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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第67章 空いた席と、戻ってくるという約束


 翌日。


 学院からクロイツ家へ送った提案に。


 返事が届いた。


「……一度、帰ってこいって」


 昼休み。


 アーヴェルが手紙を見ながら言う。


「いつ?」


「明日」


「早いな」


「親父の状態と、家の仕事を実際に見てから話したいらしい」


 期間は。


 十日ほど。


 まだ退学が決まったわけじゃない。


 でも。


 そのまま戻れなくなる可能性も。


 なくはなかった。


     


「俺も行こうか?」


 思わず言った。


 アーヴェルがこっちを見る。


「何で?」


「話し合いとか」


「レオン」


「うん」


「これは俺の家の話だ」


「……」


「前にお前が聞いただろ」


『本当はどうしたい?』


 あの時の言葉。


「だから今度は」


 アーヴェルが笑う。


「俺が自分で話してくる」


「……そっか」


 なら。


 俺が横から全部どうにかするのは。


 違うか。


「分かった」


「珍しく素直だな」


「じゃあやっぱり行く」


「来るな!」


     


 翌朝。


 学院正門。


 アーヴェルの荷物は。


 思ったより少なかった。


「十日だからな」


 クラリッサが腕を組む。


「十日だからね!」


「分かってる」


「一か月とかになったら迎えに行くから!」


「お前は俺の親か」


 ヴィクトリアも。


「退学届へ勝手に署名などしてはいけませんわよ」


「分かってるって」


「本当に?」


「何で信用ないんだよ」


     


 ソフィアは。


 小さな包みを差し出した。


 今日は淡い桃色の髪を低い位置でまとめ。


 白い薬草実習用上着の下に学院制服。


 細い指で包みを大事そうに持っている。


「お父様へ」


「これ?」


「体調を整える薬草茶です」


「ありがとう。渡すよ」


 ソフィアが少し笑う。


「無理はさせないでくださいね」


「俺が言われてる気分だな」


     


 カグラ。


「帰ってきたら」


「うん?」


「一戦」


「レオンじゃなくて俺?」


「両方」


「欲張りだな」


 リリアーナ。


「十日間、模擬戦記録が欠損する」


「まだそれ言ってるの?」


「継続観察に支障」


「俺の家より記録を心配するな」


 そして。


 ルミナ。


「帰還予定日は十日後です」


「予定な」


「十一日目以降は遅延として記録します」


「怖いな!?」


     


「じゃ」


 アーヴェルが馬車へ乗る。


 俺を見る。


「行ってくる」


「うん」


 少し迷って。


「戻ってこいよ」


 アーヴェルが笑った。


「そのつもりだ」


 馬車が動き出した。


    


 次の日。


 教室。


「アーヴェル、今日の――」


 言いかけた。


 隣。


 空席。


「あ」


 いないんだった。


 別に。


 たった一日なのに。


 妙な感じがした。


     


 昼食。


 クラリッサが俺を見る。


「静かだね」


「そう?」


「レオンとアーヴェル、いつも何か言い合ってるし」


「そうかな」


 ヴィクトリア。


「かなりですわ」


 エリシアも笑う。


「食事中でもよく話していますね」


 俺は空いている椅子を見る。


「……アーヴェルって便利だったんだな」


「友人を便利と言わないでくださいまし!」


 ルミナ。


「機能面での評価ですね」


「ルミナも乗らないで!」


     


 三日目。


 手紙が来た。


『親父は思ったより元気』


 よかった。


『でも仕事はまだ無理』


 まあ。


 そこは仕方ない。


『話し合いは難航中』


 そして最後。


『あと、お前がいないと剣の相手が弱い』


「……最後余計だろ」


 でも。


 ちょっと笑った。


     


 五日目。


 二通目。


 短かった。


『家に残ってほしいと言われた』


『俺も家を放っておく気はない』


『もう少し考える』


「……」


 今度は。


 笑えなかった。


     


 その夜。


 女子寮から戻るルミナと。


 途中まで一緒に歩く。


「レオン様」


「何?」


「アーヴェル様に帰還してほしいですか?」


「そりゃ――」


 言いかける。


 少し考える。


「帰ってきてほしい」


「はい」


「でも」


 夜の学院を見ながら。


「家族を放って戻ってこいとは言いたくない」


「矛盾しています」


「そうなんだよ」


 俺は笑った。


「人間って、結構そういうもんじゃない?」


 ルミナが考える。


「記録します」


「何の記録?」


「人間理解」


「大げさだな」


     


 十日目。


 朝。


 空席。


 一限。


 空席。


 昼。


 まだ。


 クラリッサも少し不安そうだった。


「遅れてるだけだよね?」


「たぶん」


 夕方。


 結局。


 アーヴェルは来なかった。


「帰還予定日を超過しました」


 ルミナ。


「……分かってる」


   


 翌朝。


 教室。


 やっぱり。


 席は空いている。


「……」


 ため息をついて。


 自分の席へ座ろうとした。


「何暗い顔してんだ?」


 止まった。


 振り向く。


「……アーヴェル?」


 大きな荷物。


 少し疲れた顔。


 でも。


 いつもの笑い方。


「遅い」


「一日だろ?」


「ルミナ基準では遅延」


「はい」


 後ろからルミナ。


「一日遅延です」


「そこ連携するな!」


    


「で!?」


 クラリッサが飛んでくる。


「どうなった!?」


「学院は続ける」


 一瞬。


 静かになって。


「よし!」


 クラリッサが拳を上げた。


 ソフィアも安心した顔。


 エリシアが笑う。


 ヴィクトリア。


「家の方は?」


「親父はしばらく療養」


 アーヴェルが答える。


「仕事は親族と家臣で分担することになった」


「あなたは?」


「長期休暇と休日には帰る」


「大変ですわね」


「だろうな」


   


 俺は聞く。


「どっちかに絞らなくて大丈夫?」


「分かんない」


 アーヴェルは肩をすくめる。


「でも」


 少し笑った。


「どっちも捨てたくなかったから」


「……そっか」


「家も」


「うん」


「学院も」


「うん」


「あと、お前に勝つまで辞められない」


「それはいらない」


「重要だ!」


    


 放課後。


 訓練場。


 アーヴェルが木剣を投げてくる。


「一本やろうぜ」


「帰ってきたばっかりじゃん」


「十日分ある」


「何が?」


「負けてない日数」


「その数え方おかしいよ」


「細かい!」


 クラリッサ。


「私も混ぜて!」


 カグラ。


「私も」


 リリアーナ。


「記録再開」


「本当に続けてたの!?」


     


 いつもの声。


 いつもの訓練場。


 いつもの面倒な友達。


(やっぱり)


 こいつがいる方が。


 うるさい。


 でも。


(こっちの方がいいな)


「レオン!」


「何?」


「ぼーっとするな!」


 木剣が飛んでくる。


「危なっ!」


 どうやら。


 友情の余韻に浸る時間は。


 あまりないらしい。


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