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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第49章 辺境を離れて、学院へ

 二日後。


 ついに王都へ戻る日が来た。


「荷物は全部載せた?」


「はい!」


「忘れ物ない?」


「多分!」


 クラリッサの返事がすでに不安だった。


「多分って何だよ」


「忘れてたら送ってもらえばいい!」


「強いな、その考え方」


 屋敷の前には二台の大型魔導馬車。


 来た時と同じ顔ぶれが、それぞれ荷物を積み込んでいる。


 ただ。


 来た時より明らかに荷物が増えていた。


「ヴィクトリア、その箱何?」


「お土産ですわ」


「三箱あるけど」


「必要最低限です」


「貴族の最低限ってすごいな……」


     


「レオン」


 父上に呼ばれる。


「はい」


「学院へ戻っても鍛錬を怠るな」


「分かってます」


「古代施設について何か分かれば報告しろ」


「はい」


「それから」


「まだあります?」


「たまには手紙を書け」


「……はい」


 最後だけ普通の父親だった。


 母上はもっと分かりやすい。


「レオン!」


「うわっ」


 いきなり抱きしめられた。


「身体に気をつけるのよ」


「分かってますから!」


「ちゃんと食べるのよ」


「学院に食堂あります!」


「お友達を大切にするのよ」


「それも分かってます!」


「それから――」


「母上、馬車が出られません!」


     


「相変わらずだね」


 笑いながら近づいてきたのはフィオナだった。


「人ごとだと思って」


「だって私、昔から見てるし」


 今日は剣の訓練着ではなく、旅人に近い軽装だった。


 高く結んだ金茶色のポニーテール。


 白いシャツの上に短い革の上着。


 細い腰には剣帯が巻かれ、すらりとした脚には身体に合った濃色の乗馬ズボン。


 膝まである革靴と合わせると、騎士の娘らしい活発な姿になる。


 昔から見慣れているはずなのに。


 今改めて見ると。


(……普通に綺麗なんだよな)


「レオン?」


「何?」


「今、変な顔してた」


「してない」


「してた」


「気のせい」


 フィオナが俺の顔を覗き込む。


「学院行ってから誤魔化すの上手くなった?」


「むしろ下手になった気がする」


「それはそうかも」


 笑われた。


     


「じゃあ」


 フィオナが右手を差し出す。


「またね」


「うん」


 俺も手を出す。


 でも。


 握手すると思ったら。


 フィオナはその手を強く引いた。


「うわっ」


 一歩前へ。


 顔が近くなる。


「次に帰ってきた時」


「何?」


「もう一回勝負」


「剣?」


「もちろん」


「また?」


「当然」


 フィオナが笑う。


「今度はもっと強くなってるから」


「俺も強くなるよ」


「知ってる」


 一瞬だけ。


 フィオナの表情が変わった。


「だから追いつく」


「……そっか」


「昔は私が前を歩いてたのにね」


 子供の頃。


 俺はいつもフィオナの後ろにいた。


 剣でも負けて。


 怖いことがあれば隠れて。


 でも今は。


「じゃあ次は並べばいいんじゃない?」


「え?」


「どっちかが前じゃなくて」


 俺が言うと。


 フィオナは少し目を丸くした。


 そして。


「……それいいね」


 笑った。


     


「レオン様」


 後ろからルミナの声。


「何?」


「フィオナ様の顔面温度が上昇しています」


「ルミナ!」


 フィオナが振り返る。


「それ言わなくていい!」


「恋愛研究上、興味深い変化です」


「休暇中終わったでしょ!」


「研究は継続しています」


「学院へ持って帰って!」


「もちろんです」


「そういう意味じゃない!」


 みんなが笑う。


 出発前なのに。


 全然しんみりしない。


 でも。


 たぶん俺たちらしい。


     


 馬車が動き出す。


「レオン!」


 窓の外からフィオナが手を振る。


「次は負けないから!」


「はいはい!」


「はいは一回!」


「昔からそれ言うよな!」


 屋敷が少しずつ遠くなる。


 父上。


 母上。


 兄上。


 フィオナ。


 使用人たち。


 全員が小さくなっていく。


「寂しいですか?」


 エリシアが尋ねる。


「少し」


 俺は正直に答えた。


「でも」


 馬車の中を見る。


「学院に戻るのも楽しみなんだよね」


「それならよかったです」


     


 帰り道は。


 来た時よりずっと賑やかだった。


「次の休暇どこ行く?」


 クラリッサ。


「気が早い!」


「東方も面白い」


 カグラ。


「カグラの故郷?」


「遠い」


「じゃあ無理か!」


 ヴィクトリアは呆れる。


「次の休暇の前に授業がありますわよ」


 アーヴェルが遠い目をする。


「現実を言うな……」


「あなた学生でしょう」


「そうだった……」


 セレフィア先生まで笑っていた。


     


 三日後。


 王都。


「戻ってきた……」


 見慣れた大きな城壁。


 人でいっぱいの街道。


 遠くには王城。


 そして。


 王立セレスティア高等学院。


「なんか懐かしいな」


「数週間程度しか離れていません」


 ルミナが言う。


「感覚の話」


「理解しました」


 学院の門をくぐる。


 すると。


「お帰りなさい」


 聞き覚えのある声。


「……学院長」


 レティシア学院長が待っていた。


 長い暗紫色の髪。


 いつもの黒い学院長服。


 穏やかな笑顔。


「楽しい休暇だったようですね」


「どうして分かるんです?」


「顔を見れば分かります」


「そんなに?」


「ええ」


 学院長が少し笑う。


「以前よりずっと学生らしい顔になりました」


「……」


 それ。


 喜んでいいんだよな?


「ただし」


 学院長が手に持った書類を上げる。


「楽しい休暇のお話は後です」


「ですよね」


「北部遺跡の報告」


「はい」


「《世界線識別値》」


 俺の表情が止まる。


 そして。


「二百十三年前の記録について」


「……はい」


 休暇は。


 完全に終わったらしい。


 でも。


 不思議と嫌ではなかった。


 俺はもう一度。


 この学院の日常へ戻ってきた。


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