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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第48章 写景板と、休暇最後の一枚

「レオンさん 早くしてください」


 エリシアに呼ばれて休憩所へ戻ると。


 みんなが庭に集まっていた。


「何してるの?」


「記念撮影ですわ」


 ヴィクトリアが答える。


 その前には宿の主人が小さな箱型の魔道具を三脚へ載せていた。


「全員入りきりますかね」


 ソフィアが心配そうに言う。


「大丈夫ですよ」


 宿の主人が写景器を調整する。


「少し詰めてください」


「レオン こっち!」


 フィオナが手を振る。


「待って 何で俺が真ん中?」


「アルセリア領だから」


「関係ある?」


「ある!」


 ない気がする。


    


 並び方だけで。


 なぜか十分近くかかった。


「クラリッサさん もう少し右へ」


「ここ?」


「行きすぎです」


「カグラの後ろ?」


「私は小さくない」


「そういう意味じゃないよ!」


 アーヴェルが呆れる。


「記念撮影ってこんな大変なのか」


「人数が多いからだろ」


「レオン様」


 ルミナが俺の隣へ来る。


「私はどこへ立てばよいでしょう」


「好きなところでいいよ」


「ではここにします」


 本当に隣に立った。


「即決だな」


「はい」


    


「レオン」


「ん?」


「少し詰めなさいな」


 反対側からヴィクトリアが近づく。


 温泉から上がったばかりなので。


 まだ浴衣姿だった。


 淡い青紫の浴衣に白い帯。


 普段の豪華な巻き髪は少しだけ緩くまとめられ、金色の髪が肩の横へ柔らかく流れている。


 浴衣の襟はきっちり整っているのに。


 細い首筋や帯で締まった腰がいつものドレス姿とは違って見えた。


 裾から覗く足首まで妙に上品だ。


「……」


「何ですの?」


「いや」


「またですの?」


「何が?」


「最近、女性を見て黙る癖がありません?」


「ないよ」


「ありますわ」


 すぐ隣からルミナ。


「あります」


「ルミナまで!」


「過去十日間で――」


「数えなくていい!」


 ヴィクトリアが口元を押さえて笑う。


「本当に分かりやすい方」


「もう撮ろうよ!」


     


「では皆様 こちらを見てください」


 宿の主人が写景器の後ろへ立つ。


「動かないでくださいね」


「どれくらい?」


 クラリッサが聞く。


「三秒ほどです」


「長い!」


「短いだろ」


「戦闘なら三秒で三回動ける」


「今は戦闘じゃない」


 その時。


 母上がいないことに気づいた。


「そういえば母上たちは?」


「これは若い皆さんだけで撮ってきなさいって」


 フィオナが答える。


「絶対あとで欲しがるな」


「もう複製を頼まれています」


 宿の主人が言う。


「先回りされてる……」


     


「では撮ります」


 全員が前を見る。


「三」


 クラリッサが急に背筋を伸ばす。


「二」


 アーヴェルがなぜか緊張する。


「一」


「レオン」


 フィオナが小声で呼んだ。


「何?」


「笑って」


「え?」


 パッ。


 淡い光。


「あ」


「終わりました」


「今の絶対変な顔だった!」


 フィオナが笑う。


「自然な顔だったよ」


「もっと早く言えよ!」


   


 数分後。


 魔晶板に像が浮かんだ。


「おお……」


 俺も覗き込む。


 真ん中に俺。


 左右にルミナとヴィクトリア。


 その周りにエリシア。


 クラリッサ。


 カグラ。


 ソフィア。


 リリアーナ。


 フィオナ。


 アーヴェル。


 少し後ろにはセレフィア先生とミレイユ先生。


 全員浴衣だったり休憩着だったり。


 表情もばらばら。


 クラリッサは満面の笑顔。


 カグラはいつも通り静か。


 ヴィクトリアはきちんと微笑み。


 ルミナは。


「……ルミナ」


「はい」


「ちょっと笑ってない?」


 よく見ないと分からない。


 ほんの少し。


 口元が柔らかい。


「そう見えますか?」


「うん」


 ルミナは魔晶板を見る。


 数秒。


「訂正する必要がありますか?」


「しなくていい」


「なぜでしょう」


「いい顔だから」


 ルミナはまた少しだけ黙った。


「……承知しました」


     


「レオンさんも」


 エリシアが俺の顔を指す。


「笑っていますよ」


「え?」


 見る。


 本当だ。


 しかも。


 自分で思っていたより自然に笑っている。


「……変だな」


「何がです?」


「昔だったらこういうの苦手だったから」


 みんなで並んで。


 写真みたいなものを撮って。


 後でそれを見て笑う。


 前世の俺なら。


 たぶん最初から参加しなかった。


「今は嫌でした?」


「いや」


 俺はもう一度魔晶板を見る。


「楽しかった」


「ならいいじゃないですか」


 エリシアが笑う。


「うん」


    


 翌朝。


 温泉宿を出る。


「楽しかった!」


 クラリッサが大きく伸びをする。


「また来よう!」


「もう次の予定立ててるの?」


「駄目?」


「駄目じゃないけど」


 少し前の俺なら。


 次の約束なんて面倒だと思ったかもしれない。


「また来よう」


 そう答えると。


「ほんと!?」


「機会があれば」


「絶対ね!」


「急に圧が強い」


     


 屋敷へ戻ると。


 案の定。


 母上が真っ先に写景板を見た。


「まあ!」


「やっぱり見るんですね」


「当然でしょう」


 母上が嬉しそうに眺める。


「レオンがこんなにたくさんのお友達と」


「そこ強調しないで」


「昔はフィオナしか――」


「その話も禁止!」


 父上まで横から覗く。


「良い一枚だな」


「父上まで?」


「記念になる」


 その一言で。


 俺も少し黙った。


 記念。


 そうか。


 休暇が終われば。


 みんな学院へ戻る。


 この時間もずっと続くわけじゃない。


     


 その日の夕方。


 セレフィア先生から帰還の日程が告げられた。


「二日後に王都へ戻ります」


「もう?」


 クラリッサが残念そうに言う。


「長期休暇にも限りがありますから」


 学院へ戻る。


 授業。


 剣術。


 研究。


 いつもの生活。


 そして。


 北部遺跡で見つけた記録の調査も待っている。


「レオン様」


 ルミナが言う。


「学院へ戻った後も恋愛研究を継続します」


「それは休んでいい」


「重要な研究です」


「どこが?」


「本日の記録でも複数の反応が――」


「写真の分析始めるな!」


 みんなが笑った。


 机の上には。


 今日できたばかりの写景板。


 俺はその中で。


 ちゃんとみんなと一緒に笑っていた。


 それだけで。


 今回の帰省は。


 十分来た意味があったと思えた。


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