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『キモデブニートだった俺が、剣聖スキル持ちの銀髪美少年に転生したケース』  作者: ぷっぷくクリーナー


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第46章 帰還報告

 北部遺跡から領都へ戻った頃には。


 空はすっかり夕焼け色になっていた。


「帰った……」


 屋敷の門が見えた瞬間。


 俺は思わずそう呟いた。


「調査時間は想定範囲内です」


 ルミナが隣で言う。


「そういう問題じゃないんだよ」


 古代遺跡。


 勝手に動く壁。


 二百十三年前の記録。


 世界線識別値。


 今日一日だけで頭に入ってきた情報が多すぎる。


「今日はもう難しいこと考えたくない」


「承知しました」


「本当に?」


「はい」


「じゃあ遺跡の話は禁止」


「分かりました」


 珍しく素直だった。


     


 屋敷へ入ると。


「おかえり!」


 クラリッサが一番に飛んできた。


「どうだった!?」


「ただいま」


「遺跡!」


「まず俺の無事を喜んで?」


「無事なの見れば分かる!」


「合理的だけど寂しいな!」


 その後ろからヴィクトリア。


 カグラ。


 ソフィア。


 アーヴェル。


 フィオナ。


 そしてエリシアもやって来る。


「おかえりなさい レオンさん」


「ああ ただいま」


 エリシアを見ると。


 なぜか少し安心した。


 今日は外出用の服ではなく、淡いクリーム色のワンピース姿だった。


 長い栗色の髪は片側へ流され、普段より柔らかな印象になっている。


 腰の辺りで軽く絞られた服から、裾がゆるく広がっていた。


 胸元もきっちりした学院制服より柔らかな形で。


 椅子から立ち上がった時に白い長靴下に包まれた脚が少し見える。


(……こういう服も似合うんだな)


「レオンさん?」


「何でもない」


「まだ何も聞いていませんよ?」


「……そうだった」


 最近このやり取りが増えている気がする。


 横を見る。


 ルミナが俺を見ていた。


「記録しなくていいから」


「何をでしょう」


「その返し怖いな」


     


「で!」


 クラリッサが机を叩く。


「何があったの?」


「落ち着け」


「魔獣?」


「いない」


「罠?」


「一応ない」


「戦闘は?」


「なかった」


「……」


 クラリッサの勢いが目に見えて落ちた。


「つまんない」


「古代遺跡の調査に何を期待してたんだよ」


「巨大な守護獣とか」


「出なくてよかったよ!」


 カグラが聞く。


「成果は?」


「それはあった」


 俺たちは簡単に説明する。


 北部遺跡は王都を守るための観測施設だったこと。


 王国各地に似た施設があること。


 そのうち一つだけ反応していない場所があること。


 そして。


 二百十三年前にも誰かが施設を調べていたこと。


「二百十三年前……」


 ヴィクトリアが考え込む。


「また同じ年代ですのね」


「うん」


「偶然ではなさそうだな」


 アーヴェルも腕を組む。


「だよな」


 そこだけは俺も同意する。


「それで?」


 フィオナが聞く。


「その昔の人は何してたの?」


「管理者になれって言われて断ったらしい」


「へえ」


 フィオナが俺を見る。


「レオンみたい」


「俺も思った」


     


「他には?」


 エリシアが聞く。


「……ある」


「その顔だと良くない話ですね」


「すごく説明しにくい話」


 俺は少し迷ってから言う。


「施設が俺を確認した時に《前回記録との差異》って表示した」


「前回?」


「俺もそれ聞いた」


「レオンさんは以前そこへ?」


「行ったことない」


「ですよね」


 全員が少し静かになる。


「それから《世界線識別値》って言葉も出た」


 クラリッサが首を傾げる。


「せかいせん?」


「俺も分からない」


「ルミナは?」


「不明です」


「リリアーナは?」


 全員が見る。


「非常に面白い」


「意味を聞いてるんだよ」


「まだ分からない」


 分からない人しかいなかった。


     


 その夜。


 夕食の席で父上へ正式な報告をした。


 父上はしばらく黙って資料を読んでいた。


「なるほど」


「何か心当たりあります?」


「ない」


「ですよね」


「ただし」


 父上が地図を見る。


「北部施設が王都防衛に関係するなら、領主として無視はできん」


「じゃあまた調べる?」


「すぐには動かん」


 よかった。


「王都と学院にも資料を送る」


 セレフィア先生が頷く。


「私も学院側で整理します」


 リリアーナが手を上げる。


「私も」


「あなたは寝てください」


 先生に即座に止められていた。


     


「それより」


 母上が楽しそうに微笑んだ。


 嫌な予感がする。


「レオン」


「何ですか?」


「武闘祭優勝、おめでとう」


「あ……ありがとうございます」


 そうだった。


 遺跡で完全に忘れていた。


「ガレスまで倒したそうね」


「ギリギリですけど」


「立派よ」


 母上が嬉しそうに頷く。


「昔はフィオナの後ろに隠れていたのに」


「それ今言う必要ある!?」


 フィオナが吹き出す。


「懐かしい!」


「笑うな!」


「だって本当じゃん」


 クラリッサが食いつく。


「詳しく!」


「聞かなくていい!」


「昔のレオンってどんなだったの?」


「クラリッサ!」


「子犬に追いかけられて――」


「フィオナ!」


     


 夕食は完全に昔話大会になった。


「レオンったら剣の稽古を嫌がって」


「母上!」


「フィオナが来るなら行くって」


「その話もういいでしょう!」


「かわいいですわね」


 ヴィクトリアまで笑っている。


 エリシアは口元を押さえている。


「エリシアまで!」


「ごめんなさい」


 全然申し訳なさそうじゃない。


「レオン様」


 ルミナが俺を見る。


「何だよ」


「幼少期の行動記録として非常に有益です」


「何に使うんだよ」


「人物理解」


「今の俺だけ見て!」


 笑い声が広がった。


 父上まで少しだけ笑っている。


 ひどい。


     


 食事が終わった後。


 俺は庭へ出た。


 夜風が少し冷たい。


「レオンさん」


 後ろからエリシアが来る。


「どうしたの?」


「少しだけ」


 隣に並ぶ。


「今日は大変でしたね」


「まあね」


「怖くありませんでした?」


「……ちょっと」


 正直に答える。


「知らない場所より」


 俺は少し考えた。


「知らないはずのことを、向こうが知ってる感じが嫌だった」


「《前回》ですか?」


「うん」


 俺はこの世界へ転生してきた。


 それだけでも十分おかしな話なのに。


 さらに自分の知らない過去まで出てきた。


「でも」


 エリシアが俺を見る。


「今のレオンさんが知らないなら、今はそれでいいんじゃないですか?」


「え?」


「分からないことは調べればいいです」


 少し笑う。


「全部を今日知る必要はないでしょう?」


「……確かに」


 すごく普通の答えだ。


 でも。


 今の俺にはその普通さがありがたかった。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 しばらく二人で庭を見る。


 屋敷の中から。


「レオーン! 昔の話まだあるって!」


 クラリッサの声。


「ない!」


 俺は即座に叫んだ。


 エリシアが笑う。


 結局。


 世界線だろうが古代文明だろうが。


 今日のところは。


 昔の恥ずかしい話を止める方が重要だった。


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