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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第64章 両家集合と、逃げ場のないお茶会


 週末の朝。


 コンコン。


「レオン様」


「……」


「起床時刻です」


「……今日は何時?」


「通常より三十分早いです」


「何で?」


 扉の向こうから。


 ルミナが淡々と答える。


「エレノア様が学院正門へ到着されました」


「もう!?」


 俺は飛び起きた。


「なお」


「まだあるの?」


「グランベルク公爵家の馬車も確認しました」


「早い!」


「ローゼンベルク伯爵家も到着しています」


「全員同時!?」


「はい」


 朝から。


 逃げ場が完全になくなった。


     


 学院の貴賓用サロン。


 父。


 母エレノア。


 グランベルク公爵。


 ヴィクトリア。


 ローゼンベルク伯爵。


 エリシア。


 レティシア学院長。


 そして。


 俺。


(帰りたい)


 今なら黒い魔晶石の研究室の方が落ち着ける気がする。


     


「レオン」


「母さん」


 エレノアが俺を見る。


 淡い藤色のドレス。


 柔らかな布地が細い腰の線を上品に整え、長い髪も今日はゆるくまとめている。


「少し顔つきが大人になったわね」


「そう?」


「ええ。学院生活が楽しいのでしょう?」


「まあ……うん」


 よかった。


 普通の親子の会話だ。


 そう思った直後。


 母が。


 ヴィクトリア。


 エリシア。


 順番に見る。


「それで」


「……」


「どちらがレオンのお嫁さんになるのかしら?」


「母さん!」


 開始一分。


 終了。



 ヴィクトリアが真っ赤になり黙り込む。


 エリシアは笑顔のまま。


「私は、まだそういう段階ではありません」


「まだ?」


 母が聞き返す。


 エリシアも笑顔のまま真っ赤になり黙り込んでしまった。


「母さん、掘らないで!」


 父が静かに口を開いた。


「エレノア」


「分かっていますよ。今日は話し合いでしょう?」


「分かってるなら静かにして!」


     


 まず。


 グランベルク公爵が姿勢を正した。


「レオン殿」


「はい」


「今回の件については、私が少々先走った」


 隣のヴィクトリア。


「少々?」


「……かなり先走った」


「そうですわね」


 公爵がちょっと小さくなった。


 娘には弱いらしい。


「武闘祭での優勝。高い魔力制御。学院内外での評判」


「はい」


「今後、他家が君に関心を持つことは避けられない」


「もう何件か来てます」


「聞いている」


「情報早いな……」


 公爵はヴィクトリアを見る。


「だからこそ、娘がもし望むなら、可能性だけは早めに確保しておきたいと考えた」


「でしたら」


 ヴィクトリアが即答。


「先にわたくしへ聞いてくださいませ」


「……その点は悪かった」


 ちゃんと謝った。


     


 次は。


 ローゼンベルク伯爵。


「公爵家が動いたと知れば、父親として無関心でもいられない」


 そして。


 隣の娘を見る。


「エリシア」


「はい」


「お前自身はどう思っている?」


「……」


 エリシアが止まった。


 珍しい。


     


「レオンさんは」


 少し考え。


「とても大切なお友達です」


 完璧。


 無難。


 さすがエリシア。


 だが。


「お友達?」


 母が首を傾げる。


「はい」


「本当に?」


「母さん!」


「気になっただけよ?」


 エリシアの頬がまたしても、じわっと赤くなった。


「将来のことまでは、まだ分かりません」


「うん」


「でも」


 一度。


 俺を見る。


「もし、他の誰かに決まってしまったら」


 声が少しだけ小さくなる。


「……たぶん、寂しいと思います」


「……」


 俺も黙る。


 エリシア本人も言ってから恥ずかしくなったらしい。


     

「ではヴィクトリア」


 グランベルク公爵が言う。


「お前は?」


「……分かっていますわ」


 ヴィクトリアが俺を見る。


「わたくしは」


 少し間。


「嫌ではありません」


「昨日も聞いた」


「今は黙ってなさい!」


「はい……」


 怒られた。


「ですが」


 ヴィクトリアは姿勢を正す。


「家に決めてもらうつもりもありませんわ」


 声はまっすぐだった。


「もし将来、レオンを選ぶのであれば」


 青い瞳が俺を見る。


「わたくし自身の意思で選びます」


 やっぱり。


 ヴィクトリアらしい。


    


 そして。


 ついに。


 一番嫌な番。


 父が俺を見る。


「レオン」


「……はい」


「お前はどうしたい?」


 全員が俺を見る。


(この状況で即答できる十八歳いる?)


 前世込みならもっと歳いってるけど、それはそれ。


    

「……今、決めないと駄目?」


「いや」


 父。


 即答。


「なら」


 少し考える。


「今は決めない」


 ヴィクトリアも。


 エリシアも。


 黙って聞いている。


「二人とも大事だし」


 言ってから。


 ちょっと恥ずかしい。


「まだ学院生活も始まったばかりだし」


 俺は二人を見る。


「もっと二人のことを知ってから」


 逃げるためじゃなく。


 ちゃんと。


 自分で言った。


「いつか、自分で決めたい」


     


 父が頷く。


「それでいい」


 ローゼンベルク伯爵も。


「私も異論はない」


 グランベルク公爵も。


「娘本人が望むなら、それで構わない」


「当然ですわ」


 ヴィクトリア。


 エリシアも。


「私も、それがいいと思います」


 ということで。


 結論。


 婚約。


 保留。


(助かった……)


     


 サロンを出た。


 その瞬間。


「どうなった!?」


 クラリッサ。


 いた。


「何でいるの?」


「気になったから!」


 カグラ。


「結果確認」


「君も?」


 ソフィア。


「た、たまたま通りかかって……」


 アーヴェル。


「一時間前から?」


「……」


 ソフィアが黙った。


 そして。


 ルミナ。


「婚約成立の有無を確認するため待機していました」


「正直すぎる!」


 さらに。


 その後ろから。


 小さな紫色の頭が出てきた。


「私もいる」


「リリアーナ!?」


「婚約制度に関する実地観察」


「何で研究対象になってるの!?」


「複数の婚約候補が同時発生する事例は興味深い」


「人の人生を珍しい魔晶石みたいに言わないで!」


    


「で!?」


 クラリッサが身を乗り出す。


「婚約は?」


「保留」


「よかった!」


 即答。


 ソフィアも。


「よかったです……!」


 カグラ。


「妥当」


 リリアーナ。


「観察継続可能」


「君だけ理由がおかしい!」


 三人――いや。


 四人とも。


 反応が早い。


 ヴィクトリアの目が細くなる。


「あなたたち」


「……」


「なぜ安心していますの?」


 沈黙。


「……何となく?」


 クラリッサ。


「何となくで済ませませんわよ!」


 始まった。


     


 すると。


 リリアーナが小さく手を上げる。


「質問」


「何ですの?」


「婚約が保留なら、候補追加は可能?」


「何を聞いていますの!?」


 俺も嫌な予感。


「リリアーナ」


「うん」


「念のため聞くけど」


「うん」


「君が候補になるとか言わないよね?」


「研究目的なら」


「研究目的で婚約候補になるな!」


 クラリッサが吹き出した。


 カグラも口元を少し緩める。


 ソフィアまで笑っている。


 ヴィクトリアだけは。


「絶対に認めませんわ!」


「なぜ?」


「なぜではありません!」


 リリアーナが首を傾げる。


「比較対象は多い方が正確」


「比較実験ではありませんわ!」


     


 そこへ。


 ルミナ。


「提案があります」


「嫌な予感しかしない」


「婚約候補ごとの行動傾向を記録し――」


「ルミナまで研究側に行かないで!」


「恋愛研究の一環です」


「その研究まだ続いてたの!?」


「継続中です」


 リリアーナの目が輝く。


「共同研究は?」


「可能です」


「組まないで!」


 


 ……帰り際。


 母がルミナへ声をかけた。


「ルミナちゃん」


「はい」


「学院生活は楽しい?」


「はい」


「お部屋はどう?」


「現在、私物が七点あります」


「まだ数えてるんだ……」


 母が笑う。


「ちゃんと、あなたのお部屋になってきたのね」


 ルミナが少し考え。


 小さく頷いた。


「はい」


 そして。


「私の部屋です」


 母も。


 嬉しそうに笑った。


     


 夕方。


 両家の親たちを見送り。


 俺は学院のベンチへ座り込んだ。


「疲れた……」


 隣でアーヴェルが笑う。


「剣の試合より?」


「十倍」


「古代遺跡より?」


「五倍」


「黒い魔晶石より?」


「今のところ婚約会議の圧勝」


 ルミナが首を傾げる。


「勝敗を設定する必要がありますか?」


「ないよ」


「では無効試合です」


「そういう話じゃない!」


     


 遠くでは。


 まだクラリッサとヴィクトリアが言い合っている。


 エリシアはそれを笑って見ていて。


 カグラとソフィアも一緒。


 そして。


 リリアーナは小さな手帳へ何かを書いていた。


「リリアーナ」


「何?」


「何書いてるの?」


「今日の観察記録」


「消して」


「重要資料」


「消して!」


「拒否」


「何で!?」


 俺は頭を抱えた。


「……まあ」


「はい」


「婚約は保留でよかったよ」


 ルミナが頷く。


「では、次の問題です」


「え?」


「明朝の起床時刻について」


「今それ!?」


 横からリリアーナ。


「私は婚約候補追加条件について質問が——」


「君はもっと今じゃない!」


 婚約の話は。


 ひとまず終わった。


 ただ。


 どうやら。


 俺の周りでは。


 終わった話を勝手に研究対象にする人が。


 二人に増えてしまったらしい。


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