第41章 学院最強との正式試合
準々決勝当日。
朝から闘技場の熱気がおかしかった。
「昨日より人増えてない?」
「増えています」
ルミナが即答する。
「昨日比で観客数は約一・三倍です」
「何でそんな正確に分かるの」
「計測しました」
「だと思った」
理由は分かっている。
今日の準々決勝では俺とセシリア先輩。
そしてカグラとルミナが戦う。
学院関係者が四人も残っているせいでかなり噂になっているらしい。
「レオン!」
クラリッサが走ってくる。
「絶対勝ってね!」
「昨日セシリア先輩に負けた人が言うと重いな」
「だから言ってるの!」
「なるほど」
「あと本気でやって!」
「それも?」
「当然!」
やっぱり剣士の考えることはよく分からない。
第一試合。
カグラ・ミカヅキ。
対。
ルミナ。
二人が闘技場へ出る。
「ルミナ」
開始前に呼び止めた。
「はい」
「本当に出力気をつけろよ」
「〇・〇三パーセントまで制限しています」
「数字だけ聞いても安心できないんだよな」
カグラが木刀を構える。
「もっと上げてもいい」
「駄目」
「残念」
「何でカグラまで残念そうなの?」
審判が手を上げる。
「始め!」
カグラが動いた。
速い。
今までとは違う。
最初から本気だ。
斜め。
横。
逆袈裟。
三連撃。
その全てをルミナが最小限の動きだけで避けていく。
「……すごい」
ソフィアが呟いた。
カグラの木刀は止まらない。
足運び。
呼吸。
フェイント。
学院で見せていた東方剣術を次々に繰り出す。
それでもルミナには届かない。
「なら」
カグラが低く沈んだ。
一瞬。
姿が消えたように見える。
「っ」
俺でも思わず目を細めるほどの速度だった。
次の瞬間には木刀がルミナの首元へ迫っている。
けれど。
カン。
小さな音がした。
ルミナの剣先が木刀の根元を正確に押さえている。
「捕捉しました」
そのまま剣がカグラの額寸前で止まった。
「……参りました」
「そこまで!」
「勝者 ルミナ!」
大きな歓声が上がる。
カグラは負けたのに少しだけ笑っていた。
「楽しかった」
「私も有益でした」
「またやろう」
「承諾します」
「学院ではやめてくれ」
俺が割り込む。
「どうして?」
二人同時だった。
「建物が心配だから!」
そして次。
「レオン・アルセリア!」
呼ばれる。
俺は立ち上がった。
「レオン様」
エリシアが小さく拳を握る。
「頑張ってください」
「ありがとう」
「怪我だけはしないでね」
ソフィアも心配そうに見る。
「善処する」
「善処では困ります」
「はい」
ヴィクトリアは腕を組んだまま言う。
「ここまで来たのですから無様な試合は許しませんわよ」
「応援だよね?」
「当然ですわ」
アーヴェルが笑う。
「行ってこい」
「ああ」
俺は闘技場へ出た。
向こう側からセシリア先輩が歩いてくる。
昨日と同じ白いシャツ。
細身の黒い乗馬用パンツ。
長い脚を包む黒いブーツ。
淡い灰金色の髪は今日は後ろで一つにまとめていた。
いつもより顔がはっきり見えるせいか改めて思う。
この人は戦闘の話さえしなければ本当に綺麗なんだよな。
剣を構えるため身体を横へ向ける。
無駄のない姿勢。
脚から腰。
肩。
そして剣先まで。
一本の線みたいに繋がって見える。
近づけば冷たい森と革を思わせる淡い香りがした。
「レオン」
「はい」
「今 何か別のことを考えていました?」
「考えてません」
「そうですか」
危ない。
剣聖以前の問題で負けるところだった。
「ついにですね」
先輩が微笑む。
「そんなに俺と戦いたかったんですか?」
「はい」
「即答……」
「学院で初めて剣を合わせた日から」
先輩が剣を抜く。
「あなたがどこまで強いのか ずっと知りたかった」
空気が変わった。
さっきまでの柔らかな雰囲気が消える。
俺も剣を構えた。
《剣聖》が静かに視界を広げていく。
「始め!」
瞬間。
金属音が響いた。
「っ!」
速い。
分かっていた。
それでも正式試合のセシリア先輩は学院での模擬戦より明らかに速かった。
二撃。
三撃。
四撃。
全部が急所寸前を狙ってくる。
「本気ですね!」
「当然です!」
受ける。
流す。
避ける。
反撃する。
先輩が紙一重でかわした。
一瞬だけ嬉しそうに笑う。
「やはり」
「何です?」
「これです」
「何が!?」
「私が見たかった剣!」
さらに速度が上がる。
「戦闘狂すぎる!」
十合。
二十合。
三十合。
観客席はいつの間にか静まり返っていた。
響くのは剣の音ばかり。
俺も少しずつ余裕がなくなっていく。
(強い)
純粋な剣技ならこれまで戦った学生の中で間違いなく一番だ。
こちらの癖まで試合中に覚えている。
同じ動きを二度使えば三度目には対応してくる。
(だったら)
俺は踏み込む。
先輩が受ける。
そこで力を抜いた。
「!」
剣を滑らせ身体を回転させる。
そのまま側面へ。
けれどセシリア先輩も同時に振り向いた。
「読んだ!」
「そう来ると思いました!」
「本当に!?」
剣同士が激突する。
そのまま押し合った。
顔が近い。
先輩の青灰色の瞳は完全に楽しんでいる。
「レオン」
「何です?」
「もっと」
「はい?」
「もっと速くできますよね?」
「……」
この人。
やっぱり気づいている。
俺は一度距離を取った。
ゆっくり息を吐く。
「分かりました」
「?」
「少しだけ」
剣を下げる。
「本気で行きます」
セシリア先輩の目が輝いた。
「はい!」
《剣聖》。
予測。
相手の呼吸。
重心。
視線。
筋肉。
全部が一つに繋がる。
一歩。
「――っ!」
先輩の表情が初めて変わった。
俺の剣。
先輩の剣。
二つが交差する。
そして。
カラン。
一本の剣が地面へ落ちた。
静寂。
俺の剣先はセシリア先輩の喉元。
落ちたのは先輩の剣だった。
「……」
「そこまで!」
「勝者!」
審判が大きく息を吸う。
「レオン・アルセリア!」
次の瞬間。
闘技場が揺れるほどの歓声が上がった。
セシリア先輩はしばらく地面に落ちた剣を見つめていた。
「先輩?」
少し不安になる。
怒った?
いや。
この人の場合。
「素晴らしいです」
やっぱり笑っていた。
「今の動き もう一度お願いします」
「嫌です」
「なぜ!?」
「試合終わったから!」
「では学院に戻ってから」
「休暇中です!」
「休暇が終わったら」
「予約しないでください!」
観客席からクラリッサの笑い声が聞こえる。
俺はため息をついた。
でも。
少しだけ嬉しかった。
学院最強と呼ばれていた先輩に正式な試合で勝てた。
転生して初めて剣を握った頃より。
俺自身も少しずつ前へ進んでいる。
そんな気がした。
試合後。
新しい対戦表が貼り出された。
俺は嫌な予感を覚えながら確認する。
準決勝。
《レオン・アルセリア》
対。
《ルミナ》
「……」
横を見る。
ルミナも同じ場所を見ていた。
「レオン様」
「何?」
「出力制限について相談があります」
「まず〇・〇一パーセント以下で」
「まだ何も言っていません」
「先に言っておく!」
どうやら次は。
古代魔導人形と管理者の俺が。
真正面から戦うことになるらしい。




