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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第56章 合同実習初日と、ヴィクトリアの意外な弱点

 合同実習当日。


 朝。


 学院北西の演習林入口には、一年生たちが集められていた。


「三日分の荷物って、思ったより重いな……」


 俺が背負い袋を持ち直す。


「鍛錬だと思えば軽い!」


 クラリッサは元気だ。


「その理屈なら岩でも背負えるよね?」


「必要なら!」


「聞いた俺が悪かった」




 第三班。


 俺。


 ヴィクトリア。


 クラリッサ。


 カグラ。


 アーヴェル。


 ルミナ。


 改めて見ると。


「やっぱり戦闘寄りすぎない?」


 俺が言う。


 アーヴェルも頷く。


「魔物側がかわいそうだな」


「失礼ですわね」


 ヴィクトリアが腕を組む。


「私たちは戦うだけではありませんわ」


「例えば?」


「当然、野営や料理も――」


 少し止まった。


「……料理も?」


「できますわ」


「今の間は何?」


「できます!」


 声が大きくなった。




「第三班、出発!」


 教師の合図。


 俺たちは森へ入った。


 先頭は俺とクラリッサ。


 中央にヴィクトリアとルミナ。


 後方をカグラとアーヴェル。


「最初の指定地点まで約二時間」


 アーヴェルが地図を見る。


「道を間違えなければ」


 カグラが言う。


「ルミナ」


「はい」


「正解の道、分かる?」


「算出可能です」


「言わなくていいからね」


「承知しました」


 便利すぎるのも困る。




 三十分ほど進んだ頃。


「止まって」


 カグラが言った。


 茂みの向こう。


 三匹のフォレストウルフ。


「来た!」


 クラリッサの目が輝く。


「何で嬉しそうなの?」


「実習だから!」


「絶対それだけじゃないよね」


 魔物が飛び出す。


「右は私が!」


 クラリッサ。


「左」


 カグラ。


「では中央ですわね」


 ヴィクトリアが杖を向ける。


「《光弾》」


 淡い光が飛ぶ。


 ドン。


 中央の一匹だけが綺麗に弾き飛ばされた。


「おお」


 出力まできっちり調整されている。


「どうです?」


 ヴィクトリアが少し得意そうにこちらを見る。


「上手い」


「当然ですわ」


 言いながら。


 ほんの少し口元が緩んでいた。


 褒められると結構分かりやすいな。




 午前の課題を終え。


 昼。


 川沿いの開けた場所で休憩することになった。


「昼食にしましょう」


 ヴィクトリアが荷物を開く。


「今日は保存パンと干し肉?」


「それだけでは味気ないですわ」


「何かあるの?」


「簡単なスープを作ります」


 俺たちは顔を見合わせた。


「ヴィクトリアが?」


「何ですの、その反応」


「いや」


「できますわよ」


 再び強く言われた。


 


 今日のヴィクトリアは野外実習用の服装だった。


 長い金髪は高めにまとめられ。


 白いシャツの上に薄い革製の胸当て。


 腰を細く締めたベルトには小型の魔術具。


 濃紺の乗馬ズボンと膝までの革靴で、普段のドレス姿とはかなり印象が違う。


 華やかさより。


 すらりとした身体と長い脚が目立つ格好だった。


 そんな本人が。


 今は鍋の前で真剣な顔をしている。


「……」


 野菜を持つ。


 包丁を見る。


 野菜を見る。


 また包丁を見る。


「ヴィクトリア」


「何ですの」


「使い方分かる?」


「当然です!」


「本当に?」


「見ていなさい!」


 


 トン。


「……」


 トン。


「……」


 一個。


 切るのに。


 妙に時間がかかる。


 クラリッサが横から覗く。


「遅くない?」


「丁寧なのです!」


「貸して?」


「必要ありません!」


 トン。


 少し曲がった。


「……」


 ヴィクトリアが無言で切った野菜を見る。


 俺は言った。


「味は変わらないよ」


「慰めないでくださる!?」


「慰めたつもりじゃない!」


 


 さらに。


「火をお願いしますわ」


「俺?」


「レオンは火属性も最低限使えますでしょう?」


「使えるけど」


「では弱く」


「はい」


 小さな火。


 鍋が温まる。


「次に調味料を」


 ヴィクトリアが小瓶を持つ。


 少し入れる。


 さらに入れる。


「それ結構入ってない?」


「これくらいですわ」


「本当に?」


「家では料理人が――」


 止まった。


「……料理人が?」


「何でもありません」


「普段自分で作ってないよね?」


「……」


「ヴィクトリア?」


「ありませんわ!」


「認めた!」



 結局。


 味見。


 ヴィクトリアが小さな匙でスープを飲む。


「……」


 止まった。


「どう?」


「問題ありません」


「本当に?」


「問題ありませんわ」


 カグラが無言で匙を取る。


 一口。


「濃い」


「カグラ!」


 アーヴェルも飲む。


「濃いな」


「アーヴェルまで!」


 クラリッサ。


「私は好き!」


「本当ですの!?」


「うん! 水ほしいけど!」


「それ濃いってことだよ!」


 


 ヴィクトリアの肩が少し落ちる。


「……失敗ですわね」


 珍しく。


 本気で落ち込んでいる。


「別に失敗ってほどじゃないよ」


「ですが」


「水足せばいいんじゃない?」


「……水?」


「うん」


 鍋へ少し水を足す。


 もう一度味見。


 カグラ。


「ちょうどいい」


 アーヴェル。


「普通に美味い」


 クラリッサ。


「おかわり!」


「早い!」


 ヴィクトリアが目を瞬く。


「直りましたの?」


「直った」


「……そう」


 そして。


 少しだけ。


 嬉しそうに笑った。


 


 昼食。


 みんなでスープを食べる。


「美味しいですわね」


 ヴィクトリア自身も満足そうだ。


「結果的には成功」


 俺が言う。


「結果的には、は余計です」


「でも初めてに近いんでしょ?」


「……そうですわね」


「じゃあ十分じゃない?」


 ヴィクトリアがこちらを見る。


「レオン」


「何?」


「もう一度言ってくださいな」


「何を?」


「十分だと」


「十分だと思うよ」


「そうではなく」


「?」


「……もう結構です」


 なぜか少し頬を膨らませた。


 難しい。


 


 食後。


 片付けを始める。


「鍋は私が洗いますわ」


「大丈夫?」


「料理より簡単でしょう!」


 数分後。


「あっ」


 川辺から声。


 見ると。


 鍋が流れていた。


「鍋!」


 ヴィクトリアが手を伸ばす。


「危ない!」


 俺が横から拾う。


 ぎりぎり。


「はい」


「……ありがとうございます」


「どういたしまして」


「今のは川が悪いですわ」


「川?」


「流れが予想以上だったのです」


「うん」


「笑わないでください!」


「笑ってない!」


 少し笑ってた。


 


 午後。


 俺たちは最初の野営予定地へ到着した。


 実習は順調。


 魔物も問題なし。


 道にも迷っていない。


 ただ。


「ヴィクトリア」


「何ですの?」


「今日、一番大変だったのって魔物じゃなかったね」


「……」


 ヴィクトリアが俺を睨む。


「忘れなさい」


「何を?」


「昼食のことを全部です!」


「美味しかったのに?」


「……そこだけ覚えておきなさい」


「注文多いな」


 


 少し前を歩いていたクラリッサが振り返る。


「明日の朝もヴィクトリアが料理する?」


「しません!」


「えー!」


「絶対にしません!」


「じゃあ私やる!」


「それはもっと不安ですわ!」


「何で!?」


 カグラが静かに言う。


「私が作る」


 全員が止まる。


「カグラ、料理できるの?」


「普通に」


「最初からお願いすればよかった!」


「レオン!」


 ヴィクトリアに怒られた。


 


 夕暮れ。


 六人で野営地を作る。


 ヴィクトリアは今度こそ失敗しないようにと。


 誰より真剣に天幕の紐を結んでいた。


 その横顔を見ながら。


 俺は少し笑う。


 何でも完璧そうに見える人にも。


 苦手なことはある。


 しかも。


 失敗すると意外と悔しがる。


 褒めると分かりやすく機嫌が直る。


(こういうところ、ちょっと可愛いな)


「レオン」


「はい」


「今、何か失礼なことを考えませんでした?」


「全然」


「本当ですの?」


「可愛いなって思っただけ」


「――っ!?」


 ヴィクトリアの手から。


 結びかけの紐が落ちた。


「レオン!」


「何!?」


「そういうことを急に言うのは禁止ですわ!」


「禁止なの!?」


 合同実習初日。


 まだ夜にもなっていないのに。


 第三班は。


 今日も十分すぎるほど賑やかだった。


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