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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第62章 封印された魔晶石と、放課後の研究室


 翌朝。


 コンコン。


「レオン様」


「……」


 コンコン。


「起床時刻です」


「……何時?」


「五時五十分です」


「早い!」


 俺は布団の中から叫んだ。


    


 扉の向こうにはルミナ。


 今日はちゃんと。


 男子寮の廊下から来ている。


「昨日の指示通り、扉から来ました」


「そこは偉い」


「ありがとうございます」


「でも何でこんな早いの?」


「余裕を持った起床が望ましいと判断しました」


「余裕ありすぎ!」


「では十五分後に再度来ます」


「普通に入って待たないでね?」


「承知しました」


 足音が遠ざかる。


 珍しく完璧だ。


 俺は安心して目を閉じた。


     


「レオン様」


「うわっ!?」


 目を開ける。


 ベッド横。


 ルミナ。


「十五分経過しました」


「扉は!?」


「三度ノックしましたが応答がありませんでした」


「寝てたから!」


「よって転移しました」


「昨日から何も解決してない!」


    


 昼休み。


 食堂の大きなテーブル。


 今日はいつもの顔がかなり集まっていた。


「ルミナ!」


 クラリッサが身を乗り出す。


「熊は?」


「ベッド横へ配置しています」


「気に入った!?」


「最も視界へ入りやすい場所でしたので」


「気に入ってるってことだよ!」


「そうなのでしょうか」


 ルミナが少し考えている。


 その隣。


 カグラが真剣な顔。


「菓子は?」


「未消費です」


「食べて」


「栄養摂取は不要です」


「そういう問題ではない」


 カグラだけ圧が強い。


    


「カーテンは?」


 ヴィクトリア。


「使用しています」


「当然ですわね」


「鉢植えは?」


 ソフィア。


「本朝、水分を与えました」


「よかったです」


 エミリアが笑う。


「完全にみんなでルミナの部屋を育ててるね」


「私の本だけありません」


 リリアーナが言う。


「まだ言ってるの?」


「空いている棚がある」


「狙ってたんだ……」


   


 その時。


「皆さん、少しいいですか?」


 セレフィア先生が食堂へ入ってきた。


 俺は嫌な予感がした。


「レオンさん」


「はい」


「黒い魔晶石についてです」


「やっぱり」


 リリアーナの目だけ。


 一気に輝いた。


「回収した?」


「はい。ただし専用の封印箱に収容しています」


「見たい」


「見るだけですよ」


「触らない」


「本当に?」


「……努力する」


「駄目です」


「なぜ」


「その返答までの間が怪しすぎます」


     


 放課後。


 魔術研究棟。


 安全区画。


 参加したのは。


 俺。


 ルミナ。


 リリアーナ。


 ソフィア。


 セレフィア先生。


 厚い透明結晶の向こう。


 何重もの魔法陣に囲まれた台。


 その中央に。


 黒く濁った魔晶石があった。


     


 ソフィアは薬草実習用の白い上着を羽織っていた。


 淡い桃色の髪を後ろでまとめ。


 細い腰には小さな薬草袋。


 膝下までの濃紺スカートと白い靴下。


 研究用の手袋をはめながら真剣に石を見る姿は。


 普段の柔らかな雰囲気とは少し違って見えた。


「レオンさん?」


「何?」


「また見ていました?」


「……少し」


 ソフィアの頬が赤くなる。


「もう……今は石を見てくださいね」


「はい」


 正論だった。


     


 リリアーナは完全に研究者の顔だった。


「通常の魔晶石なら」


 透明結晶越しに石を見る。


「使用後でも魔力痕跡が残る」


「空っぽでも?」


「残る」


「これは?」


「少なすぎる」


「使い切ったとか?」


「違う」


 即答。


「使用痕跡がない」


「じゃあ?」


 リリアーナが黒い部分を見る。


「最初からそこに魔力がなかったように見える」


「……それおかしくない?」


「おかしい」


 珍しく嬉しそうじゃない。


     


「簡単な影響試験を行います」


 セレフィア先生の指示で。


 ソフィアが丈夫な薬草を一鉢。


 封印箱から十分以上離れた台へ置く。


「治癒魔力をごく少量だけ流します」


「お願いします」


 淡い光。


 薬草の葉が少し持ち上がる。


「異常ありませんね」


 ソフィアが安心しかけた。


「待ってください」


 ルミナ。


「何?」


「魔力消失速度が想定値を上回っています」


 空気が変わった。


「どれくらい?」


「ごく微量です」


 ソフィアが聞く。


「魔晶石に吸収されたのでしょうか?」


「吸収反応はありません」


「じゃあ」


 俺は石を見る。


「どこに行ったの?」


「不明です」


「また不明……」


 最近。


 この言葉ばかり聞いている。


     


 俺はリリアーナを見る。


「こういうの好きそうなのに」


「普通なら」


「普通なら?」


「分からないから面白い」


「うん」


「でもこれは違う」


 リリアーナが珍しく眉を寄せた。


「分からないまま触らない方がいい」


「リリアーナが言うと説得力あるな……」


「どういう意味?」


「褒めてる」


「ならいい」


     


 その後。


 学院長判断で。


 黒い魔晶石は地下研究区画へ封印。


 学生による追加実験は禁止。


 演習林の該当区域も引き続き立入禁止になった。


「つまり」


 俺は確認する。


「しばらく先生たちに任せる?」


「そうなります」


「よかった」


「よくない」


 リリアーナ。


「君とは価値観が違いすぎる」


     


 研究棟を出たあと。


 ソフィアが俺の隣を歩いていた。


「レオンさん」


「何?」


「怖くありませんでしたか?」


「黒い石?」


「はい」


 少し考える。


「分からないものは怖いけど」


 俺は研究棟を振り返る。


「別に俺が全部調べなくてもいいし」


「……」


「先生もいる。研究者もいる。ルミナもいる」


 それから。


「一人で何でもやる必要ないでしょ」


 ソフィアが少し驚いた顔をした。


「何?」


「いえ」


 柔らかく笑う。


「良い考えだと思います」


「でしょ?」


 何となく。


 少しだけ得した気分になった。


     


 その夜。


 学院地下。


 第二管理系統。


 青い文字が静かに浮かんだ。


 《未登録魔力欠損現象》


 《照合中》


 《一致記録なし》


 続いて。


 《東部観測拠点――応答なし》


 少し長い沈黙。


 そして。


 《最終正常観測値を検索》


 文字が変わる。


 《該当記録》


 《二百十三年前》


 それだけを残して。


 光は静かに消えた。


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