第39章 勝ち上がる仲間たちと、二百年前のアルトゥス
フィオナとの試合を終えた俺は。
控室の長椅子に座っていた。
「疲れた……」
「身体的疲労は軽微です」
隣のルミナが即答する。
「精神的な方」
「フィオナとの戦闘が原因ですか?」
「それもある」
「では、幼馴染との十年以上ぶりの再戦による感情的――」
「分析しなくていい」
「承知しました」
こいつ。
最近止めるタイミングまで覚えてきたな。
闘技場では二回戦が続いていた。
「クラリッサ・バルシュタイン!」
「はい!」
相手は辺境騎士家の青年。
一回戦とは違い、かなり腕が立つらしい。
「始め!」
ガンッ!
「うおっ!?」
開始三秒。
青年が後退した。
「押してる……」
「クラリッサ、力強いからね」
エリシアが苦笑する。
そのまま五合。
十合。
最後は。
「せえええい!」
大剣による横薙ぎ。
相手の剣が弾かれ。
「参った!」
「勝者! クラリッサ!」
「よし!」
拳を突き上げる。
「次!」
今度はカグラ。
こちらは。
もっと早かった。
「始め!」
一歩。
二歩。
木刀が相手の首筋で止まる。
「……参りました」
「勝者! カグラ・ミカヅキ!」
「速すぎない?」
「相手の呼吸を読んだだけ」
「だけって言うな」
アーヴェルも二回戦突破。
ルミナは。
「出力〇・〇五パーセントへ制限します」
「もっと下げてる……」
相手は槍使いだった。
開始直後。
突き。
ルミナが半歩ずれる。
槍の柄へ人差し指を添える。
「え?」
それだけで。
槍先が地面へ向いた。
次の瞬間。
ルミナの訓練剣が相手の肩に触れている。
「……参りました」
「勝者! ルミナ!」
観客席がざわつく。
「古代魔導人形ってあんなに強いのか?」
「〇・〇五って言ってなかったか?」
「何の数字だ?」
「聞かなかったことにしよう」
俺はそう決めた。
そして。
「勝者! セシリア・ヴァルシュタイン!」
「……」
また一瞬だった。
セシリア先輩の相手は。
領内でも有名な若手騎士だったらしい。
でも。
剣を三度合わせただけ。
四撃目には喉元へ剣先が止まっていた。
「やっぱり強いな……」
「レオン」
いつの間にか隣にヴィクトリアがいた。
「あなた、人の試合になると随分真剣に見ますのね」
「勉強になるから」
「特にセシリア様の試合を?」
「強い人だからな」
「ふうん」
「何?」
「別に」
ヴィクトリアは扇を開く。
今日は観戦用の淡い紺色のドレス。
金色の巻き髪が肩から流れ。
座った時に整えて揃えられた脚まで、相変わらず隙がない。
ふわりと。
紅茶に薔薇を一滴落としたような香りが届いた。
「レオン?」
「はい」
「今、どこを見ていました?」
「闘技場」
「一瞬こちらを見ましたわね?」
「気のせい」
「ルミナ」
「呼ばなくていい!」
三回戦の対戦表が発表された。
俺。
クラリッサ。
カグラ。
アーヴェル。
ルミナ。
そしてセシリア先輩。
全員まだ残っている。
「このまま行けば、誰かとは絶対当たるね!」
クラリッサが楽しそうに笑う。
「俺は嬉しくない」
「私は嬉しい」
カグラ。
「私もです」
セシリア先輩。
「戦闘経験蓄積には有益です」
ルミナ。
「何で俺の周りはこうなんだ……」
アーヴェルが肩を叩く。
「諦めろ」
「お前まで言うな」
「レオンさん」
その時。
聞き慣れた穏やかな声。
振り向くと。
セレフィア先生が立っていた。
「少しよろしいですか?」
隣にはミレイユ先生。
リリアーナもいる。
三人とも。
武闘祭を見に来た顔ではなかった。
「何か見つかったんですか?」
「はい」
セレフィア先生が小さく頷く。
「ルミナさんもお願いします」
闘技場裏の休憩室。
机の上に古い紙が広げられる。
「二百十三年前の記録です」
リリアーナが指差す。
《旧王国時代 封鎖施設》
そして。
《王都第二管理系統との接続を確認》
「やっぱり王都地下と繋がってる……」
「問題はその下です」
セレフィア先生がページをめくる。
そこに。
一つの名前。
いや。
姓だけが残っていた。
《調査責任者――アルトゥス》
「……アルトゥス?」
一瞬。
銀髪。
灰青色の目。
あの異常なほど強い男が頭へ浮かぶ。
「シオン・アルトゥス」
「同じ姓です」
ミレイユ先生が珍しく真面目な声で言った。
「ただのご先祖様かもしれませんけどねー」
「二百十三年前……」
ルミナが古文書を見る。
「記録形式を解析します」
数秒。
「これは写本ではありません」
「つまり?」
「当時、その場で作成された原本である可能性が高いです」
部屋が静かになる。
「アルトゥス家の記録を調べればいいんじゃ?」
俺が言うと。
セレフィア先生が首を振った。
「それが」
「?」
「王国貴族名鑑にも、騎士家系譜にも」
一拍。
「アルトゥスという家名が見当たりません」
「……え?」




