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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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65/114

第65章 ルミナは、誰のもの?

 数日後。


 コンコン。


「レオン様。起床時刻です」


「……今日は普通に扉から?」


「はい」


 目を開ける。


 最近。


 ようやくルミナが転移ではなく、女子寮から歩いて起こしに来るようになった。


「成長した……」


「失礼です」


「褒めたんだけど」


「褒め方に問題があります」


 いつも通り。


 平和な朝だった。


 ――この時までは。



 一限前。


 学院正門。


 見慣れない黒い馬車が三台。


 降りてきたのは騎士ではなかった。


 濃紺の長衣。


 胸には王国紋章と、古い魔晶石を模した徽章。


「何あれ?」


 クラリッサが窓から覗く。


 ヴィクトリアが眉を寄せた。


「王国魔導遺産管理局ですわね」


「偉い人?」


「面倒な方々ですわ」


「言い方」


 その直後。


「レオン・アルセリア。ルミナ。学院長室へ」


 教師に呼ばれた。


「……俺たち?」


「はい」


 嫌な予感しかしない。


     


 学院長室。


 レティシア学院長。


 セレフィア先生。


 そして管理局の役人が三人。


 机の上には。


 正式な王国文書。


「結論から申し上げます」


 中央の男性役人が言った。


「古代魔導人形ルミナを、王都の管理施設へ移送します」


「……はい?」


 一瞬。


 意味が分からなかった。


「誰を?」


「ルミナです」


 横を見る。


 ルミナは静かだった。



「理由は?」


「古代魔導遺産保全法に基づく措置です」


 役人が書類を開く。


「約二千七百年前に製造されたと推定される古代魔導人形」


「はい」


「未解明の転移能力。極めて高い戦闘能力。古代管理施設への接続能力」


「……」


「国家的重要性を考えれば、学院の一学生として自由に置いておくことはできません」


 言っていること自体は。


 分からなくもない。


 でも。


 書類の一行。


 そこだけ。


 目に入った。


 《発掘古代魔導資産》


「……資産?」


「法令上の分類です」


「物ってこと?」


 役人が黙る。


「そういう意味ですよね?」



「レオン様」


 ルミナが俺を見る。


「私は問題ありません」


「俺にはある」


 即答した。


「ルミナは物じゃない」


「感情的な問題ではありません」


 役人。


「いや」


 俺はルミナを見る。


「話すし」


「はい」


「考えるし」


「はい」


「自分で決めるし」


「はい」


「毎朝、頼んでもないのに俺を起こしに来るし」


「現在は正式に依頼されています」


「今そこ訂正しなくていい!」


 セレフィア先生が。


 少しだけ笑った。




「王立セレスティア高等学院は」


 レティシア学院長が口を開く。


「ルミナを仮入学生として正式に受け入れています」


「学院長権限を超える問題です」


「承知しています」


「では――」


「だから異議を申し立てます」


 空気が変わった。


「本人の意思を確認せず、資産として移送することを、私は認めません」


「王国機関と争うおつもりですか?」


「必要なら」


 学院長。


 強い。



 その日の夕方。


 移送は一時停止。


 三日後。


 学院内で緊急審査が行われることになった。


 だが。


 問題は。


 その夜だった。



 女子寮。


 ルミナの部屋。


 俺は当然、中には入れない。


 だから廊下前の談話室で待っていた。


 しばらくして。


 薄い水色のカーディガン姿のルミナが出てくる。


 銀白色の長い髪を下ろし。


 細い腰までまっすぐ流している。


 いつもの制服姿より。


 少しだけ普通の女の子に見えた。


「レオン様」


「うん」


「私は王都へ移送された方が合理的ではないでしょうか」


「……何で?」


「私一体のために、学院と王国機関が対立しています」


「だから?」


「私が従えば終了します」


 昔のルミナなら。


 本当に。


 それで終わっていた気がする。



「ルミナ」


「はい」


「合理的かどうかじゃなくて」


 俺は聞いた。


「ルミナはどうしたい?」


「……」


「残りたい?」


「……」


「行きたい?」


 長い沈黙。


 そして。


「私は」


 ルミナが。


 少しだけ視線を下げた。


「学院に残りたいです」


 初めて。


 はっきり言った。



「授業があります」


「うん」


「クラリッサ様からいただいた熊があります」


「熊なんだ、あれ」


「熊です」


「うん」


「カグラ様の菓子も残っています」


「まだ食べてないの?」


「保存しています」


「食べようよ」


「ソフィア様の植物へ、明朝も水を与える必要があります」


「うん」


 少し間。


「それから」


「何?」


「レオン様を起こす必要があります」


「最後だけいらないんだけど」


「必要です」


「そこは譲らないんだ……」




 同じ頃。


 王都。


 特別調査局。


「シオン様」


 一人の職員が書類を机へ置いた。


「魔導遺産管理局から照会です」


 窓際にいた男が。


 静かに振り返る。


 肩まで伸びた銀髪。


 灰青色の瞳。


 黒い外套。


 シオン・アルトゥス。


「ルミナの件か」


「はい」


 職員が頷く。


「管理局は王都移送を求めています。ただ、学院側が異議を申し立てたため、古代管理施設を調査しているこちらにも意見を求めたいと」


「そうか」


 シオンは書類へ目を落とした。



「国家管理下へ置いた方が安全だという意見もあります」


「安全かどうかは、置く場所だけでは決まらない」


 淡々とした声。


「では、現状維持を推奨する?」


「ああそれで構わない」


「理由は?」


 シオンは。


 少しだけ間を置いた。


「古代管理施設との関連性が未解明なまま、現在の活動環境から切り離す利点が少ない」


「調査上の理由ですね」


「それもある」


「それも?」


 職員が聞く。


 シオンは書類へ署名した。


「本人が残りたいなら、それで十分だ」


「……魔導人形ですよ?」


 シオンの表情は変わらない。


「だから?」


 短い言葉。


 職員は。


 それ以上聞かなかった。


     


 三日後。


 緊急審査。


 なぜか。


 俺だけじゃなかった。


 ヴィクトリア。


 エリシア。


 クラリッサ。


 カグラ。


 ソフィア。


 リリアーナ。


 全員いる。


「何でみんな?」


 クラリッサ。


「友達だから!」


 カグラ。


「それで十分」


 短い。


 でも。


 なんか強い。



 役人が問う。


「魔導人形に人格があるという、明確な証明は?」


 その瞬間。


「質問」


 リリアーナ。


「どうぞ」


「人格がないという証明は?」


「……」


「未知の古代魔導技術を、既存分類へ無理に押し込むのは」


 少し間。


「研究として雑」


 俺は驚いた。


(リリアーナがすごくまともなこと言ってる……)


「それに」


「?」


 リリアーナがルミナを見る。


「所有物なら、私が部屋に置こうとした研究書を三回も拒否しない」


「そこを人格の証拠に使うの!?」


 ルミナが静かに訂正する。


「正確には四回です」


「増えてる?」


「昨日も試みられました」


「リリアーナ、まだ諦めてなかったの!?」


「空いている棚がある」


「だからって勝手に研究書を増やさないで……」


 管理局の役人まで。


 少しだけ困った顔をしていた。



 エリシアも続く。


「本人が希望を述べられるのに、その希望を無視して所有物と定義するのですか?」


 ソフィア。


「ルミナさんは、困っている人を助けます」


 クラリッサ。


「難しい法律は分かんないけど」


 役人を見る。


「ルミナが『ここにいたい』って言ってるんだから、それでよくない?」


 そして。


 カグラ。


「所有物は」


 一言。


「帰る場所を選ばない」


 静かになった。



「学院側の主張は理解しました」


 管理局の役人が言った。


「ですが、法令上の分類は感情や証言だけで変更できるものではありません」


 やっぱり。


 そう簡単にはいかない。


 その時。


 扉が叩かれた。


「学院長。王都から追加書類です」


「誰からです?」


「特別調査局です」


 俺は。


 少しだけ反応した。



 学院長が封を開く。


「古代管理施設との関連性が未解明である現状において、対象を現在の活動環境から切り離すことは、調査上の不利益が大きい」


 役人たちが黙って聞く。


「よって」


 学院長が続ける。


「本人の意思を尊重し、現状の生活環境を維持することを推奨する」


「……」


「提出責任者」


 学院長が最後を見る。


「シオン・アルトゥス」


「シオンさん?」


 思わず口に出た。


 あの人が。


 何で?



「古代施設に関する特別調査局からの正式意見となれば」


 管理局側の役人が書類を見る。


「無視はできません」


「レオン様」


 ルミナが俺を見る。


「シオン・アルトゥスによる介入理由は不明です」


「俺にも分からない」


 というか。


 あの人。 何を考えているのか分からない。


「まあ」


 俺は小さく息を吐く。


「今回は助かったけど」



 最後。


 役人が俺を見る。


「第一管理者であるあなたの所有物と解釈すれば、学院残留を認める余地もあります」


「嫌です」


「……なぜ?」


「ルミナは俺の物じゃないから」


 ルミナを見る。


「本人が決めることです」


「レオン様……」


「だから」


 俺は聞いた。


「自分で言って」


 ルミナが。


 役人たちを見る。


「私は」


 そして。


「この学院に残ることを希望します」



 審査の結果。


 ルミナ自身の明確な意思表示。


 学院側の証言。


 そして。


 特別調査局からの現状維持勧告。


 それらを踏まえ。


 王国側も。


 ルミナを既存の《魔導資産》として扱うことには問題があると認めた。


 当面。


 新しい暫定分類。


 《自律意思保有古代魔導体》


 として。


 人格を持つ存在として扱う。


「つまり?」


 クラリッサ。


 ヴィクトリアが答える。


「ひとまず、今まで通り学院生でいられるということですわ」


「良かった!!」


 リリアーナ。


「研究書の持ち込みは?」


「それも駄目です」


「なぜ」


「まだ諦めてませんの!?」



 その夜。


 女子寮。


 ルミナの部屋。


 新しいカーテン。


 クッション。


 木彫りの熊。


 菓子箱。


 小さな鉢植え。


 卓上飾り。


 ルミナは。


 静かに扉を閉めた。


「……」


 少し前まで。


 ここは。


 ただ与えられた場所だった。


 でも今は。


 自分で。


 ここに残りたいと選んだ。


 ルミナは部屋を見回す。


 そして。


 誰もいない部屋へ。


 小さく。


「ただいま」


 そう言った。


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