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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第60章 実習明けの教室と、黒く濁った魔晶石

 合同実習が終わった翌朝。


「……ん?」


 目を開けた。


 窓の外が。


 明るい。


 かなり明るい。


「……やばい」


 嫌な予感がした。


 枕元の時計を見る。


「ルミナ!」


 反射的に名前を呼ぶ。


 返事はない。


「……あれ?」


 いつもなら。


 この辺で。


「おはようございます、レオン様」


 と突然声がする。


 でも今日は。


 静かだった。


「今何時!?」


 時計をもう一度見る。


「一限まで二十七分!?」


 俺は飛び起きた。


     


 ちなみに。


 ルミナは俺と一緒に暮らしているわけではない。


 学院へ仮入学してからは、女子寮の特別個室を与えられている。


 学院長曰く。


「保護対象である以前に、今は学院の学生です」


 とのこと。


 だから男子寮の俺とは当然別。


 ――なのだが。


 なぜか毎朝。


 ルミナは俺の部屋へ起こしに来る。


 最初は廊下からだった。


 次の日から部屋の中になった。


 鍵をかけても。


「おはようございます、レオン様」


「なんでいるの!?」


「転移しました」


「鍵の意味!」


 となった。


 一度。


「明日は起こさなくていいから」


 と頼んだこともある。


 翌朝。


「おはようございます」


「止めたよね!?」


「レオン様の起床予定時刻を七分超過しましたので」


「だからって転移してこないで!」


 そんなやり取りを何度もして。


 最近では。


 もう止めるのを諦めていた。


 だから昨日の夜も。


「明日は絶対、自分で起きる」


 とは言ったけど。


(止めても来るんだから、どうせ起こしてくれると思うじゃん!)


 完全に他力本願だった。


    


 急いで制服へ着替える。


 その瞬間。


 淡い光。


「おはようございます、レオン様」


「遅い!」


 ルミナが現れた。


 いつもの銀白色の長い髪。


 学院制服。


 本人は完全に平常運転だ。


「現在、一限開始まで二十五分です」


「知ってる!」


「本日は自力で起床すると宣言されていましたので、起床介助を行いませんでした」


「いつも頼んでないのに来るじゃん!」


「はい」


「鍵閉めても来るじゃん!」


「はい」


「やめてって言っても来たじゃん!」


「はい」


「だから今日もついでに起こしてくれると思うじゃん!」


 ルミナが数秒考える。


「レオン様」


「何?」


「それは依存では?」


「正論やめて!」


     


「明日からどうしますか?」


「起こして」


「承知しました」


「……普通に承知するんだ」


「レオン様の希望ですので」


「じゃあ今までの俺の『起こさなくていい』は?」


「非合理的だと判断しました」


「俺の意思弱すぎない?」


「実績を参照しました」


「何も言い返せない!」


     


 朝食を最低限だけ食べ。


 廊下を走り。


 教室へ滑り込む。


「間に合った……!」


「おはよう!」


 クラリッサ。


 元気。


「何でそんな元気なの?」


「よく寝たから!」


「同じ三日間を過ごしたとは思えない」


 アーヴェルは机に突っ伏している。


「……眠い」


「仲間」


「昨日ベッドに入った瞬間、意識飛んだ」


「分かる」


     


「だらしありませんわね」


 ヴィクトリアが言う。


 金髪の縦巻きも完全復活。


「ヴィクトリアは平気なの?」


「当然ですわ」


「さっき欠伸してたけど」


「していません!」


「してた」


 カグラが静かに言う。


「カグラ!」


 そのカグラ自身は。


 机の下で小さな包みを開いていた。


「それ昨日のお菓子?」


「違う」


「甘い?」


「少し」


「お菓子じゃん」


「保存食」


 便利な言葉だ。


     


 昼休み。


「レオンさん」


 廊下でソフィアに呼び止められた。


「昨日の傷、大丈夫ですか?」


「傷?」


「手です」


「ああ」


 忘れていた。


「もう平気」


「見せてください」


「大丈夫だって」


「確認します」


 珍しく強い。


「はい」


 手を出す。


 ソフィアが俺の指先を両手で取った。


     


 今日のソフィアは。


 淡い桃色の髪を片側だけ小さく留めていた。


 制服の上には薄い白色の薬草実習用上着。


 細い腰には小さな薬草袋。


 俺の手を見るために俯くと。


 柔らかな桃色の髪が頬へ落ちる。


(真剣だな……)


「……レオンさん?」


「何?」


「そんなに見られると……」


 頬が少し赤くなる。


「確認しづらいです」


「ごめん」


「嫌では……ありませんけど」


「え?」


「何でもありません」


 小さい。


 聞き取れなかった。


     


「傷はもう大丈夫です」


「だから言ったじゃん」


「でも確認は必要です」


「はい」


 そこへ。


「何してるの?」


 エミリアがやってきた。


「治療?」


「昨日の確認です」


 ソフィアが答える。


「レオン、また怪我したの?」


「擦り傷だけ」


「相変わらずだね」


「そんな頻繁に怪我してないよ」


 さらに。


 紫色の小さな頭。


「レオン」


「リリアーナ」


「黒い魔晶石」


「第一声それ?」


「見たい」


「駄目」


「まだ森へ行くとは言ってない」


「行く気だった?」


「……少し」


「駄目」


「一欠片」


「駄目」


「表面だけ」


「もっと駄目!」


 エミリアが笑う。


「レオン、扱い慣れてきたね」


「慣れたくて慣れたわけじゃないよ」


     


 午後。


 俺とルミナ。


 それからカグラは。


 セレフィア先生に呼ばれた。


 学院長室。


「来ましたね」


 レティシア学院長。


「嫌な話ですか?」


「なぜ最初からそう思うのです?」


「最近の経験です」


「否定はしません」


「やっぱり嫌な話なんだ……」


     


 机の上には演習林の地図。


 俺たちが印をつけた場所に。


 赤い丸がついている。


「教師側で現地を確認しました」


 セレフィア先生が言う。


「魔晶石そのものは、まだ回収していません」


「危険だから?」


「それもあります。ただ」


 先生の指が地図の上を進む。


「問題はこちらです」


「?」


「周囲の魔力の流れが正常ではありません」


 カグラが聞く。


「魔力が減っている?」


「少し違います」


 セレフィア先生は少し考えて。


「川を想像してください」


「はい」


「普通なら魔力は、水のように土地を流れています」


「うん」


「ところが、あの場所だけ」


 指が途中で止まる。


「流れていたものが、途中から消えているのです」


「……消える?」


「確認できる範囲では」


「嫌な言い方ですね」


「私もそう思います」


     


「ルミナ」


 学院長が見る。


「既知の現象に該当しますか?」


「一致なし」


「古代管理系統の記録は?」


「現在閲覧可能な範囲には存在しません」


「また分からないものが増えた……」


 世界線識別値。


 二百十三年前の記録。


 応答しない東部観測拠点。


 黒い魔晶石。


「最近こういうの多くないですか?」


「研究とはそういうものです」


「俺、研究者じゃないんですけど」


     


 ルミナが言う。


「東部観測拠点の最終応答記録との比較を希望します」


「関連があると?」


「不明です」


「だよね」


「ただし比較価値はあります」


 学院長が頷いた。


「こちらで進めましょう」


「じゃあ俺たちは?」


「授業です」


「よかった」


「普通の学生らしい反応ですね」


「最近それが一番安心します」


     


 学院長室を出る。


 すると。


 待っていた。


 クラリッサ。


 ヴィクトリア。


 アーヴェル。


 エミリア。


 ソフィア。


 そしてリリアーナ。


「どうだった?」


 クラリッサが聞く。


「よく分からない」


「また?」


「また」


「最近多いね!」


「俺もそう思う」


 リリアーナが一歩前へ出た。


「魔晶石について詳しく――」


「食堂行こう!」


 クラリッサが肩を掴む。


「まだ話が――」


「今日はご飯!」


「研究――」


「ご飯!」


「研究――」


「ご飯!」


「何の勝負?」


    


 結局。


 みんなで食堂へ行った。


 途中でジェイドとマリエッタも合流。


「実習どうだった?」


 ジェイドがエミリアに聞く。


「うちの班、一回道を間違えた」


「どれくらい?」


「一時間」


「それ一回で済ませていいの?」


 ソフィアが小さく手を上げる。


「私たちは夕食を焦がしました」


「誰が?」


「全員です」


「全員!?」


 リリアーナ。


「私たちは予定より遅れた」


「理由知ってる」


「何?」


「苔」


「苔」


「やっぱり!」


     


 笑い声。


 食事。


 くだらない話。


 昨日まで森で野営していたのに。


 もういつもの学院生活だ。


 隣ではルミナも普通に座っている。


「ルミナ」


「はい」


「明日の朝」


「起床介助ですね」


「お願いします」


「承知しました」


「でも扉から来てね」


「合理性がありません」


「そこは気持ちの問題!」


「検討します」


「検討じゃなくて!」


 みんなが笑った。


 女子寮に自分の部屋があるのに。


 毎朝わざわざ俺を起こしに来る。


 効率だけで考えれば。


 たぶん必要のない行動だ。


 でも。


 最近のルミナは。


 そういう必要のないことを。


 少しずつ増やしている。


 それも。


 悪くないのかもしれない。


    


 その夜。


 学院地下。


 第二管理系統。


 青い文字が浮かんだ。


 《局所魔力循環異常を検出》


 《規模――微弱》


 《原因――識別不能》


 少し間。


 《東部観測拠点へ照会》


 《応答なし》


 《再照会》


 《失敗》


 文字が消える。


 その頃。


 俺は男子寮の自室で。


「明日は大丈夫だろ」


 と安心して眠っていた。


 もちろん。


 部屋にはしっかり鍵をかけて。


 まあ。


 ルミナには。


 何の意味もないのだけれど。


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