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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第68章 俺は、君たちを知らない


 アーヴェルが学院へ戻ってきて。


 数日。


「今日は記憶投影晶を使用します」


 魔術実習室で。


 セレフィア先生が透明な水晶を机へ置いた。


「記憶投影晶?」


 クラリッサが首を傾げる。


「魔力に残った過去の像を、短時間だけ映像として再現する魔道具です」


「面白そう!」


 その瞬間。


 俺の隣から。


「触りたい」


 リリアーナ。


「今日は授業だから触っていいよ」


「……合法?」


「普段何してるの?」


    


 危険な古代遺物ではない。


 学院で何年も使われている。


 先生のお墨付き。


 だから。


 俺も何も警戒していなかった。


「次、レオンさん」


「はい」


 水晶へ手を置く。


「ごく少量の魔力を流してください」


「これくらい?」


 魔力を流した。


 瞬間。


 水晶の奥で。


 黒い線が走った。


「……え?」


 光。


 強い。


「レオン!」


「レオンさん!」


 誰かの声。


 でも。


 そこで。


 全部。


 消えた。


     


「……ん」


 目を開ける。


 白い天井。


「気がついた?」


 女性の声。


 顔を向ける。


 蜂蜜色の髪。


 眠そうな琥珀色の瞳。


 白い診療衣。


 細い腰まで伸びた髪を片側へ流し、椅子へ脚を組んで座っている。


「ミレイユ先生……」


「私のことは分かるのね」


「そりゃ……」


 そこまで言って。


 気づく。


 部屋に。


 人が多い。


    


 栗色の長い髪の女の子。


 金髪の縦巻きの女の子。


 赤髪。


 黒髪。


 桃色の髪。


 紫髪。


 男が一人。


 そして。


 銀白色の長い髪を持つ。


 見たことのない少女。


「……」


 全員。


 俺を見ている。


「えっと」


 俺は聞いた。


「誰?」


 静かになった。


     


「……レオン?」


 赤髪の女の子。


「冗談?」


「ごめん」


 俺は辺りを見る。


「本当に分からない」


「レオン様」


 銀白色の少女が一歩出る。


「私が分かりませんか?」


「……ごめん」


 彼女の青銀色の瞳を見る。


「君、誰?」


「……」


 ほんの一瞬。


 彼女が止まった。


    


 検査の結果。


 分かったこと。


 俺は自分を覚えている。


 レオン・アルセリア。


 十八歳。


 アルセリア辺境伯家の三男。


 父。


 母。


 兄二人。


 前世の記憶もある。


 《剣聖》のことも。


 そして。


「俺、今日から王立セレスティア高等学院に入学する予定だったよね?」


 全員。


 黙った。


 ミレイユ先生がため息。


「そこなのよね」


「?」


 セレフィア先生が静かに言った。


「レオンさん」


「はい」


「あなたが学院へ入学してから」


 少し間。


「すでに、かなりの日数が経っています」


「……はい?」


    


 入学式。


 剣術試験。


 魔術試験。


 実習。


 古代迷宮。


 武闘祭。


 北部遺跡。


 合同実習。


 全部。


 記憶がない。


 そして。


 目の前にいる人たちとの出来事も。


     


「俺はアーヴェル」


 男が腕を組む。


「親友」


「自分で親友って言う?」


「今説明しないと分かんねえだろ!」


「確かに」


 何となく。


 話しやすい。


     


「私はクラリッサ!」


 赤髪の女の子が胸を張る。


「何度も一緒に戦った!」


「強そう」


「分かる!?」


「声が」


「声!?」


     


「ヴィクトリア・アーデルハイト・フォン・グランベルクですわ」


「……長い」


「最初の感想がそれですの!?」


「ごめん」


「以前も似たような反応をされましたわ!」


「俺、成長してない?」


「そこだけは!」


    


「カグラ・ミカヅキ」


 黒髪の少女。


「よろしく」


「短くて助かる」


「そう」


 何となく。


 この人は話が早そう。


「ソフィア・レイネルです」


 桃色の髪の少女が。


 少し不安そうに笑う。


「何度か、怪我の治療をしました」


「俺そんなに怪我した?」


「……少しだけ」


「その間が怖い」


     


「リリアーナ・エルメスティア」


 紫髪の少女。


「質問」


「もう?」


「記憶消失状態で《剣聖》の認識処理に変化は――」


「今は駄目です」


 セレフィア先生。


「残念」


「この子、いつもこうなの?」



 最後。


 栗色の長い髪の少女。


「エリシア・ローゼンベルクです」


 柔らかく笑う。


「よろしくお願いします、レオンさん」


「……」


「どうしました?」


「いや」


 俺は。


 なぜか少しだけ。


 変な感じがした。


「初対面の気が、あんまりしない」


 エリシアが目を見開く。


「……本当ですか?」


「うん。でも思い出したわけじゃない」


「それでも」


 少し嬉しそうに笑った。


「十分です」


     


 そして。


 銀白色の少女。


「私はルミナです」


「ルミナ」


「はい」


「変わった名前だね」


「レオン様が付けました」


「俺が!?」


「はい」


 彼女は。


 自分が古代の魔導人形であること。


 遺跡で目覚めたこと。


 俺が名前を付けたこと。


 今は学院の学生で。


 女子寮に自分の部屋があることまで。


 淡々と説明した。


「……すごいな」


「はい」


「ごめん」


「?」


「覚えてなくて」


 少し間。


「事実として理解しています」


 それだけだった。


     


 さらに。


 説明は続いた。


「ヴィクトリアと婚約候補?」


「候補ですわ!」


「エリシアも?」


「……一応」


「俺」


 頭を抱える。


「学院で何してたの?」


 アーヴェル。


「俺たちもたまにそう思う」


     


 その日は。


 念のため授業を休むことになった。


 夕方。


 みんなが帰ったあと。


 ルミナだけ。


 保健室に残っていた。


「ルミナ」


「はい」


「俺、君のこと本当に覚えてないんだ」


「理解しています」


「名前を付けた時のことも」


「はい」


「それでも」


 少し迷う。


「ルミナって名前」


「はい」


「似合ってると思う」


 ルミナが。


 初めて。


 少しだけ目を見開いた。


「……ありがとうございます」


    


 その夜。


 学院地下。


 誰もいない第二管理系統。


 青い文字が。


 一瞬だけ浮かんだ。


 《魂魄定着状態 一時変動》


 《記憶領域との同期再確立中》


 続いて。


 《対象――外部由来》


 数秒後。


 表示は。


 何事もなかったように消えた。


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