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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第47章 温泉と、休暇らしい一日

 北部遺跡を調査した翌日。


 朝食の席で。


「今日は全員休みなさい」


 母上が突然そう言った。


「……はい?」


「武闘祭のあとに遺跡調査までしたのでしょう?」


「まあ」


「なら休養も必要です」


 珍しくまともなことを言っている。


「近くに温泉がありますから、みんなで行ってきなさい」


「温泉?」


 クラリッサが反応した。


「行く!」


「早いな!」


「温泉好き!」


 フィオナまで手を上げる。


「私も久しぶりに行きたい!」


 どうやら。


 今日だけは本当に普通の休暇になりそうだった。




 領都から馬車で一時間ほど。


 山の中腹に小さな温泉宿があった。


 アルセリア領では昔から有名らしい。


「いいところだな」


 アーヴェルが建物を見る。


「景色もいい」


 山。


 森。


 遠くには領都まで見える。


「今日は古代遺跡なし?」


 俺がルミナへ確認する。


「ありません」


「管理者認証も?」


「ありません」


「世界線も?」


「ありません」


「最高だな!」


 ルミナが少し首を傾げた。




 当然。


 男湯と女湯は別だった。


「じゃあまたあとで」


 エリシアが手を振る。


「ああ」


 クラリッサはもう楽しそうだ。


「競争しよう!」


「温泉で何を競うんだよ」


「長く入っていられる時間!」


「やめなさい」


 セレフィア先生に即座に止められていた。




 男湯。


「……生き返る」


 俺は湯船に沈んだ。


 身体の力が一気に抜ける。


「お前、十八歳の台詞じゃないぞ」


 アーヴェルが笑う。


「精神的には色々あるんだよ」


「また古代遺跡か?」


「それもある」


 少し離れた場所ではディートリヒ兄上も湯に浸かっている。


「レオン」


「何?」


「学院生活は楽しそうだな」


「まあ……昔よりは」


「昔なら人の多い温泉なんて絶対来なかった」


「それは言わなくていい」


「フィオナが誘えば来たかもしれないが」


「もっと言わなくていい!」


 壁の向こうから。


「聞こえてるよー!」


 フィオナの声。


「なんで聞いてるんだよ!」


「声が大きいから!」


 最悪だ。




 女湯側からは楽しそうな声がずっと聞こえていた。


「ルミナちゃん、熱くない?」


 エリシアの声。


「適温です」


「本当に?」


「現在四十一・二度」


「そこまで正確に言わなくていいよ!」


 クラリッサが笑っている。


 次。


「ヴィクトリア、髪すごいね!」


「濡らさないようにまとめていますの!」


「崩れてる」


「カグラ!」


 ……楽しそうだな。


 俺は何となく壁を見る。


「レオン」


 アーヴェルが言う。


「見るなよ」


「見てない!」


「今すごく見ようとしてる顔だったぞ」


「違う!」


「レオン様」


 突然。


 すぐ横からルミナの声。


「うわああっ!」


 俺は本気で飛び上がった。




 見ると。


 湯船の外。


 仕切りの向こう側にある通路から、ルミナが顔だけ出していた。


「何してるの!?」


「呼ばれました」


「誰に!?」


「宿の従業員です。こちらの魔力灯に異常があるとのことです」


「普通に歩いて来て!」


「歩いて来ました」


「そういう意味じゃない!」


 アーヴェルが腹を抱えて笑っている。


 兄上も顔を背けている。


 絶対笑ってる。


「ルミナ」


「はい」


「女湯に戻って」


「承知しました」


 顔が消えた。


 しばらくして。


 壁の向こうから。


「レオンさん、大丈夫ですか?」


 エリシアの声。


「大丈夫!」


「すごい声でしたけど」


「何でもない!」


 最悪だ。




 風呂から上がった後。


 みんなで休憩所へ集まった。


 宿が用意してくれた浴衣姿だ。


「おお」


 クラリッサが自分の袖を振る。


「これ動きやすい!」


「浴衣で剣振るなよ」


「振らないよ!」


 ヴィクトリアは帯の形を気にしている。


 カグラは妙に似合っている。


 ルミナは浴衣の構造を真面目に確認していた。


 そして。


「レオンさん」


「ん?」


 エリシアが隣へ来た。


 淡い色の浴衣。


 湯上がりで長い栗色の髪はまだ少し湿っていて、いつもより柔らかく肩へ落ちている。


 浴衣の襟元はきちんと整っているのに。


 普段の制服より身体の線が柔らかく見えた。


 湯上がりのせいか頬も少し赤い。


 帯で細く締まった腰。


 裾から覗く素足と細い足首。


 いつも見慣れているはずなのに。


 今日は妙に大人っぽく見えた。


「……」


「レオンさん?」


「はい」


「また止まりました」


「ちょっと考え事」


「本当ですか?」


「本当」


「ではそういうことにしておきます」


 笑われた。




 休憩所の外には。


 足湯があった。


「ここなら全員一緒に入れますね」


 ソフィアが嬉しそうに言う。


「足だけだけどね」


 俺たちは横一列に座る。


 温かい。


「これいいな……」


「またおじさんみたいなこと言ってる」


 フィオナに笑われる。


「放っておいて」


 隣に座ったエリシアが浴衣の裾を少しだけ持ち上げて。


 白い脚を膝下まで湯へ入れる。


「気持ちいいですね」


「うん」


 湯の中で足を動かしたせいか。


 小さな波が俺の方まで来た。


「冷たっ」


「え?」


「エリシア、こっち水はねた」


「温泉ですよ?」


「そうだった」


 自分でも意味が分からない。


 エリシアが笑った。




「レオン様」


 反対側からルミナが俺を見る。


「現在エリシア様を注視していました」


「やめろ」


「観測事実です」


「恋愛研究は禁止って言ったよね?」


「本日は休暇です」


「休暇だから研究するの!?」


「研究も休暇中です」


「じゃあ言うなよ!」


 みんなが笑う。


 エリシアまで顔を少し赤くして笑っていた。




 その後。


 温泉卵。


 冷たい果実水。


 山菜料理。


 クラリッサとフィオナが卓球のような遊びで本気になり。


 ヴィクトリアが巻き込まれ。


 カグラが意外と強く。


 アーヴェルが全敗した。


「なんで俺だけ!」


「弱いから」


 カグラの一言。


「容赦ないな!」


 笑い声が続く。


 俺も。


 気づけば普通に笑っていた。




 夕方。


 宿の縁側。


 夕日に染まる山を眺めながら。


「今日は楽しかったな」


 俺は何となく呟いた。


「はい」


 ルミナが隣で答える。


「休暇とは有益ですね」


「有益とか考えなくていいんだよ」


「では」


 ルミナは少し考えた。


「楽しかったです」


「……そっか」


「はい」


 それでいい。


 武闘祭。


 古代遺跡。


 管理系統。


 分からないことはたくさんある。


 でも。


 ずっと難しいことばかり考えていたら疲れる。


 たまには。


 友達と温泉に入って。


 飯を食べて。


 くだらないことで笑う。


 それくらいでいい。


「レオンさん!」


 後ろからエリシアの声。


「みんなで写景を撮るそうですよ」


「今行く!」


 俺は立ち上がった。


 この世界にも、いわゆる写真に近いものはある。


 正確には《写景板》と呼ばれる魔道具だ。


 小さな箱型の《写景器》に薄い魔晶板を入れ、正面のレンズを対象へ向けて光属性の魔術を流す。


 するとその瞬間に入ってきた光景が魔晶板へ焼き付き、

 人物や景色をそのまま残すことができる。


 最初に聞いた時は絵画みたいなものかと思ったけれど、

 出来上がったものを見ると完全に写真だった。


 安い写景板だと色が薄かったり少しぼやけたりするらしいが、貴族の屋敷や学院で使われる上等なものなら色までかなり正確に残る。


 魔術師が一人いれば撮影できるので、王都では記念日や卒業式に使う家も珍しくないらしい。


 とはいえ一枚ごとに魔晶板を使うので気軽に何百枚も撮れるようなものではない。


 俺の前世でいうカメラより、少し高級な記念写真に近い。

 だからこそ。


 みんなで並んで一枚残すというのは、この世界でもちゃんと特別なことだった。


 少なくとも今日は。


 世界の秘密なんて。


 明日まで放っておくことにした。


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