第52章 自主練習と、増えていく放課後
合同授業の翌日。
放課後の訓練場へ行くと。
「遅い!」
クラリッサにいきなり怒られた。
「まだ約束の五分前なんだけど」
「みんな来てる!」
「みんなが早いんだよ」
周りを見る。
カグラ。
アーヴェル。
ジェイド。
マリエッタ。
ルミナ。
昨日話していた面々が、そろっていた。
「……本当にやるんだ」
「お前がいいって言っただろ」
ジェイドが笑う。
「言ったけど」
「じゃあ問題なし!」
「その考え方、クラリッサに似てきたな」
「何で私!?」
「今日は私も見ますよ」
後ろから声がした。
「セレフィア先生?」
「はい」
先生まで来ていた。
「合同授業の続きです。推薦で入学した皆さんが実技についていけているか確認します」
「なるほど」
今日は普段の教師服ではなく、実技用の軽装だった。
淡い銀紫色の髪を後ろで一つにまとめ。
濃紺の上衣を細い革帯で締めている。
長めのスカートには動きやすい切れ込みが入り、歩くたび黒いタイツに包まれた脚が少し覗く。
実用的な格好なのに。
細い腰やすらりとした脚の線が普段より分かりやすくて、いつもの穏やかな先生とは少し違って見えた。
「レオンさん?」
「はい」
「聞いていますか?」
「もちろんです」
「では始めますよ」
「はい」
危なかった。
* * *
「まず二人一組になってください」
セレフィア先生が言う。
「最初は自由に組んで構いません」
「レオン!」
「レオン」
「レオン様」
「おいレオン!」
四方向から声が飛んできた。
クラリッサ。
カグラ。
ルミナ。
ジェイド。
「待って」
「何?」
「何で全員俺?」
クラリッサが即答する。
「強いから!」
カグラ。
「練習になる」
ルミナ。
「戦闘データ更新」
ジェイド。
「武闘祭の借りを返したい」
「最後だけ目的が違う!」
横でアーヴェルが笑っている。
「人気者は大変だな」
「助けろよ」
「嫌だね」
「友達だろ!」
結局。
最初の相手はアーヴェルになった。
「俺とお前がちゃんと打ち合うの、久しぶりじゃないか?」
「そうかも」
「普段一緒にいる割にな」
俺たちは木剣を受け取る。
「軽くな」
「うん」
セレフィア先生が手を上げた。
「始め」
アーヴェルが踏み込む。
速い。
カン!
一合。
二合。
三合。
剣筋は素直だけど。
動きに無駄が少ない。
「おっ」
俺が横へ回ろうとすると。
アーヴェルもすぐについてきた。
「読んだぞ!」
「じゃあこれは?」
踏み込む。
木剣を振る。
アーヴェルが受ける。
その途中で俺は剣筋を変えた。
「うわっ!」
木剣が肩の直前で止まる。
「一本」
セレフィア先生の声。
「くそー!」
アーヴェルが頭を掻いた。
「それ本当に嫌いだ」
「何が?」
「振り始めてから変えるやつ」
「便利だよ?」
「やられる側は全然便利じゃない!」
「もう一回」
「いいよ」
二戦目。
今度はアーヴェルから攻めてきた。
一戦目より少し速い。
「同じ負け方はしない!」
「ちゃんと考えてるね」
「当たり前だ!」
木剣がぶつかる。
右。
左。
そして突き。
俺は半歩下がる。
(上手くなってるな)
入学試験の頃から強かったけど。
今はさらに安定している。
「そこ!」
アーヴェルが横へ回る。
「惜しい」
「なっ――」
身体をひねる。
木剣をかわし。
そのまま軽く胸元へ。
トン。
「一本」
「また負けた!」
「今のは結構危なかったよ」
「本当か?」
「本当」
「じゃあ次は勝てるな」
「その結論になる?」
「なる!」
こういうところは。
相変わらずだ。
次はジェイドとクラリッサ。
「行くぞ!」
「来い!」
木剣と大剣がぶつかる。
ガン!
「重っ!」
「ジェイドも力あるね!」
「そっちに言われたくない!」
クラリッサが押す。
ジェイドが踏ん張る。
「頑張れ!」
俺が声をかける。
「どっちに!?」
「ジェイド」
「レオン!」
クラリッサに怒られた。
カグラとアーヴェル。
「お願いします」
「お手柔らかにな」
「努力する」
「その答え怖いな」
始まった。
アーヴェルが先に動く。
カグラは待つ。
一撃。
かわす。
二撃目。
半歩。
「そこ」
コツン。
「早っ!」
木刀がアーヴェルの肩へ触れる。
「一本」
「もう一回!」
「いい」
「今度こそ!」
「どうぞ」
「カグラ、ちょっと楽しんでるだろ」
「少し」
マリエッタはセレフィア先生に補助魔術を見てもらっていた。
「魔力を一気に流さず、相手の動きに合わせて」
「はい」
マリエッタが杖を向ける。
淡い光がジェイドを包む。
「おお!」
ジェイドが軽く跳ねた。
「身体が軽い!」
「成功ですか?」
「はい」
セレフィア先生が頷く。
「今のは綺麗でしたよ」
「ありがとうございます!」
マリエッタが嬉しそうに笑う。
推薦入学で学院へ来たばかりなのに。
もうかなり馴染んでいる。
「レオン様」
次。
ルミナが来た。
「何?」
「対戦を希望します」
「やっぱり来たか」
「出力は〇・〇〇五パーセントへ制限します」
「さらに下げたんだ」
「前回の合同授業を参考にしました」
「偉い」
「ただし技術制限はありません」
「そこも下げよう?」
「困難です」
「何で?」
「技術は出力ではありません」
「正論で返さないで」
「始め」
ルミナが動く。
「速っ!」
〇・〇〇五パーセントでも。
普通に速い。
一撃。
受ける。
二撃。
かわす。
三撃。
「待って!」
「何でしょう」
「全然軽くない!」
「出力は規定内です」
「技術の話!」
「先ほど説明しました」
「そうだった!」
横からクラリッサ。
「レオン頑張れ!」
「他人事だと思って!」
しばらくして。
「休憩にしましょう」
先生の一声で。
全員が芝生へ座り込んだ。
「疲れた……」
ジェイドが仰向けになる。
「学院の自主練って毎回こんななのか?」
「違うと思う」
「思う?」
「クラリッサとルミナがいると基準が分からなくなる」
「納得した」
「何で私まで!」
クラリッサが抗議する。
カグラが静かに言う。
「普通ではない」
「カグラまで!?」
少し離れたところでは。
マリエッタがノートを見ている。
「今日の補助魔術、どうでした?」
「かなり助かったよ」
俺が答える。
「本当ですか?」
「うん。前衛は動きやすくなる」
「よかった……」
嬉しそうに書き込む。
ジェイドも身体を起こした。
「俺も次はもう少し粘れるようにならないとな」
「次もあるの?」
「当然」
「毎日?」
「できれば」
「嫌だよ!」
俺は周りを見る。
クラリッサがジェイドに何か教えている。
カグラはマリエッタのノートを覗いている。
ルミナはその様子を静かに見ている。
アーヴェルは芝生に寝転がっていた。
少し前まで。
ジェイドも。
マリエッタも。
ほとんど知らない相手だった。
今年から学院の入学制度が変わって。
今までならここにいなかった人たちが入ってきた。
その結果。
こうして一緒に剣を振って。
魔術を使って。
失敗して。
笑っている。
「こういうの」
俺は何となく呟いた。
「結構いいな」
「何が?」
アーヴェルが聞く。
「人が増えるの」
「仲間が?」
「まあ、そんな感じ」
「お前も変わったな」
「自分でも思う」
学院へ来たばかりの頃なら。
こんな放課後は想像もしなかった。
「じゃあ明日もやろう!」
クラリッサが立ち上がる。
「毎日は嫌だ!」
「何で!」
「疲れるから!」
「鍛えれば疲れなくなる!」
「そういう問題じゃない!」
「じゃあ明後日!」
「休ませて!」
みんなが笑う。
夕暮れの訓練場。
賑やかな声。
いつの間にか。
俺の放課後は。
以前よりずっと忙しくなっていた。
でも。
悪くない。
そんなふうに思えるくらいには。
俺もこの学院に。
馴染んできたらしい。




