方も。


 前に聞いた気がした。




 昼休み。


 ソフィアに保健実習室へ案内された。


「以前、ここでレオンさんの怪我を治療したことがあります」


「俺、そんなに怪我する?」


「……少しだけ」


「その間が怖い」


 ソフィアが困ったように笑う。


「レオンさんは、すぐ大丈夫と言います」


「大丈夫ならいいんじゃない?」


「ほら!」


「何が!?」


 ソフィアが思わず笑った。


「前と同じです」


 そう言って。


 少し安心した顔になる。


 淡い桃色の髪を耳へかけ、白い実習用上着の袖を整える。


 薬草袋を腰へ下げた姿は、どこか小さな治療師のようだった。


「……何ですか?」


「いや、似合ってるなって」


「……っ!」


 ソフィアが赤くなる。


「そ、そういうところも同じです……」


「え?」


「何でもありません!」


 


 午後。


 ヴィクトリアと話す機会があった。


「わたくしとの思い出ですか?」


「うん。何か印象的なことある?」


「当然ありますわ」


 胸を張る。


 そこへ。


 カグラが来た。


「塩」


「カグラ!」


 クラリッサ。


「鍋!」


「あなたも!」


 何だ。


 その単語だけの会話。


「料理で失敗でもしたの?」


「……」


 ヴィクトリアが固まる。


「意外だな。ヴィクトリアって料理上手そうなのに」


「…………」


 周囲。


 全員。


 笑いを堪えている。


「……何?」


 ヴィクトリアが真っ赤になった。


「その話は忘れなさい!」


「今の俺、それ得意だよ?」


「そういう意味ではありませんわ!」




 リリアーナは。


 当然。


 研究室へ行こうと言い出した。


「記憶回復実験」


「嫌な予感しかしない」


「安全」


「信用できない」


「なぜ」


 そこへセレフィア先生。


「却下です」


「まだ説明していない」


「あなたの場合は先に止めます」


「不合理」


「安全第一です」


 先生。


 判断が早い。


 


 結局。


 以前使ったという魔術資料だけ見せてもらった。


 机の上。


 何冊もの本。


「ここ」


 リリアーナが開いたページ。


 余白に書き込みがある。


「これ、俺の字だ」


「そう」


 魔力循環に関する簡単な計算。


 その横に。


『説明が難しすぎる。初心者向けに書いてほしい』


 と書いてあった。


「……俺、こんなこと書いたんだ」


「正しい指摘だった」


「リリアーナが認めるんだ」


「少しだけ」


「少しだけか」


 笑おうとした。


 でも。


 何だか笑えなかった。




 俺は。


 確かにここにいた。


 この本を読んだ。


 誰かと話した。


 笑った。


 怒ったかもしれない。


 なのに。


 その全部を覚えていない。


(……変な感じだな)


 自分の人生なのに。


 知らない誰かの記録を読んでいるみたいだった。




「レオンさん」


 研究室を出ると。


 エリシアが待っていた。


「少しお茶でもいかがですか?」


「記憶を戻す練習?」


「いいえ」


 優しく笑う。


「普通のお茶です」


 


 中庭。


 午後の日差し。


 エリシアは制服の上に薄いクリーム色のカーディガンを羽織っていた。


 長い栗色の髪を肩の片側へ流し、カップを持つ指先まで綺麗に見える。


「……エリシアって、落ち着くね」


「そうですか?」


「うん」


 彼女が少し嬉しそうにする。


「よかったです」


「思い出させなくていいの?」


「もちろん、思い出してほしいですよ」


「うん」


「でも」


 エリシアはカップを置いた。


「無理に思い出そうとすると、疲れてしまうでしょう?」


「……」


「だから」


 まっすぐ俺を見る。


「思い出せないなら、また今日から仲良くなればいいんです」


 何となく。


 胸の奥が軽くなった。


「……俺と仲良くしたいの?」


「はい」


 即答。


「レオンさんは?」


「……うん」


 少し照れくさい。


「俺も」


 エリシアが笑った。


「では、決まりですね」


 不思議だった。


 何も覚えていないのに。


 やっぱり。


 この人の隣は落ち着いた。


 


 放課後。


「レオン」


 アーヴェルが来た。


「飯行くぞ」


「記憶を戻すんじゃないの?」


「腹減った」


「それだけ?」


「それだけ」


 普通に歩き出す。


「……本当に親友だったの?」


「疑うなよ!」




 食堂。


 剣の話。


 授業の話。


 クラリッサがどれだけうるさいか。


「本人に聞かれたら怒られるよ」


「いつものことだ」


「ひどい親友だな」


「お前も前は普通に言ってたぞ」


「俺もひどいな!」


 二人で笑う。


 気づけば。


 さっきまでの重い気分が消えていた。


 


「なあ、レオン」


「何?」


「別にさ」


 アーヴェルがパンを取る。


「思い出さなくても、また友達になればいいだろ」


「……」


「俺はお前と話してて普通に楽しいし」


「そっか」


「お前は?」


 少し考える。


「……悔しいけど……俺も楽しい」


「何で悔しいんだよ!」


 アーヴェルが笑った。


「なら問題ないな」




 夜。


 女子寮へ帰るルミナと途中まで歩いた。


「ルミナ」


「はい」


「俺が名前を付けた時のこと、聞いてもいい?」


「もちろんです」


「君、嬉しかった?」


 ルミナが少し考える。


「当時は、その感情を正確には理解していませんでした」


「今は?」


 少し間。


「嬉しかったのだと思います」


「……そっか」


 夜の道を歩く。


「ごめんな」


「謝罪は不要です」


「でも、俺は忘れちゃったから」


 ルミナが立ち止まった。


「レオン様」


「何?」


「私は覚えています」


「……」


「ですから、今はそれで十分です」


 静かな声だった。


 でも。


 なぜだろう。


 俺の方が少し。


 苦しくなった。


 


 翌朝。


 コンコン。


「レオン様。起床時刻です」


「……ルミナ?」


「はい」


 扉を開ける。


 昨日と同じ。


 銀白色の少女。


「おはようございます」


「おはよう」


 俺は少し考えた。


「ねえ」


「はい」


「毎朝起こしに来るのって、面倒じゃない?」


「いいえ」


「何で?」


 ルミナが。


 少しだけ首を傾げる。


「私がそうしたかったからです」


「……そっか」


 俺は笑った。


「じゃあ」


「はい」


「明日もお願い」


 ルミナの目が。


 ほんの少し。


 大きくなる。


「……承知しました」


 そして。


 いつもより少しだけ。


 嬉しそうに見えた。


 


 教室へ向かう途中。


 俺は考えていた。


 まだ。


 みんなとの出来事は思い出せない。


 でも。


 クラリッサと剣を合わせるのは楽しい。


 カグラとは何となく気が合う。


 ソフィアが笑うと安心する。


 ヴィクトリアは反応が面白い。


 リリアーナは……。


 やっぱりよく分からない。


 エリシアの隣は落ち着く。


 アーヴェルとは。


 もう普通に言い合っている。


 そして。


 ルミナには。


 明日も起こしに来てほしいと思った。


(俺、本当にこいつらと仲良かったんだろうな)


 記憶は。


 まだ戻らない。


 それでも。


 俺は少し笑った。


(まあ)


(忘れたなら)


(もう一回、仲良くなればいいか)


 そう思いながら。


 今日も教室の扉を開けた。


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